想像と全く違っていた。もっと練習らしい練習をするのかと思っていたが、ディフェンスがゆるいピックアップゲームのみしか行われていなかった。しかし、これ以上のものはなかった!選手たちの表情は一様に明るく楽しそうで、「ああこれがバスケットボールを楽しむということなのか」と納得させられた。
「50代の現役バスケットボールプレイヤー」のTさんに誘って頂き、越谷市某所の練習に参加してきた(http://stay.pinoko.jp/index.html)。
参加者は中学生から30代が中心で、中にはT氏のように50歳以上の選手もいた。T氏は自ら「バスケットボールホリック爺」と称するほどで、バスケのことについて一度語りだすとまさにアンストッパブル!!特に、小学生から高校生くらいまでの若手選手の育成については確固たる哲学が感じられた。
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そんなT氏が主催しているバスケットボールの集まりは、もっと「教育的」なものではないかと想像していた。つまり、ハンドリングやフットワークなどの基礎トレーニングに始まり、組織的な動きなども確認していくというような練習だ。
また、組織を乱すようなプレイに対しては、叱責や修正が加えられるものではないか、と。それが強いチームの作り方だろうし、バスケットボールに対して熱い気持ちを持った指導者のやり方なのだろうと漠然と考えていたのだ。
しかし、実態は全く違っていた。ピックアップゲームのみで、基本的には何も教えないし、指摘もしない。アップメニューを含めて定型的な練習はなし。上手い選手もまだ成長過程の学生もいたが、みんな自由にのびのびとバスケをしていた。一見無謀な1on1や無茶なシュートも時折見られたが、それでも誰も注意しない。これは当たり前のようにも思えるが、実際には珍しいことだ。
「マークを良くみろよ!」などと叱責されたり、ひどい場合には「おまえは撃つな」と怒られる場合もある。かくいう自分もボールを離さないタイプのドリブラーに「邪魔だ、どけ」と言われたこともある。バスケの練習中に怒り続けている人を見かけることは結構な頻度であるのだ。
今回の越谷の練習では、年配の方もいればコーチをしているような人もいた。でも、誰も怒らない。だから、みんな実に楽しそうにバスケをしていた。また、プレイも型にはまっていなかった。一つには、必ずマンツーマンディフェンスをするという決まりがあったせいなのかもしれない。
1対1で勝つか負けるかが非常に重要視されていた。また、相手が格上であっても積極的に仕掛けていける雰囲気があった。1人抜けばシュートまで行ける場面ならば、みんな躊躇なく仕掛けて行く。ヘルプがいる場合は崩して行く場合もあるが、そのやり方もシンプルだ。気持ちの良いオフェンスがテンポ良く展開されていく。
それはスコアにも現れていて、10分ゲームで30~40点程度取りあうことが殆どだった。シュート成功率が非常に高い。みんな思い切りが良いせいなのだろう。自信を持って自分の形でシュートをしていた。ここでは、オフェンスを仕掛けていける回数が多いので、色々な形を試せる。
さて、ぼく自身はどうだったのかというと……
まず、基本的にどの選手に対しても「ディフェンス不能」だった。みんな速すぎるし上手すぎる。1試合目にマークした“薬学系男子”はあまりの速さに目で追うことすらできない始末。その彼が、トップやや右でドリブルを着き始めたので、よし止めてやろうと思い腰を沈めたところ……
ヒュッ ダムッ
と、音がしたと思ったら、目の前から消えてなくなった。あまりの速さに驚いて「うおっ」っと声を出してしまった。恥ずかしい……
いつもやるバスケは2-3で守ることが多い。そのため必ずインサイドにヘルプがいる。結果、アウトサイドからドライブインを仕掛けて行く場面は限られる。マンツーマンの場合でももちろんヘルプは飛んでくるのだが、このバスケは2線、3線までは厳密なディフェンスをしない。もちろんやる人もいるが、徹底はしていない。そのため、1線での争い-1on1-が非常に重要なのだろう。
指導者の中には、オフェンスをシステマティックに組んで、システムから外れた場合に叱責するというケースもある(はず)。しかし、組織的なオフェンスが成功しなかった場合、フリーランスなオフェンスに切り替える必要がある。チームとして、選手として、そういうオプションがあったほうが強いに決まっている。
そして、こういった場所で育ってきた選手の仕掛けには全く対応できない。なんじゃあれは……その“薬学系男子”をマークした試合は2回あったが、彼のシュート成功率は8割近かったのではないだろうか。その後色んな選手をマークすることになったが、Nobody can be stopped by me!!!!(誰も俺には止められねぇ!)という状態。
身長的には明らかにミスマッチな相手でも、みんな軽やかに抜き去っていく。かといって空けると手堅く外から決められてしまう。今までいかにヘルプに頼っていたかを痛感した。ぼくが抜かれなかったのは、後ろにいる誰かさんのおかげだったのか、と。
その後も高校生にけちょんけちょんにやられ、29歳のバスケットボールコーチには一切何も通じず、謎のメガネ男子にも楽々とスリーポイントを決められてしまった。ディフェンスが成功しないのは衰えたりブランクがあったりするせいではなく、今まで個人技で勝負するバスケをしてこなかったせいだ。だから戦えないのだ。
1on1の上手さだけじゃなくて、みんなスクリーンの使い方やパスランがとても上手。非常に効果的な動きをして隙間ができるとすぐに高精度のシュートを撃ってくる。そういう意味でも対応できていない。
一方オフェンスはというと……
そこまでタイトには付かれないし、鬼のヘルプが飛んでくることも少ない。ドリブル一つを突く隙間はある。下手クソなので空けられていたという可能性もあるが、ここのバスケの基本的なスタイルは1on1を仕掛けさせてそのうえで止めて行く形なのだろう。だから、ドリブル一つは突けるし、抜いていくこともできる。そして1on1を仕掛けていっても良い雰囲気もある。よーし……
と、果敢に仕掛けては粉砕してきた。主には自滅型のシュートミスだったのだが、酷い止められ方をした場面もあった。得意のミドルレンジで、相手は自分よりも小さい細身の中学三年生(二日後に高校一年生)。ワンフェイクを入れて、ワンドリブル&ジャンプシュート!!
1番得意なプレイだ。マッチアップはシュートフェイクに軽く反応していたのでこれは決まった、と思った。しかし、なぜかブロックを喰らう。うそーん……成功率は落ちたとはいえ、そんなにブロックされるようなものじゃないはずなんだけどな……
何度か無謀な攻めをして失敗したこともあったが、誰かに舌打ちされたり非難されたりということは全くなかった。悪いプレイは「自分でわかるよね?」な感じ。一方でいくつかいいプレイがあった。
やはりミドルレンジからの駆け引きで、ワンドリジャンパーが成功したケース。ポストからターンアラウンドジャンパー、と見せかけて強くステップインしてのレイアップ(自分的にはドリームシェイクのつもり)、などなど。そういうのが成功すると「おー うめぇ!」という声があがる。なんか嬉しいぞ。これだけミスばかりしたのに惨めな気持ちにもならずに楽しさと嬉しさでいっぱいになったことは、未だかつて一度もない。なんと雰囲気が良い場所なのだろうか。
後でT氏にお話を伺ったところ「ああせい、こうせい」「あれは駄目だ。これは駄目だ。」というような教え方は一切していないらしい。教えるというのは、何かを強制することじゃなくて、子供の持つ良いところを引き出してあげること。そのためには、まずはバスケを好きになって楽しんでもらうことが一番。
楽しんでいるうちに自分で工夫していくようになる。だから、細かいことを言わずに、好きなようにプレイすればいい。大人の仕事は良いプレイを誉める、それだけだ、と。
その時私は、スラムダンクに出てくる「豊玉の元監督北野さん」を思い出した。楽しんでやってくれたらええ、そのほうがバスケを好きになってくれると言った人だ。
バスケの指導を越えたとてつもなく良い話を聞かせてもらったような気がしてならない。この考え方は、今ぼくが考えている研究生活論や高等教育論にも通じるところがある。楽しむこと、好きになることを通じて、若者は力を発揮していく。しかし、楽しむのは不純で、苦しみの先にしか成功はないと考えている人たちもいる。そして、そういう人たちの下では苦しみに苦しみ抜いている人が大勢いる。これは効率が悪いだけじゃなくて非常に不幸なことだと思う。ありとあらゆる人にとって不幸だ。
もう一つ言及しておきたいのが、その場に来ていた学生たちの礼儀の正しさ。まず挨拶ができる。前まで来て、足を止めてぺこりと頭を下げて、「こんばんは、よろしくお願いします。」とあいさつをする。オフィシャルや片づけも率先してやる。ゴミが残っているなんてことは滅多にないらしい。
あと、練習前後に輪になってミーティングする場面での集合が非常に速い。私語も殆どない。これは、どう考えてもぼくの周りのバスケットボール環境よりも上質な集団だと言わざるを得ない(集合!と言ってるのに寝そべって集まる気もない選手に何度切れそうになったことか…)。
また、同様に、バスケを練習する環境としても実に上質だと感じた。「出来ることだけやる」バスケではなかなか上達はできない。ここではどんどん挑戦していくことができる。ぼくだって触発されてドリブルからの仕掛けを何度もやってみた(結果、どうなったかは……上に記述していないことから察して頂きたい)。
これほど濃密なゲームをしたのはいつぶりだっただろうか?参加者と話をしてみると「ディフェンスゆるめなんで自由にやってるだけですよ。」などと言うが、こんな良い雰囲気で濃密な練習をやれる場所が他にどれだけあるだろうか。もちろん、上達するためには他にも練習があったほうが良いのは間違いない。
この自由な練習だけでは突き抜けて上手くなるわけにはいかないのかもしれない。しかし、これだけ良い雰囲気の中でバスケの楽しさを感じられること、それ以上の財産はないだろう。
ベタ誉め状態が続いているが、さらにもう一つ。自己紹介をさせて頂く時間があって、突然だったので喋る内容を決めていなかったのだけど、みんな真剣に聞いてくれて大変うれしかった。新参者を場に馴染ませるために時間と労力を割いてくれるのは、決して簡単なことではない。特に長く続いていて、完成している場では。馴染むのに苦労する場所は本当にたくさんあるのだ。常連同士でコチョコチョやっているだけで、新参者は無視されるなんてこともよくよくある。
けど、ここは全然違っていて、色んな人に話しかけて頂いた。また、こちらから話しかけた際も満面の笑みで応えてもらえた。凄い場所だ、と素直に感心した。ありそうで、なかなかない。
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練習前の挨拶は突然だったので、何を話すやらだったのだが、T氏のフォローもあって色々と話すことができた。また、練習後にも再度、全体に向けて話す機会を頂けた。
正直言って、バスケでは負け倒したという気持ちが強かった。
さっぱり勝てなかった。完敗だ。
でも、ぼくには切り札があった。
「私は東京大学大学院で博士課程に所属しています。バスケは見ての通りでしたが…
勉強なら負けません!!!」
小さなドヨメキ。
ふっ
ぼくは、今、
世界で一番かっこわるい……
※大人相手に東大がどうのという話をすることはあまりないのだが、大学受験前の学生相手には言ってもいいかなと思っている。刺激になるし、もしかしたらぼくとの出会いを切っ掛けに学業・学問に対するモチベーションを得る学生もいるかもしれない。しかし、この場合は、1on1で負け倒したという背景があるので、ただのみっともない男でしかない。
ともかく、本当に良い練習ができる場なのは間違いない。場所の関係上毎回行くわけにはいかないが、近いうちにまた参戦しようと思う。次は“禁じ手”の場外乱闘で勝とうとせずに、真っ向から1on1は挑んで勝ちたい。いや、次はまだ無理かな?
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