東大に11年在籍した後、タクシードライバーになりました

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Jリーグ サッカートピック サッカー論

Jリーグ観戦に外れクジはあるのか。味の素スタジアムに燃えたぎる炎。FC東京vs浦和レッズ。

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「サッカー観戦なんか行きたくないよ」

一体どうして?

「だって、サッカーって外れの試合があるでしょ。0-0で終わったりとか、0-4のワンサイドゲームになったりとか。休日を潰してまで外れクジ引きたくないもん。」

確かに。気持ちはわかる。ぼくだって、外れは引きたくないから、映画を観に行く前に評判を調べるようになった。しかし、引かないクジは決して当たらない。外れの試合、つまらない試合もある。酷い試合だと嘆きながら、ビールを飲みつつ憂さ晴らしをすることだってあるのだ。

最も、サッカー観戦に慣れてくると、「試合内容」がいまいちでも、「観戦体験」を楽しむことは出来るようになる。

サッカー観戦は「釣り」みたいなものだ。

釣れる時は最高だが、釣れないときは10時間いてもゴミすら引っかからない。当たりもあれば、外れもある(そしてよく外れを引く)。だからこそ、釣りに行く前の日は、入れ食いの爆釣を想像しながら、ワクワクして眠れなくなるのだ。早朝から車に乗って釣り場を目指し、ギラギラと輝く海を見渡した時には、得も言われぬ高揚感に包まれる。

スケジュールを調整してチケットを買った時から、試合は始まっている。どんな試合になるだろうか。「よっち」はゴールを決めてくれるのか。あの強力な「浦和レッズ」相手に快勝したらどれだけ気分がいいだろうか……

などと、想像している時、既に何かが始まっているのだ。

朝起きてタンスからユニフォームを取り出した時、Twitterのタイムラインを眺め、みんなが今日の試合のことをあーだこーだと語っているのを読んだ時、ユニフォームを着込んで家から出た時。

スタジアムへと向かう電車、段々と青赤のグッズをつけた仲間達が増えてきた時、駅について混雑の中改札を抜けて、スタジアムへの道を歩んだ時。

馬鹿みたいに並んでいる待機列の一番後ろについた時、入場ゲートをくぐった時、その直後に「お土産的なもの」(今回は青赤ウチワ)をもらった時。

スタジアムに入って、空を見上げた時!!

DSCF3358

試合にはもちろん外れはある。「いやー呆れるほどの酷い試合だったね。」と笑うか、誰かに愚痴るしかない日もあるのだ。

しかし、サッカーを観に行くこと、この「ワクワク感」には外れはない。

ぼくらはチケット代を払い、休日の時間を割く。なけなしの時間、なけなしのお金だ。しかも、試合から得られる「楽しさ」は保証されていない。酷い日もある。最低の日だってある。何とも言えない消化不良感に頭を抱えて帰る日もある。雨に濡れてびしょ濡れになる日もある。

だから、面白いのだ。外れの日だって、長い目でみればスパイスみたいなものだ。結果がわかっているようなものを、わざわざ観に行く必要はない。

と、外れの試合であっても楽しめることを書いてきたが、大事なことを付け加えないといけない。


時には、当たるのだ。

2014年、8月23日、味の素スタジアム。
昨年10月以来、42回目のサッカー観戦となった。

その中で、今回の試合はベストスリーに入るような面白さだった。紛れもなく当たりの試合だ。

浦和レッズとFC東京。
この対戦は、白熱した展開になることが多いらしい。もしかしたら、何十年かした頃には自然と「ダービー」と呼ばれるようになるかもしれない。

ぼくは詳しいことは知らないが、長い歴史の中で何度も何度もぶつかってきたらしい。そして、ある東京サポーターから聞いたところによると、その殆ど全ては浦和レッズの勝利か、引き分けに終わったそうだ。

とは聞いていたものの、通算成績を調べてみるとそこまで極端なことにはなっていなかった。FC東京からみて、9勝8分17敗 であった。最も、2004年の12月から現在までの通算成績をみると、2勝6分15敗となっているので、この期間をみると酷く負け越している。

散々な成績といって言えるが、浦和レッズにとってFC東京は美味しそうな「鴨」ではないのだ。サポーターの中には「浦和にだけは負けたくねぇ!」という情念が湧き上がり、それがピッチへ、選手達へと伝わっていくため、決して楽には勝てない相手だという。

そう、そして、こんな歴史も刻まれている。2004年11月3日、国立競技場にて。53236人の大観衆が見守る中、FC東京がPK戦の末に浦和レッズを下し、ナビスコカップを獲得した。

ぼくはその時代のことはよく知らないが、東京サポーターは、そりゃお祭り騒ぎをしたことだろうし、それを目の前にした浦和サポーターとしては、忸怩たる思いがあっただろう。対戦成績が上回っているからといって、満足することは出来ないのではないだろうか。

ちなみに、ナビスコカップはPK戦で決まったのだが、その時のラインナップを今見かえすとなかなか趣き深い。

FC東京のキッカー
ルーカス、馬場憂太、今野泰幸、梶山陽平、加地亮

浦和レッズのキッカー
田中マルクス闘莉王、長谷部誠、田中達也、山田暢久

このメンバーを見ていると胸が熱くなってくる。うまく言葉に出来ず、言葉にすると何時間もかかってしまうような何かのせいだ(そして、サッカー観戦にはその「何か」がとても多い)。もう10年も前の試合だが、ほぼ全員知っている選手だし、半分くらいは実際にスタジアムで見たことがあるのだ。

歴史は間違いなく連続している。歴史の全てを自らの人生として、積み重ねてきたサポーターもたくさんいるのだ。

宿命の決戦だ。ぼくは新参者だから、両クラブのサポーターがどういう心情を抱えているのかはよくわからない部分もあるのだが、ピリピリとした緊張感、試合が近づくにつれて熱くなっていく空気は感じることが出来た。

通算成績は浦和が勝ち越しているが、この日の試合にどちらが勝つのか、誰にも予言することが出来ないのだ。我々は、どれだけ理屈をこねたとしても、ピッチで何が起こるかを「妄想」することしか出来ない。

一体何が起こるのか、最後に笑うのは誰なのか。興味を持ってしまったが最後、我々はスタジアムに押しかけ、歴史の目撃者となることを目指すのである。

刻一刻と歴史が紡がれていくことに気付いてしまったのだ。盲目であることは出来ない。刮目し、見届けるべし!!

2014年 J1第21節 FC東京 vs 浦和レッズ 

今回は、Jリーグ初観戦の友人を誘って2人で観戦した。いつものように2時間半前にはスタジアムに着き、待機列に並び、スタジアムグルメを仕入れる。

味噌だれの豚丼を買うことにした。炭火の香りがしっかりついていた非常に美味しかった。あのトレーラーの中に炭があるのだろうか。

DSC_1400

※暗くてうまく写真が撮れなかったので、これは別の日に撮影したもの。同じお店だったと思う。夏場だからか、温泉卵はなかった。

徐々に涼しくなっていく青赤横丁に佇んでいると、東京サポーターの友人に遭遇した。味スタに来ると必ず誰かしらに出会う。話す内容は簡単であったが、こういう瞬間がとても楽しい。サッカーに関わっていると、仲間が増えるのだ。これほど嬉しいことはない。

ところで、どうして話が簡単に終わってしまったのかというと、お互いが手にしていた「丼もの」が冷めてしまうからだ。そうでもなかったら、今日の試合についてあれこれと話し込んだことだろう。

ぼくらは、丼を手にしたまま、ビールを一杯仕入れて座席に戻った。位置は、バックスタンドの一番ゴール裏寄りの位置。斜め後ろからピッチを眺められる席だ。

この辺りは、ゴール裏の臨場感を味わいつつも、座ってゆっくり見ることが出来る席であり、野次将軍などの迷惑キャラも比較的少ないため、気に入っている。

目の前をみると、土屋礼央さんの観戦ツアーの一行が見えた。ツアーについては詳しくは土屋さんのオフィシャルブログにて。

土屋さんはトラメガを片手に、グッズやスタグルの買い方、観戦マナー、そしてブーイングまで丁寧に教えていた。流石だ。試合はたまたま当たりだったけど、ああやって丁寧にやってもらえたら、来た人はサッカー観戦を好きになってくれるのではないだろうか。

さて、いつものように、試合前の「名乗り」(選手紹介)が行われ、試合が始まる。今日はブーイングも一段と強い。

序盤に、浦和レッズの梅崎が見事なシュートを決めた。最初の10分は、寄せが弱かったのか、浦和がゴール前のスペースを自由に使っていた。これはやられそうだと覚悟した矢先に、ずばっと決められてしまった。

点は決められてしまったが、意気消沈するわけにはいかない。そういうときこそ声を出すのだ。先制点を取られて、サポーターが静まってしまったら、もう半分が負けが決まったようなものだ。逆に言うと、サポーターの心が折れないうちは、試合は決して終わらない。負けそうになった時こそ本気を出す。俺たちは、これ以上ないほど大きな声を送った。

するとわずか3分後に、コーナーキックから高橋秀人(東京)がヘディングで見事なゴールを決めた。

そこからは、激しい撃ち合いが始まった。立ち上がりゆるかった東京のディフェンスが、何がどうなったのか、理屈はよくわからないが上手く機能し始めた。浦和の攻撃を中盤でカットし、カウンターに繋げはじめた。

15分には武藤嘉紀(東京)、通称「よっち」がディフェンスの脇をスルリと抜けてラストパスをもらい、見事にゴールを決めた。このゴール!!!

よっちがこういうゴールを決めたシーンを1ヶ月前くらいに夢にまで見たことがあるのだ。「よっち」は、ゴール前で1対1になるところまではいいものの、シュートを外したり、迷っているうちに消極的な選択をしてしまたりするなど、決定的な怖さがなかった。しかし、ワールドカップによる中断が終わり、何か転機があったのかもしれない。弾けるように得点を量産し始めた。

こういうゴール、今まで何度も決められそうな場面はあったはずだ。これを確実に沈められるようになると……東京の「よっち」はどこまでいくだろうか。代表に選ばれて、海外に移籍してしまうなんてことになると、正直かなり寂しいのだけど、それはしょうがないことなのかしら……

などと気の早いことを考えてしまうくらい今の「よっち」は乗っている。

オレーオレオレオレ- よっちー よっちー
オレーオレオレオレ- よっちー よっちー

これでいいのか!と突っ込みを入れたくなるちょっとゆるめの「よっち」の応援チャントが味の素スタジアムに響き渡っていった。

前半で3-2とFC東京がリードして折り返した。
取られては取り、取っては取り返される。得点が入る度にスタジアムは、大歓声に包まれ、ヒートアップしていった。俺たちは、大声を出して選手を鼓舞し続けた。

あまりにも白熱した展開だったため、ぼくの声は前半のうちにすっかり枯れてしまった。まさかバックスタンドで声が枯れるとは思わなかった。後半に入るときには、少し喉が痛くなっていた。

それでも、黙って座っていることなんか出来なかった。スタジアムの熱狂は、ぼくの心を隅まで満たしていた。血が熱くなっていくのがわかる。試合の展開は白熱し、サポーターの大声援が、試合に鮮やかな彩りを加える。

サポーターとは何だ。
それは、試合の華だ。

サポーターがいるからこそ、スタジアムには行く価値があるのだ。時には問題も起こるが、そういったものはちゃんと片付けて、この素晴らしき世界を守らないといけない。

河野のパスから、「よっち」が素晴らしいゴールを決めて、GKの西川を悔しがらせた時、FC東京は4-3で一歩リードした。約30分、守り切れば勝てる。しかし、このままでは終わらない気がする。何が起こっても可笑しくない試合なのだ。

案の定、李忠成がPKを獲得し、それを見事に決めてきた。4-4、同点だ。ここからは綱引きみたいなものだ。どちらのチームも酷く疲れているし、サポーターの声だってガラガラになっている。しかし、ここで一歩でも引いたほうが敗者になることは明白だ。。

そんな中、浦和レッズのとんでもない決定機が何度か訪れ、FC東京は必死にボールを掻き出した。逆に、FC東京も惜しい攻めを何度も見せる。

試合終了まで、もう少し。アディショナルタイムに入ろうという時であった。まだ、浦和のゴール裏は「プライドオブウラワ」を歌っていなかった。この曲は、とても不思議な曲だ。優しく穏やかなメロディながら、聴いている者に力が湧いてくる。

今日はやらないのかなと思っていると、アディショナルタイムに入ったところで突然始まった。もしかしたら、本当の勝負所は、アディショナルタイムになると踏んで、最後の最後まで取っておいたのかもしれない。

この辺のさじ加減はよくわからないが、ともかく「プライドオブウラワ」が始まった。すると、浦和のゴール裏から飛んでくる音の量が、跳ね上がった。そういう曲なのだ。東京も負けてはいられない。俺たちの魂をピッチに届けるのだ。

東京のゴール裏と、浦和レッズのゴール裏から、声の塊が飛んでくる。そこに込められた強い思い、それは愛としか呼びようのない不思議な感情だ。決して相手に対する憎しみではないと思う。もちろん、ラフプレイなどに対してはブーイングすることもあるだろうが、それは自軍への愛ゆえの闘争であって、薄っぺらい中傷ではない。濃厚な感情がピッチの上でぶつかっていく。

アレオー アレオー アレオレ アレオー

おお 俺の東京 今日も行こうぜ 勝利目指し

アレオー アレオー 俺たちの浦和レッズ

行け行けよ 東京 今日も俺らがついてるぜ

浦和レッズ 浦和レッズ 浦和レッズ 浦和レッズ

誰が何と言おうと 周りを気にするな

浦和レッズ 浦和レッズ プライドオブ浦和レッズ

自分を信じていれば 勝利はついてくる ……

オオオ オオオ オオオオオオオオー ……

ぼくはFC東京サポーターだが、浦和レッズのことはとても好きだ。そのへんのややこしい事情は、拙著「サポーターをめぐる冒険」に書いたので、ここでは割愛する。東京サポーターの中でも、「浦和が大嫌い」という人がいる一方で、「最初は東京にチームがなかったので、浦和を応援していたから今でも好き」とか「友達が浦和サポーターでたまに埼スタに遊びに行く」とかいう人もいる。

浦和のサポーターには確かに問題児もいるようだし、運営の面においても100点とは言いがたいようだ。しかし、サポーターの真っ直ぐさ、愛情の強さは素晴らしいものがあると思う。色々あったから、そりゃ悪い点もあるのだろうけど、良い点についてはそう簡単には真似できないもの凄いものなのだ。

「誰が何と言おうと、周りを気にせずに、自分を信じて、勝利を目指し続ける」 FC東京が歌い上げるイメージと、浦和のサポーターの姿は、そう遠くないように思うのだがどうだろうか。この点については賛否があるだろうし、合意を求める必要もない。

両軍が魂を込めたチャントを歌った最後の5分間、ふとそう思っただけのことだ。あの時、熱い何かが目から湧き上がっていった。何だかもうよくわからない。一体どうして、サッカーというものはこんなにも感情を掻き立てるのか。

最後の最後で、徳永が猛烈な仕掛けからクロスをあげ、そこにエドゥーが足を伸ばした。しかし、わずかに遠かった。ラストチャンスを逃すと、4-4の同点のまま試合終了となった。

試合の詳細については、スポナビに動画付きの良い記事があがっていたのでこちらをご覧頂きたい。

「計8発の乱戦となったFC東京vs.浦和 ゴール映像と選手解説で試合を振り返る」

引き分けではあったが、最高の試合であった。当たりだ。

配当金はとても大きかった。2日経った今でもあの時の興奮で、拳を握ってしまうくらいだ。しかし、勝つことはできなかった。引き分けだ。もし、勝っていたとしたら、どうなっていただろうか。

初めてJリーグを観戦した友人は、とても楽しかったし、また来たいと言っていた。「なんだか知らないけど、青赤がいい色合いに見えてきた」などという狂った発言もするようになっていた。

友人は初観戦で当たりくじを引いた。しかし、彼が得た配当金は、ぼくが得たものよりもはるかに小さい。友人は数千円を得たかもしれないが、ぼくは数万円を得たようなものだ。

外れの試合もそりゃあるだろうけど、こういう機会にまとめて帰ってくるのだ。あるクラブをずっと見続けていれば、決して大損はしない。必ずどこかで収支が合うようになっている。


試合後は、「東東京からFC東京を盛り上げよう」をスローガンに掲げるペーニャで酒を飲んだ。ペーニャとは、大雑把に言うとFC東京ファンの「サークル」のようなもので、クラブには設立の届け出をしているらしい。

開催場所は、飛田給より京王線、新宿から都営線にのり数十分。東京の東、正真正銘のぼくの生まれ育った街だ。幼い頃遊んだことがある猿江恩賜公園の当たりでは、かつて東京の選手達が練習していたらしい。

ホルモン屋でマルチョウを焼いていると、テレビで今日の試合のハイライトが流れた。美しくも力強いあのゴールが流れると、俺たちは自然と歌い始めた。

オレーオレオレオレ- よっちー よっちー
オレーオレオレオレ- よっちー よっちー

東京について、サポーターについて、サッカーについて熱く語りすぎて見事に終電を逃してしまったが、このくらいの距離なら何とか歩いて帰れるから大丈夫だ。

東京、東京、眠らない町
江戸川は、ぐっすり眠る町
オオオー

などと替え歌を呟きながら、夜風に吹かれて帰途に就いた。


FC東京と浦和レッズの対戦。
この先何試合観ることが出来るだろうか。
一試合も見逃したくないな。

外れを恐れる者は、永遠に当たりを引くことが出来ない。

何故、外れを恐れずにクジを引けるのか。

万一外れても、いつか帰ってくることを知っているからだ。

それに、共にサッカーを愛し、共に酒を酌み交わし、熱く語り合える仲間と過ごす時間は、最高の大当たりだからだ。

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