2013年J1第30節、鹿島アントラーズvs川崎フロンターレを観戦してきた。
川崎フロンターレは風間監督が指揮する攻撃的なチームでいつかじっくり観戦してみたいと思っていたチームなのだが、最初の10分くらいを除くとほとんどいいところがなかった。次の観戦機会に期待したい。
試合は4-1で鹿島アントラーズの勝利。
カシマサッカースタジアムにおけるJリーグ観戦ガイド
前のレポートでは試合前が中心で、カシマスタジアムにおけるサッカー観戦については書いていなかったので、簡単に紹介しようと思う。
写真を見ると一目瞭然だと思うが、「綺麗」で「見やすい」。連れて行ってくれたひろさんによると、カシマスタジアムは日本一サッカーが見やすい場所の一つということだったのだが、確かにとても観戦しやすかった。
トラックがなかったり、近くで見えたりするのも大事な要素だが、それ以上に不思議な一体感が感じられた点も重要だと感じた。
ともかく、カシマスタジアムは景色も素晴らしく良くて文句なしに気持ちがいいスタジアムだった。
さて、試合開始前になると、ゴール裏のあたりが騒がしくなってくる。すると、チェ・ゲバラを思わせる赤と黒で描かれたジーコの肖像が現れた。
鹿島アントラーズというのはあまり上品なチームではないのかもしれない。これが最初のイメージだった。ドクロの旗が振り回され、チェ・ゲバラといえばアルゼンチン生まれの革命家で、キューバーではゲリラの親玉として戦い続けた。
Jリーグの応援は、もう少し品がいい感じなのかと思っていたので、ちょっと面を食らった。まるで戦争のようだ。
ところで、鹿島アントラーズは強豪クラブと言われているのだが、実際にはどのくらい強いのだろうか。
鹿島アントラーズは日本最強のクラブ?!
現在Jリーグ最強のチームは決められるのか。
これはなかなか難しい問いだ。Jリーグは、各チームの予算に大差がない。戦力は拮抗している。どのチームが優勝するのか終盤までわからない。
一方、海外ではシーズンの半分が過ぎたあたりで優勝チームがほぼ確定してしまうリーグだってある。これはJリーグのエキサイティングな側面だろう。
では過去20年間、国内で最も実績を出したチームはどこなのか。聞いてみると、それは断トツで鹿島アントラーズらしい。帰宅してからWikipediaで調べてみた。
参照 wikipedia 日本プロサッカーリーグ
調べてみると、アントラーズは圧倒的だった。リーグ優勝7回はぶっちぎりの1位。天皇杯もナビスコカップもアントラーズがNo.1だ。
国内におけるタイトル数21というのも2位のヴェルディに倍以上の差を付けて圧勝している。
ライバルチームなのかと勝手に思っていた浦和レッズを見てみると、リーグ優勝1回、タイトル数は5つと鹿島アントラーズとは大きな差がついている。
ぼくがぼんやり応援し始めたFC東京はリーグ優勝は0で、タイトル数も3に過ぎない(といっても国内10番だからそこそこの位置ではある)。
浦和とガンバは国際大会であるACLで優勝しているという強みはあるが、国内では鹿島の一人勝ちというのが現状のようだ。強い。
ところで、プレミアリーグでは、マンチェスターユナイテッドはどのくらい勝ってただろうか。調べてみたら、ここ20年でリーグ優勝は7回、FAカップ4回など併せて23個のタイトルを獲っている。カップ戦の詳細などを知らないので、ちゃんとした比較にはならないが、鹿島アントラーズはマンチェスターユナイテッドくらい勝っているというイメージを掴むことができた。
計算すると20年間で国内タイトルの4分の1を占有しているのだから、紛れもない強豪チームだと言える。一方で、金満チームかというとそうでもなくて、浦和や名古屋のほうが在籍規模が大きかったはずだ(こういうデータも手元にまとめておかないとね)。
鹿島アントラーズが強い理由は、ジーコが植え付けた勝者のメンタリティによるものなのか、質の高いブラジル人選手によるものなのか。そのへんの実態はよくわからないものの、鹿島アントラーズの試合を見ていて感じたことが一つあったので記しておこうと思う。
スポンサーリンク
鹿島アントラーズに撤退の二文字はない。ロールとゴール鹿島について
「鹿島アントラーズは逃げない。戦い続け、勝利することを本能としている。」
試合を見ながらこんなフレーズが頭に浮かんだ。帰宅した後「アントラーズは逃げない」という言葉が頭に浮かんだ、何故だろうかと考えてみるがよくわからない。
しかし、カシマサッカースタジアムでJリーグの試合を観戦した後、アントラーズの応援の音が頭から抜けなくなった。印象的なスネアの音と地響きのような声は、日ごとに大きくなっていった。5日が経った今もその音が頭から消えない。
ふと気付くと、「ドコドコドコドコドコドコ ォォォオオオオ」という例の調子が頭の中で繰り返される。何度も何度も繰り返される。
FC東京のチャントを聞いた時とは少し違う感覚だった。青赤チームの応援は、愛情や優しさを感じた。しかし、鹿島アントラーズの応援からは全く違うものが感じられた。なんだろうか、これは。
この胸をざわつかせる違和感の正体を探し求めて、脳内での格闘が続いた。
同行したひろさんに教えてもらったのだが、鹿島アントラーズのチャント(応援歌)は海外チームの真似をしたものではなく完全なオリジナルらしい。
ドラムスのリズムに特徴があるのだが、ああいう芸当が出来るのは鹿島アントラーズのゴール裏だけとのことであった。
響き渡る太鼓の音、勇ましい声。
ぼくは、かつて好きだったバンド“thee michel gun elephant”を思い出した。あの感じに似ている気がした。
疾走感があるドラムス&ベース。心が動き出すような高揚感。確かに似ている。しかし、同じものではない。決定的に何かが違う。
なんだろうか。思索を深めていく。疾走感は一緒だ。自然と身体が動くリズムがある。
…………
そこで気付いた。
リズムはあるがメロディがないのだ!!
鹿島アントラーズのチャント(応援歌)は、メロディラインとしては幾分か貧相なものだと言えるかもしれない。
FC東京のチャントは、アイドルソングの「サマーライオン」や「ルパン3世のテーマ」などメロディラインがキャッチで親しみやすい曲を使っていた。
一方で、鹿島アントラーズの場合には、「歌う」ための曲ではない。
オオオオオオオオ カシマー!!
ゴール カシマ-!
オーオーオーオー オッガサワラー!!
「オ」、「カシマ」、「ゴール」、「選手名」、これらを抜くと後は何が残るんだろうか?
「この気持ち止まらないぜ」とか「眠らない町東京」みたいなフレーズは殆どない。
サポーターが作ったものと思われるチャントが載っているページからじっくりと聴いてみる。
録音が良すぎて現場の臨場感は伝わってこないが、雰囲気はわかる。
ロールという曲とゴール鹿島という曲が非常に印象的だった。現場で聞くと凄い迫力があった。
これらを、聴いているとちょっと不安になってくるのに気付いた。安心するとか心地よくなるという種類の音楽ではない。胸の底をかき混ぜられるような気持ちにさせられる。
しかも、「ゴール鹿島」に至っては途中で転調する。せっかく疾走感が与えられた後に、スローなテンポに転調するのは、ぼくとしてはちょっと納得がいかなかった。スキップして動き出したいのに、「駄目だ、落ち着け!」と大声で制止させられたようなものだ。
この音楽は、相手チームを不安にさせる効果があるのだろう。
と、同時に、相手チームを威圧するという効果もあるだろう。
鹿島アントラーズのチャントはいつ始まるかわからない。何も音がない静かな時間が訪れる。その間は、相手のチャントが鳴り響く。
しかし、相手がミスをしたり、攻め損なったり、ちょっと意気消沈したようなタイミングになると、突然勇ましく太鼓の音が響きはじめる。
心理的な圧力が強い。
けど、これだけではない。
不安は、味方をも襲う。
チャントに「不安」という要素がある以上、不安を感じるのは相手チームだけではない。アントラーズの選手だって「不安」を感じるのではないだろうか。
不安。
これは野生の生物の感覚だ。ジャングルの中、猛獣だらけの平原、あるいは戦場に立たされた時、生物は不安に駆り立てられる。
生きるか死ぬか、生きることを選んだならば決断しなければいけない。戦うか、それとも逃げるか。
試合の終盤など本当に苦しい時間帯になると、足を止めて休みたいという心情が生まれてくるだろう。しかし、このチャントを聴くと本能的に「不安」を覚え、選手達は闘争か逃走を選択することを迫られる。
一般に、闘争と逃走を行う場合には、アドレナリンが分泌され、普段よりも強い力を発揮することができる。鹿島の選手達は、必ず戦うことを選択し、一層勇猛になって戦闘を続ける。
何故なら、鹿島アントラーズの選手達には逃げ場はないからだ。
ドクロマークの旗を振り回すゴール裏は、ある意味では選手達を威圧しているように、ぼくには思えた。
「逃げ出すようなものは鹿島アントラーズの戦士ではない」
そういう気配が感じられた。これはぼくだけの感覚だろうか。あるいはサポーターが意図して作っているものだろうか。それは誰に聞いてもわからないことなのかもしれない。とにかくものすごい応援だ。
アントラーズの選手達には退路はなく、12番目の選手達が立ちふさがっている。前に進み、死線を切り拓くしか生き延びる手段はない。
選手達を戦場に駆り立てるための応援、ウォークライ型とでもいうのだろうか。鹿島アントラーズのゴール裏はそういう雰囲気だった。
FC東京の場合は、「ミスしても大丈夫だ、俺たちがついている!」という優しい雰囲気の応援だった。こっちは、支えるための応援。元気球型とでも言うべきだろうか。
鹿島アントラーズとFC東京の応援は正対照なのかもしれない。
鹿島アントラーズのゴール裏はまるで野戦基地だ。チェゲバラ風のジーコは出てくるし、ドクロの旗は振られているし、戦場へと駆り立てるドラムスが響き渡っている。
鹿島のゴール裏では歌って踊って楽しむことはできない。戦いを鼓舞し続け、勇気なきものを決して許さない。
唯一キャッチーさが感じられたチャントは大迫のものだった。試合中なんども大迫のチャントばかりが繰り返されていたのは、もしかしたらこの曲だけが唯一救いが感じられる曲だったからではないだろうか。
「不安」と「闘争」についての考察については、まだ自分の中でしっくりいっていない部分もあるのだが、思考過程として残しておく。
スポンサーリンク
2人のボランチ 小笠原満男と柴崎岳
鹿島アントラーズのボランチとして、かつて日本代表としてプレイしていた34歳の小笠原と、遠藤の後継者と言われることもある21歳の新星柴崎岳が並んでいる。
小笠原に対する、アントラーズサポーターからの支持は絶大だ。ユニフォームも大迫と小笠原が一番多かった。
小笠原のチャントは試合中に何度も響き渡っていた。強く尊敬されているのが感じられた。
小笠原にはそれだけ尊敬される理由があるのだろう。もしかしたらそれは、戦闘的な本能を持つ鹿島アントラーズというチームで、決して逃げることなく勇敢に戦い続けて来たことの証なのかもしれない。
もしそうだとしたら、最高に格好いい。鹿島サポーターの姿勢も、小笠原満男という選手も。
一方で、柴崎岳はぼくでも知っていたくらいなので、有名で実力がある選手のはずだ。しかし、まだ個別のチャントはないらしい。
これは「もっと戦い抜いて、勇気を示してからじゃないと特別扱いはしない」という意思表示なのかもしれない。
(それはそうとして、大迫はなんであんなに人気なんだろう?)
エンターテイメントとしての鹿島アントラーズ
最初のうちはドクロと太鼓にやや引き気味だったのだが、カシマスタジアムで過ごしているうちにその戦闘的な姿勢が好きになってきた。
戦闘的といっても、ドクロの旗を振っている兄さんたちを双眼鏡でじっくり観察してみると、「うへー、落ちそうになっちまったよ、テヘヘ」とはにかんでいたりするのが見えたりする。
姿勢としては戦闘的なのだが、本気で戦争をしているわけではない。そのラインが引かれていれば、ドクロの旗を振り回していようが、野戦基地のように見えようが、エンターテイメントとして成立するし、子供を安心してスタジアムに呼べる。
サッカーは真剣勝負であると同時に、観客も気軽かつ安全に参加できる娯楽でなければいけないと思う。本当に殺されたり、怪我をさせられたり、トラブルに巻き込まれたりというようなことが頻繁にあるようなら、それは娯楽とは言えない。
鹿島アントラーズは戦闘的な姿勢を持っていて、サポーターも真剣に応援しているが、試合前はお祭り気分で食べ物を漁っているし、ビールを飲んだり、景色を眺めたりしながら楽しんでいた。
「来ることが出来れば」日本最高級のカシマスタジアムと相まって、鹿島アントラーズの観戦に行くのは超一級のエンターテイメントと言えるかもしれない。
スポンサーリンク
未来の鹿島アントラーズの姿とは
鹿島アントラーズは戦闘的な姿勢を持つ重厚なチームだった。
今も頭には太鼓の音が響き渡っている。鹿島は確かにアクセスが悪いが、それでも足を運ぶ人が多いのがよく分かる。あそこに2万人近くが集まったのだから、これはなかなか凄いことだ。
さて、最後に未来の話をしたい。
例えば30年後、ぼくは62歳になっている。
30年後の鹿島アントラーズはどうなっているだろうか。その戦闘的な姿勢を崩すことなく、攻撃的なドラムスを叩き、選手を鼓舞し続けているだろうか。
30年後にも、スタジアムには雄叫びが響き渡り、ジーコの肖像画が掲げられ、Spirit of Zicoという弾幕が張られ続けているだろうか。
もしそうならば、これは紛れもなく文化であり、歴史であり、伝説だ。
遠い未来、今スタジアムで太鼓を叩いている人達は、自らの棺に鹿島の旗を入れるかもしれない。その時にも、鹿島のスタジアムでは太鼓の音が響き渡っているだろうか。
遠い未来も変わらず戦闘的意志を貫いている。そういう未来が想像できる。それだけ重厚なチームなのだ。
そして、これを書いた翌日、なんと浦和レッズのゴール裏で観戦することになった。
Jリーグは奥深く、実に興味深い。
サポーターは怖い人たちかと思いきや、思ったよりも友好的だ。
次の試合では、どういう光景が見えるだろうか。
一連のサッカー観戦が一冊の本になりました。この記事も大幅に内容を改訂して掲載してあります。
鹿島アントラーズが勝利をし続ける理由が書かれた本。サッカークラブの経営は、企業経営よりはるかに難しく、そこで結果を出し続けたことは何よりも尊い。
ホリエモンと鹿島アントラーズ取締役事業部長、鈴木秀樹さん、中田浩二さんが語っています。
ゆるく読めるアントラーズあるある本。著者の藤井さんとはお花見でご一緒したことがあります。