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漫画『GIANT KILLING』が神の領域に入りつつあるようだ。【30巻の解説】

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『GIANT KILLING』(ジャイアントキリング)という漫画はご存知だろうか。

かなり有名になってきたので、そろそろ説明も不要かもしれない。

弱小クラブであるETUを率いる監督「達海」が主人公のサッカー漫画で、これまでにない斬新な切り口とスタイリッシュかつコミカルな絶妙な表現力から高い支持を得ている。

歴代最高のサッカー漫画に挙げる友人も多く、それにも頷ける内容となっている。

ところで、最近第30巻が発売された。

ジャイアントキリング(通称ジャイキリ)は、これまでも十分面白かったのだが、30巻を境に別の領域に踏み込んだような気がしている。

別の領域とは何かを説明する前に、物語について整理した上で30巻の内容を紹介する。

ジャイアントキリングをとりまくファクターを整理

前巻までのファクターを大雑把に整理してみよう。

策士達海猛の戦術論 

→戦術を駆使して、強い敵(ジャイアント)を倒すのがこの物語のタイトルの意味であり肝になっている

椿大介の成長物語 

→ サテライト上がりの気弱なプレイヤーが既にU-22日本代表へ選出され活躍するまでになった。かつての達海の領域に迫れるだろうか。
もしかしたら達海日本代表監督編とかの伏線になっていたりして。

イーストユナイテッドトーキョー(ETU)のサポーターの物語

→ 29巻でゴローとスカルズが和解したことによって一段落したように思える。思えばこのサポーター物語が、ぼくがスタジアムに赴いた遠因になっているような気もする。

達海率いるETUの躍進物語

→ ETUと達海の最終目的はタイトルの獲得だということが明らかになる。リーグ戦、ジャパンカップ(ナビスコカップ)、天宮杯(天皇杯)の3つが主なタイトルだが、ジャパンカップは既に敗退。

その他にも広報の永田有里ちゃん物語とかフリーライターの藤澤の物語など様々なファクターがある。

ちなみに2年前に刊行されたものなので、少し情報が古い部分もあるが、この本を読むといかに多くのファクターがあるのかがわかる。解説だけで一冊の本になるのだ。

この本を読めば、ジャイキリの主なファクターについてはだいたい把握することができる。ちなみに北健一郎さんが書いている「フリーライター・藤澤桂はどうやって生活しているのか?」という章は、ぼくにとっては実用書と同様だった。

ジャイキリ30巻の内容を解説する

30巻は浦和に完敗したところから始まる。

ETUは絶不調で、3連敗を喫してしまっていた。

チーム内にも不和が目立つようになり、29巻では達海も今のチームに大して呆れているような描写すらみられた。どんな弱いチームであっても、戦術を駆使して勝利に導いてきた達海のこの態度の意味は何だったのか。

敗北した浦和戦の後、達海はゴール裏のサポーターの目の前に現れた
今までは達海とスポーターがスタジアムで声を交わすシーンはなかったように思う。どういう心境の変化だろうか。

そこで、サポーター達からの力強い励ましの声援を受けることになった。
前巻において、分裂していたサポーターがようやく一つにまとまったこともあってか、達海やETUを悪く言うサポーターは誰もいなかった。

「この借りは必ず返す」

達海は、ゴール裏を見据えて力強く言い放った。

次のエピソードは、達海がリフティングをするシーンから始まった。回想シーンを除いて、達海がボールを蹴る描写はこれが始めてだったように思う。

夏の日の太陽が描かれ、蝉の鳴き声が聞こえてくる。爽やかな夏の朝だ。そして、画面はロッカールームの中へと転回していくのだが、ETUの選手達はつまらない言い争いをしていて、空気が重くなっていた。

選手達が外に出ると、フリーキックを豪快に決める達海が目に入った。

後藤GMは言った。

「お前本気で……現役復帰を考えてんのか!? 達海」

達海は、選手兼監督として入団したい意志を伝え、そのテストを兼ねて5対5のミニゲームを行うことを提案した。

スタッフや選手たちは驚いていたが、ジーノだけは何故か賛成で

「タッツミーとプレイするのは楽しそうだから」

と言っていた。

何故、選手として復帰を目指すのかをキャプテンの村越に尋ねられ、達海は吐き捨てるように言った。

「使える選手が少ねぇからだよ このクラブに」

この言葉に驚き呆然とする選手達、後藤GM、そして広報の有里ちゃん。達海がチームに対して否定的な発言をするのは珍しいのだ。

一方でジーノは真剣なまなざしで前を見つめ続け、笠野は少しうつむいて辛そうな顔をしていた。

このコントラストが物語るものは何か。

ジャイアントキリングは非常によくできた作品で、一コマ一コマが丁寧に描かれている。ジーノの真剣なまなざしにも、笠野の苦しい表情にも必ず意味をもたせている(逆に、初期の頃の『ナニワ金融道』は背景の人物に一切意味がないことで有名)。

30巻を読みなおす際には、誰がどういう表情をしていたのかにも着目して欲しい。

さて、結局、達海率いる「コーチ+ジーノチーム」と「選手チーム」で対戦することになった。

試合開始直後、達海のパスがディフェンスラインの裏に通り、王子ジーノが押し込んだ。

ジーノが、自分で動き回ってチャンスを作ることはあまりなかったので、

「なんでそういう動きを実戦でやらないんだ」

と黒田に指摘される。


「必要とあらばやるさ
ボクのことを理解してくれる技術の高いパサーがいればね

まぁそれ以前にボクのことを王のように崇めてばかりで
要求の一つも出来ないこの集団の特性を嘆くべきだよ」

もしかしたら、ジーノは孤独だったのかもしれない。もっと熱くサッカーがしたかったのかもしれない。しかし、自分から働きかけて周囲を変えていくようなタイプではないのだ。周囲に理解者がいないとうまく力が発揮できない。

そして初めての理解者が達海だったのかもしれない。

さて、試合の方はというと、すぐに椿が1点取り返した。

「和気あいあい」な雰囲気と共に楽しそうにゲームが進行していく。

その間、広報の有里ちゃんはしっかりと見つめていた。
かつて憧れたスーパスター達海猛の姿を。

達海猛が、満面の笑みを浮かべてピッチに立っているのを。

こんな描写は今まで一度もなかった。不敵に笑うことはあっても、楽しそうに笑っている達海なんて今まで全然見たことがなかったのだ。

躍動する達海。

観衆達の目には、かつての達海猛選手の姿が思い出されていた。

「あの頃の達海がそのまま戻ってきたみたいじゃないか」

しかし、笠野だけは醒めた目で見つめていた。

「君らの目には そんなに昔と同じように見えるかい」

その後、調子に乗った達海は、現役復帰のみならず代表復帰すらも視野にいれていると口に出した。

「図々しも何も…
仕方ないじゃん
俺はそうやってボールを蹴ってきたんだから

草サッカーじゃあるまいし 生半可な気持ちでピッチに立てっかよ
やるんだったらトコトンまで上を目指すよ 俺は
お前らは違うの?」

この時点で、椿と黒田はうっすらと汗を浮かべている程度だった。それに対して、達海は汗だくになっていて表情にも余裕がなくなっていることに気付く。

「よく見てろってんだ」

達海は自分に言い聞かせるように呟いた。

達海はマンマークについている椿をうまく振り切って一瞬の隙を作った。そこにジーノがピンポイントでパスを通した。このパスを出すためにジーノは達海に加勢したのだろう。パスが出ないで、達海の見せ場が作れなかったらこの日の試みは失敗に終わるかもしれないと危惧したのだろう。

深読みしすぎかも知れないが、優れたパサーは未来を読む。ジーノならばそういう発想を持ったとしても何ら不思議ではない。

トラップから華麗なテクニックで椿を振りまわす。しかし、二度も逆をついているにも関わらず喰らいつかれて止められてしまった。驚いた表情を浮かべる達海。椿はそのまま前線へと走り抜けていってシュートを決める。

椿が得点するまでの間、達海は一歩も動けなかった。一歩、前に踏み出すが、足が痛むようで苦痛に顔を歪める。

達海の楽しい時間は終わってしまった。

後藤が試合を止めようとするが、ジーノのがそれを遮った。

「タッツミーはやるって言っているじゃないか」

「これはタッツミーが選手達の名誉を傷つけて…
焚きつけることで始めたゲームなんだ

途中降板なんて許される話じゃないよ

ま そんな覚悟もなしに始めたんじゃないってことは
わかってるけどね」

ジーノだけは全てわかっていたのだ。達海がもう動けないこと、足が壊れるのを覚悟でピッチに立ったこと、チームの問題を解決するために全てを賭けたこと。

全部をわかった上で、達海を助けるためにジーノはコートに立ったのだ。「使える選手が少ねぇ」と達海が煽った際に、ジーノだけが真剣な表情をしていた理由が明らかになった。

達海がそういうことを言う監督ではないことがよくわかっていたのだろう。そこで達海の覚悟を知ったのだ。

残り3分は、地獄の時間だった。走ることはできず、トラップすることすらままならない。簡単に吹き飛ばされてしまう。しかし、達海は最後までやりきった。

試合終了後、ピッチに倒れ込む達海。

もう力は残っていないが、顔には小さな笑みが浮かんでいた。

背景に、達海が笠野に向かって言った言葉がフラッシュバックして流れる。

「俺はさ もう一回あいつらに考えて欲しいんだよね
ボールが蹴れる喜びとか ゲームに出れる幸せとか

すごいことなんだよ プロでやるってのはさ…
自分の好きなことを追求して… それで生活できるんだから…

だからさ…
あいつらにもう一回わかってもらいたいんだよね…

その幸せな時間は永遠に続くわけじゃねぇってことを」

試合が終わり、立てなくなった達海の周りを選手たちが囲んだ。

達海が、語りはじめた。

このミニゲームが、実質上、自分の引退試合であったということ。

怪我をした自分がいかに惨めであるかということ。

ただ、監督は十分にやりがいのある職業であるということ。

しかし、達海の本音はこうだった。

「このフットボールって文化の主役は
お前達選手なんだってこと
最高の職業だよ
選手はさ」

「俺にはお前らが眩しく見えるよ
俺だってもっと選手でいたかったよ
ゲームももっと出たかったし
ゴールももっと決めたかった」

選手達の顔が描写される。ジーノだけがやはり真剣な眼差しで見つめていた。

「ワールドカップにだって出てみたかった」

泣きじゃくる有里ちゃんと、厳しい表情で見つめる笠野が描かれる。笠野は、達海の怪我どれだけ深刻なものであったかを知っているし、それが元通りになるようなものではないこともよくわかっていたのだ。

達海がワールドカップでも輝ける選手だったことを一番よく知っているのは笠野だったのだ。笠野は達海の選手生命を終わらせてしまったという懺悔の念がずっとくすぶっているのかもしれない。

「それとタイトル」

達海がそう続けると、杉江は何かにはっとしたような顔をした(顔の前に!マークが出ている)。今まで意識したことがなかったのだろう。

赤崎は「当たり前だろ」というような顔をしていて、ジーノは相変わらず真剣な表情をしている。

達海は最後にこう言った。

「お前らには
俺が届かなかったもんを掴める可能性だって十分過ぎる程あるんだ
プロの1部リーグの舞台なんだぜ?
キッズの憧れってだけじゃない

そこまで辿り着けなかった者…
志半ばで散ってった者…
代わりに夢を託してる者…

お前らは
そんなみんなの憧れ…

プロフットボーラーなんだぜ?」

そして、物語が音を立てて動き始めた。達海の引退試合となったミニゲームは物語のターニングポイントとなるだろう。どのように変わっていくのか、ここからはぼくの「見立て」に過ぎないのだが、いくつか気になったところを紹介したい。

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30巻以降のジャイアントキリングはどうなっていくのか

Story 1 伝説の選手達海猛、再び

達海は松ちゃんにおんぶされて運ばれていった。
途中で、涙を流している有里ちゃんに気付いた達海は声を掛けた。

「もう泣くなよ お前――
幻滅させちゃったのは悪かったからさ――」

ちょっとむっとした表情を浮かべた有里ちゃん。
そして次の瞬間、両手で突き飛ばした。

「違うわよバカ!
もうこういう無茶はやめてよね!」

吹き飛ばされる達海。いつもの光景だ。遅刻したり寝坊したりするだらしない達海に対して、有里が行うバイオレンスはETUの年中行事なのだ。

しかし、今回だけは意味合いが全く違った。

これまでの有里は、監督としての達海の力を半分は認めつつも、どこか幻滅している部分もあった。昔格好良かったあの人が、今はどうしてこんな風になってしまったのかと嘆いているのだ。有里は常に達海を軽く見ていたし、一切遠慮することがなかった。

さて、達海が選手復帰すると告げて選手達を煽っているシーンに戻ってみよう。達海が自分が復帰すれば話題性も増えるため

「ナイスアイデアだと思わない?」

と告げたシーンだ。そこに有里が割り込んできた。

「何がナイスアイデアよ…」

「あたしにとってのプレーヤー・達海猛は…
もう死んだの!!」

あまりの剣幕に驚く周囲のメンバー。

「そのくらい私の中では特別なの!
ピッチ上で遊ぶようにボールを蹴って
皆を驚かせる達海さんの姿は…

私にとって永遠のヒーローなの!!」

「だから…
キレイな記憶のまま残しておかせてよ――
今頃試合でダメダメな達海さんなんて見たくないのよ――」

涙する有里ちゃん。

これはあまりにも酷い言葉だが、真実なのだろう。ピッチ上の選手は、アイドルであり、神でもある。それが引退後に、人間らしい姿を晒しているのを見るのは、やはり辛さがあったはずだ。そして、かつての達海は、憧れていたどころか恋こがれていた相手だったのだ。

その達海が戻ってきてみると、だらしがなくて格好悪いというだけではなくて、不真面目すぎて広報に迷惑がかかることもあるなどと、全く良いところがなかったのだ。

友里の叔父 「お… 同じ人間なのに
昔は良くて今は駄目なのか…」

友里の父 「乙女心は難しいな…」

達海 「失礼な奴だな 有里 お前は」

試合の前にはそう言っていた有里だが、試合後にはちょっと樣子が違った。達海がボロボロになりながらも、最後まで全力でプレイする姿を見て感情が昂ぶり、涙が止まらなくなってしまったのだ。

衰えて走れなくなっていたとしても、達海猛はやはり達海猛だったのだ。過去の達海と、現在の達海が重なった瞬間だった。別人が同一人物になった。恋い焦がれていた最高にかっこいい達海が帰ってきたのだ。

先ほどのシーンをもう一度繰り返してみよう。

「もう泣くなよ お前――
幻滅させちゃったのは悪かったからさ――」

ちょっとむっとした表情を浮かべた有里ちゃん。
そして次の瞬間、両手で突き飛ばす。

「違うわよバカ!
もうこういう無茶はやめてよね!」

幻滅なんかしていなかったのだ。それどころか、達海の姿とクラブ愛に、心が揺さぶられていたのだ。

達海は、有里の心境の変化に気付かずに、試合前の言葉、

「今頃試合でダメダメな達海さんなんて見たくないのよ――」

を受けて返事をしたのだ。フラフラになって走ることすらできない達海をみて、有里がショックを受けていると思ったのだろう。

達海のようなフットボールバカには繊細な乙女心などわかるはずもない。試合後に倒れこんだ達海が自分の不甲斐なさを語っているときに、有里がこう叫んでいたのも覚えているだろうか。

「でも達海さんには…… もう監督ってすごい仕事があるじゃん!」

もう一度、一巻から読みなおしてみないと何とも言えないのだが、有里ちゃんが達海に対して全力で肯定したのはこれが初めてではないだろうか?

この日を境に、有里と達海の物語には確実に変化が訪れるだろう。恋物語が始まるのか、強力な仕事でのパートナーシップを持つようになるのか、それはわからない。しかし、この先の有里ちゃんからは目が離せなくなった。

Story 2 サッカー監督としての達海猛

久しぶりにサッカーボールを蹴って、達海は満面の笑みを浮かべていた。

それを見て、footballistaの2月号で、内海浩子さんという方が書いていたトッティについての記事を思い出した。これは、短いながらも愛に溢れた気持ちの良い記事だったので是非読んで頂きたいのだが、その中で達海の笑顔と重なる部分があったので引用したい。

「故障明けで久々の出番となった第十六節ミラン戦では試合に出られるうれしさがバレバレで、サッカーが大好きでたまらない子供のような顔だった」

トッティはイタリアの王子様でありASローマの王様、生きる伝説だ。しかし、既に年齢は37歳で、近い将来、引退の時が訪れる。そのトッティの本質は、サッカーをするのが大好きなただの少年に過ぎないという示唆が込められている。

達海もそうだったのだろう。

サッカーをするのが大好きで、ボールを蹴るのが大好きで、言葉によるコミュニケーションはうまくないけどボールを蹴ることで友達を作って来た。ボールを蹴ることが全てだし、それ以上の楽しみはなかった。

だから、たくさん練習して、いつの間にか上手くなって、日本代表になり、プレミアリーグへと渡っていくことになった。

しかし、作品中にも描写があるが足を故障してからは、本当に辛い日々だったのだろう。こんなに無垢に笑う達海は見たことがなかったのは、ボールを蹴るという一番の楽しみを味わえない監督業をするキツさにあったのかもしれない。

サッカー監督とは「楽しむ」仕事ではなく「楽しませる」仕事なのかもしれない。

選手達に楽しくサッカーをしてもらえるように知恵を絞って、神経を削りながら駆け引きをする。その結果、選手たちがご機嫌にフットボールを楽しむことができたら成功だし、楽しんでもらえなかったら失敗なのだ。

また、時には嫌われ役を買って出ることもある。

非難されることが好きな人などいない。どの選手も、どの監督も、心無い批判に傷ついているとぼくは思っている。一般的に考えれば、金儲けのために他人の悪口を書くなんて最低の奴らがすることだ。

しかしながら、そういうものが売れる、つまり支持されるのも事実で、良きにつけ悪しきにつけ、プロである以上非難の的になることは避けられない。注目を浴びることを生業としているプロスポーツ選手にとっては、非難もまたファンレターの一つなのだ。

その非難を真っ正面から受けるのが監督という職業だ。言葉にはできない辛さもあるのだろうと思う。

ところで、この試合を通じて、達海は思い出したことがあった。

「クビになりやすい職業NO.1とか言われたりもするけど
それでもやり甲斐はあるよね」

と監督業について語った後、こう言っている。

「けどね
今ボール蹴ってみて改めて思った
やっぱ楽しいよ
プレーすんのは」

「これに勝る喜びを
俺は未だに知らない」

勝つことに執着して必死になっている達海の姿がこれまで描写されてきた。例えば徹夜で戦術的な予習をしたり、練習メニューを工夫したりしてきた。これは、監督としてフットボールを楽しんでいたからできたことだろう。

しかし、この日、選手としての楽しみを久しぶりに思い出したのだ。選手として引退してから約10年の間、ずっと忘れていたフットボールの楽しさ、最高の喜びをついに思い出したのだ。

この先、監督としての達海にも変化が訪れるのではないだろうか。
ETUのメンバーに成長が必要だったように、達海本人にも成長が必要なのだ。

今後、監督しての達海はどういう境地に達するのだろうか。目が離せない。

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ルイジ吉田、通称王子ジーノの決意

これまでジーノの背景はあまり語られることがなかった。しかし、この30巻では非常に重要な役割を果たしている。

ジーノだけが唯一達海の覚悟に最初から気付いていたし、常に真剣なまなざしで達海を見守っていた。言っておくがジーノは、試合にフル出場した翌日にミニゲームに参加するような人間ではない。

フィジカルコンディションに少しでも不安があれば試合を休むし、試合の途中で交代を申し出たりもする。そもそも不真面目でやる気がないタイプだったのだ。達海が就任した直後のキャンプなどは、大遅刻してきた上に、当日は練習を休んでいたくらいだ。

達海はジーノに対して最初から一歩も退かなかった。その態度にジーノのほうも思うことがあったのかもしれない。ジーノは達海のことが好きなんだろうと思う。

しかし、その詳細についてはまだ明かされていない。

唯一30巻から示唆されたのは、ジーノがタイトルに対して熱意を持っていることだ。達海がETUでタイトルが取れなかった悔しさを表現した際に、ジーノの顔がアップで描かれている。その表情をよく見てみると、ジーノはタイトルに因縁があるのではないかと思えてくる。

あるいはジーノも怪我という爆弾を抱えていて、達海に特別なシンパシーを抱いているという線も考えられる。

ジーノは日本代表クラスの才能を持っているにも関わらず、やる気のないプレイなどを見せるために評価されずにいる。それは何故なのか。性格の問題として最初は描かれていたのだが、もしかしたら理由があるのかもしれない。

いや、必ず理由があるはずだし、達海を評価し、達海に共感する理由が必ずそこにあるはずだ。あるいはぼくの想像もしていない展開があるかもしれない。

天才ジーノの活躍は、ETUがタイトルを取るためには必要不可欠だ。本気になったジーノが見られるのはいつなのか。王子の仮面を外し、泥臭く走り回り、必死にディフェンスをして、大声でチームを鼓舞するジーノが見られる日が来るのかもしれない。

あるいは、ジーノらしい別のやり方をするかもしれない。30巻を読んで思ったのは、ジーノには何かしら隠されたドラマがあるということ。これからのジーノからも目が離せない。

他にも、村越の覚悟やリーダーシップを発揮し始めた杉江のストーリーなどもある。十字架を抱えた笠野のストーリーも動き出すかもしれない。また、サポーターのちびっこたちもこの試合を目撃している。彼らの目にはどう映ったのだろうか。様々な物語が達海の「引退試合」から動き始めた。

まさしくターニングポイントだ。

「GIANT KILLING」は神の領域に入りつつあるのか

30巻を経て、ジャイキリが違う領域に踏み込みそうな気配を感じた。これまでのジャイキリはとても面白いのだが、どこか熱量が足りない部分も感じていた。

ぼくに言わせるとジャイキリの特徴は、「若い監督」を主人公にした斬新さ、「J弱小クラブ」のリアリティを追求したこと、数多くの登場人物の顔と性格の描き分けが非常に上手いことだった。ある意味ではテクニカルな意味で優れている作品だったと感じていた。

一方で、登場人物が多く、複雑な物語なので、どうしても説明的になってしまうところがある。主人公がエースストライカーであるほうが話はずっとシンプルだ。

しかし、30巻の「引退試合」を経て、物語が一気にまとまっていく気配を感じた。この先、必ずジャイアントキリングはもっと面白くなる。もちろん、これまでだって十分に面白かった。そこを突き抜けて、歴史上重要な漫画、ある意味では神の領域に迫れるのではないかとすら思った。

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ジャイキリの舞台は、壮絶なるタイトル争いへ

この先のストーリーは見えている。Jリーグのタイトル争いが行われる。強豪相手に熾烈な争いをして、最終節までもつれ込む。最後はどこかのチームと直接対決を迎える。その結果はわからないが、そこまではいくと思う。もちろん、これはぼくの妄想に過ぎないが、リーグ優勝争いにETUが絡んでいくことは間違いない。そういう線が引いてある。

Jリーグの優勝争いは本当に面白いし、心底熱い。ぼくがみた2013年は特に熱いシーズンだったようなので例外的と捉えたほうがいいらしいのだが、ジャイキリの作者は「2013年の優勝争い」を踏まえた上で、さらに面白いものを書くことが可能だ。

面白くならないほうがおかしい。

ぼくがこれからやろうとしている仕事は、Jリーグの面白さ、熱さ、タイトルの重さを表現していくというものだ。ジャイアントキリングも同じ方向性で話が進んでいくことだろう。

まだ始まってもいないぼくの仕事と、ジャイアントキリングというサッカー文化の「巨人」を比べるのは失礼な話ではあるが、負けないように頑張りたいと思う。

勝てそうにないほど巨大な相手を、知性を駆使して打ち倒す!!それがジャイアントキリング(巨人殺し)!!


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30巻だけは何度読み返しても面白いので、電子書籍版も購入してKindleに入れています。たとえ挫折しようが、夢は途絶えることはない。諦めない男、達海が爽やかな笑顔を浮かべて空を見上げた時、もうちょっと頑張れそうな気持ちが湧いてくる。

30巻が出るよりも少し前に出版された本。この当時から、弱者を用いて強者を打つというジャイキリのテーマは注目されていた。

 
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