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書評

書評:川端暁彦著 『Jの新人ーJリーグ新加入170選手の価値2014』

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この本のテーマは、ちょっと地味かもしれない。
基本的には華やかなスーパースターは出てこない。例えば、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、マリオ・ゲッツェ、日本人選手で言うならば本田圭佑に香川真司などだ。比較の対象として触れることはあっても、メインディッシュにはならない。

この本が主に扱っているのは、まだ海の物とも山の物ともつかない新卒選手なのだ。

要するに、この本を読んでいっても「知っている選手があまり出てこない」のである。もちろん、ユース、高校サッカーや大学サッカー、あるいは、アンダーカテゴリーの代表の試合もチェックしている人にとっては、少し違うかもしれない。しかし、掲載されている全選手の名前を聞いたことがあるという人はよっぽどのコアな人ではないだろうか。

そして、そのコアな人の極致とでも言えるのが著者の川端暁彦氏。氏はサッカー新聞「エルゴラッソ」の創設に関わり、昨年まで編集長をしていた人物である。

この本では、今年新卒としてJリーグに加わった選手達が、実際にプレイしているところを、自分の目で見て、選手だけではなく監督やコーチなどの関係者に取材してきた。こういった育成現場への取材をライフワークとして10年間続けて来たのだそうだ。

それだけあって、非常に深みある本となっている。

知らない選手ばかりなのに面白い

この本の特筆すべき所は、「知らない選手についての紹介を楽しく読める」こと。

試しに、主に紹介されていた選手を列挙してみよう。何人知っている選手がいるか数えてみて欲しい。

海外
【ドルトムント】丸岡満(C大阪からレンタル)
【ケルン】長澤和輝

J1
【鹿島】杉本太郎、赤崎秀平
【名古屋】杉森考起、青木亮太、小屋松和哉、松田力
【広島】宮原和也、高橋壮也、川辺駿、皆川祐介、茶島雄介
【F東京】平岡翼、松田陸、圍謙太朗、武藤嘉紀
【新潟】酒井高聖、小泉慶
【柏】中谷進之介
【神戸】吉丸絢梓
【G大阪】内田裕斗
【浦和】関根貴大
【清水】金子翔太、高木和徹
【川崎】谷口彰悟、可児壮隆
【仙台】二見宏志
【大宮】泉沢仁
【鳥栖】藤島栄介
【甲府】下田北斗、稲垣祥
【横浜F】奈良輪雄太、天野純

J2
【千葉】オナイウ阿道
【京都】石田雅俊
【熊本】永井建成
【札幌】内山裕貴、工藤光輝
【東京V】高木大輔
【湘南】宮市剛
【磐田】小川大貴
【水戸】広瀬陸斗
【愛媛】表原玄太

J3
【福島】安藤輝

さて、どうでしょう。有名選手の弟、アンダー年代の代表選手、新卒ながらJリーグで活躍している選手などもいるので、全く知らないということはないかもしれないが、全員を把握している人はあまりいないのではないだろうか。

ぼくの場合は、プレーも名前も知っているのはFC東京の松田陸と武藤嘉紀。圍謙太朗は、太田宏介のカミソリシュートを決められ「止めれねーだろ、かこい!」と言われて「曲がり具合が半端ねーっす」と答えていた噛ませ犬の人であり、「でじっち」で奇妙なダンスを披露した選手。サッカーが上手いかどうかは未確認。

名前だけ知っている選手を数えても10人はいなかった。20人以上知っている人はかなり詳しい人なのではないだろうか。

さて、多くの人にとって、この本は「知らない選手の紹介が延々と続く本」なのである。
しかしながら、「川端マジック」とでもいえる脅威の表現力で、どれもこれもが非常に面白い!

まず、説明が紋切り型ではない点。

「○○は高い運動量とロングフィードの精度を高く評価され、○○大会ではフル出場に加えて3得点の活躍を下。××大会では……」というように、事実を列挙されても全く面白くない。ぼくのような集中力のない人間は、5分で飽きてしまう。

しかしこの本は一味違う。例えば京都の石田雅俊選手の場合はこう始まる。

「あれはダメだな。あんな選手はダメだ」
審判の判定に激怒した末のラフプレーで退場していた石田雅俊の姿を見て、とあるJクラブ関係者がそんな烙印を押していた。

仙台の二見宏志選手の場合はこんな感じ。

「ゴリラみたいな奴ですよ」
「うーん、ゴリラ? かな」

こういうソフトな入り方はとてもわかりやすい。文頭で既に楽しくなるので、選手のエピソードも楽しく読める。かといって、あんまり露骨にキャッチーに書くと、格調の低いみっともない文章になってしまう。この「ふざけ加減の絶妙さ」は、流石に川端師匠の仕事だ。

次に、「船橋の変人ドリブラー 石田雅俊」とか「左のゴリラ 二見宏志」とか「鮭の希少種 武藤嘉紀」などのキャッチーなタイトルがついているため、すっと頭に入ってくる。

鮭の希少種ってなんだよ!と思わず突っ込まずにはいられない。いや、この本を読んでいくと「鮭」というのが何かは自然とわかるので違和感はないのだが。

新人の紹介に育成論が織り交ぜられている

この本は上に列挙した「Jの新人」たちの紹介本であると同時に、日本サッカーの選手育成について批評した本でもある。批評と行っても、悪い点だけを並べて「さぁ改善せよ!」とか「世界を学び、追いつけ劣等国よ!」というような主張がなされた本ではない。

日本の育成にも良い点がたくさんあることを認め、その上で問題になっている点には厳しく指摘している。

だから、著者の主張としては、「日本の育成は部分的に修正するべき」ということになるのかもしれない。

先ほど紹介した「鮭」の概念は、まさに日本サッカーが部分的に修正されつつある部分なのかもしれない。「鮭」とはユースなどの下部組織で育った後、一度他のチームでプレーした後、再び戻ってくることを指している。

現状において大きな問題点としては、新卒選手のプレータイムが確保されず、開花しないままに終わる才能があること。期待の新卒が出番を得られずにベンチに座ったままいつの間にかいなくなっている光景は、見たことがあるのではないだろうか(サッカーではあまりわからないけど、バスケだとダーコ・ミリチッチが思い浮かんだ)。

この原因の1つとして、既にブランド力があるチームへの「就職」を選手自身も、コーチ達も希望することが多いからだと指摘している。

例えば、ツエーゲン金沢とFC東京からオファーがあった場合に、FC東京を選ぶようなケースだ。しかし、ブランド力のある強いチームほど、選手層が厚いため出場機会が限られてしまう。FC東京で言うならば、サイドバックには太田と徳永が構えているため、松田陸の出場機会はどうしても限られてしまう。

最も松田陸の場合は、ナビスコカップを中心にある程度出場できているが、全く出場できない可能性も当然あったはずだ。そのリスクを考えると、J2やJ3のチームに入って主力として出場し続けるほうが、選手自身の成長にとっては良かったかもしれない。

いや、もしかしたら、FC東京でレベルの高い先輩達の姿を背中で追っていたほうがいいかもしれない。

この問題については結論が出ず、結果をみないと分からない。

あくまでも、著者の所感としては、育成の場として下位リーグがもう少し見直されてもいいのではないかと考えているようだ。

どうすればベストか結論を出すことは出来ない。しかし、今ある問題点を部分的に解消していくことが大切という姿勢は、非常に好感が持てた。

このように、選手紹介を進めながら、日本の育成事情についての様々な考察がなされている。そのため、知らない選手の紹介を読んでいるうちに、日本サッカーの育成事情について大まかな地図が頭の中に描けてくる。

「日本サッカーは某国に習え!」というような断言をしていないため歯切れが悪い部分もあるのだが、だからこそ偽りない「生の感想」を聞けたという安心感がある。十分な精査と検証をしないままに断言する人もいる中で、「明晰にわからないからこそ慎重に探る」という姿勢はとても大切だ。

日本のサッカーを考える上ではとても重要な本だと感じた。

日本の将来を見守るという視点

最後になるが、この本では「日本サッカーのサポーター」として叙述されている。Jリーグにおいては、特定のチームを応援するサポーターが大多数だとは思うが、日本サッカー全体が少しでも進んでいくように支えていく人も、またサポーターなのだ。

サポーターとは何かというの一言で表すと「愛情を持って支える人」である、というのがぼくの最近の考えだ。『Jの新人』を読んでいると、著者の川端氏が日本のサッカーに対して揺るぎない愛情を持っていることが伝わってくる。

まさしくサポーターとして書いた本であり、愛に溢れた本である。

こういう本は大切にしたい。何度か読み返すつもりだ。

日本のサッカーについて、あるいはスポーツの育成事情について興味がある人にはとてもお勧めの本。

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