アオリイカの繁殖を促す研究が紹介されていたのを見て、昔のことを思い出した。


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昨日、たまたま「さんま」の番組を見ていたら、水産・海洋学の教授陣が出てきて、自身の研究について紹介していた。分野的に知っている教授が出てくるかと思ったのだが、少しジャンルがずれていたようだ。ちょっと安心した。

その番組の中で「漁具」が専門の教授が、「アオリイカの繁殖」についての研究を紹介していた。色々懐かしかったので紹介してみようと思う。概要はこんな感じ。


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アオリイカは、沿岸域に棲息する頭足類であり、岩礁域に生育する大型褐藻類であるアラメなどの群落を利用して産卵することが知られている。しかし、近年大規模な磯焼けが報告されており、産卵場が減少している。紹介されていた研究では、人工的な基質を海底に設置することで、アオリイカの産卵を促すことに成功したらしい。

……などと研究言葉で書くと何のことかわからないと思うので、少しかみ砕いて書く。

アオリイカは、岩礁域、つまり「磯場」に生えている海藻の中に産卵する。

aoritamago

この写真はぼくが撮影したものなのだけど、白いウインナー状の卵塊が並んでいるのがわかると思う。この日は透明度が低かったので、ズームの写真しかないのだが、海藻をかき分けて撮影した。

この海藻は、「アラメ」というコンブの仲間で、ぼくが研究していたアワビ類の餌でもあった。なのでシュノーケルを加えて海に飛び込んでは、生育状況とか、周囲の生態なんかを観察していたのだ。

この「アラメ」の「森」があるとアワビさんたちにとっては大変住みやすい環境なのだが、これが一気に枯れて、周囲が荒野のようになってしまうと「磯焼け」という状態になってしまう。元々は森になっていたのに、焼け野原みたいになってしまうのだ。

原因としては、温暖化とか、ガンガゼというウニが食べ尽くしてしまっているとか、色々と揚げられているが、決定的な原因究明と対策は出来ていない(少なくともぼくが研究をやめる1年前までは)。

アラメがなくなってしまうと、アワビにとってはエサがなくなってしまうし、アオリイカにとっては産卵場がなくなってしまう。アワビの場合は、エサがないとどうにもならないのだが、アオリイカの場合は、人工的に産卵場を作ることが出来れば一応は解決することが出来る(もちろん、産卵量がある程度確保できたとしても、周辺に藻場がない場合は、餌料環境が良好とは言えないため、孵化後の生残率を注意深く見る必要はあるだろう)。

そこで、漁網などを組み合わせて、籠状の器具を作り、海に沈めてみたところアオリイカが無事に産卵したのだそうだ。

めでたし、めでたし。

……なのだけど、こういうのを見ると突然「研究脳」が蘇ってくる。

この「産卵器具」が有効だと証明するためには、どういう実験を組めばいいかを計算し始めている自分がいた。最終的には、遮光の有無、器具のサイズ、目合いの大きさ、設置場所の4ファクターを操作すればいいかなという結論に至った。

遮光の有無で2条件。
器具のサイズで3条件。
目合いの大きさで3条件。
設置場所で4条件。

これを一回やるとなると、72条件。繰り返し区が3つ必要なので216個の器具を作成して設置する必要がある。

このくらいなら出来るかな。
いや、そもそもの産卵する確率の低さを考えると繰り返し区を6まで増やしたほうが安全かもしれない。
とすると、目合いの大きさは「アオリイカは余裕で通過できるが、大型の魚類は侵入できないサイズ」に山を張っておいて(あるいは予備実験をしておいて)、この条件を削ってみよう。すると144個の器具を設置すれば済みそうだ。

設置場所については、砂浜域と岩礁域で、岩礁域は深度や潮通しなどを考慮して3パターンに分けるということを想定したのだけど、そもそもアオリイカの繁殖生態について予備的な知識があればもう少し良い条件が設定できるかもしれない。

観察頻度は、産卵期に3~5日に1回で十分だろう。


人の実験を無責任に考えるのは、今でもとても楽しい。

海、海の生き物、環境、生命、真理への探究、ぼくはそういうものが好きだった。好きだったが、研究環境とどうしても合わなかったため、最終的には鬱病寸前になってドロップアウトした。研究活動には、得意な部分と苦手な部分が明確に分かれていて、ぼくは苦手な部分で勝負しなければならない宿命を背負っていた。

あの時は、脳みそが引きちぎれそうになるほどのストレスの中にいた。

もし違う研究室に入っていたら……と思わなくもない。
しかし、その結果幸せになったのだろうかと考えると、それもまたわからない。

象牙の塔の中では、「真理への探究」という高尚かつ刺激的な行為が行われている一方で、「権力闘争」とか「政治的な駆け引き」が重要で、「役所からいかに研究資金を引っ張ってくるか」という能力も強く求められる。

政治家にはなりたくない。
教養学部時代に、某政治家の秘書見習いをやってみないかと誘われたことがあった。

しかし、ぼくは「ノー」と言った。「権力闘争」なんてやりたくないのだ。

ぼくは、自由な魂でありたい。

そして、強靱で固定的なお役所が相手ではなく、頼りなく流動的で自由な魂を相手に訴えかけていきたい。
大先生達も昔はそうだったのかもしれない。しかし、年を取って偉くなるにつれて、会議だとか省庁へ出向だとかの「政治的な用事」が増えていく。

かつては「生命の不思議」について目を輝かして語っていた「大人子供」だった人が、次第に「政治的な愚痴」ばかり言うようになる。

そういったやるせない進展(あるいは汚染)を見るにつれて、ぼくは研究業界で生きて行く気力を失った。

研究者に「政治」とか「金勘定」とか「教育」とかの余計な用事はあんまりやらせないほうがいいと思うんだよね。そういうのが得意な人ばかりじゃないだろうから。

それに、「そいういうこと」をしているうちに、研究者が持っていた自然現象に対する「驚きの気持ち(センスオブワンダー)」が失われていってしまうような気がする。

思えば、老いても「驚きの気持ち」を失っていないような研究者は、「政治」とか「金勘定」とか「教育」が適当だったりすることもあるような……


たまには海に泳ぎに行こうかな。
そういえば、Cカードも潜水士の免許も最近見てないな…… なくしてしまったかもしれない。
いずれにせよ器材つけてのダイブは怖いからいいや。

どっかスキンダイビングして面白いところないかなぁ。

耳抜き下手だから、5メートルくらいしか潜れないんだけどね。
愛しのカワハギさんにも会いに行きたくなってきた。

昔の写真を見ていると嫌なことも思い出してきつくなるのだけど、生態写真だけに絞って探してきてみた。文章中心のブログなのでたまには画像を紹介しよう。

アワビの稚貝
abalone

「違い」という文字を書こうとして「稚貝」になってしまうのは、貝類研究者あるある。
これは1センチくらいのアワビの子供の写真。干潮時で膝から腰までが浸かるくらいの水深帯で、石をひっくり返していると発見できる。

クロアワビだと思うのだけど、ちょっと自信がない。
背景に写っているピンク色の「コケ」状の基質は、無節サンゴモといって、アワビの幼生はここを狙って降りてくる(あるいはたまたまここに降りたやつだけが成長する)。

アワビの稚貝を手に上に乗せてみる
abalone2

手にとって撮影。触覚をうにょーんと伸ばして、身体をよじって逃げようとする。
普通のレジャーダイビングでは、生物に触ったり、棲息場を攪乱するのは御法度なので注意。

“ウニマンション”
urchinpit

ムラサキウニが、岩に穴をあけてマンションを作っている。
ウニの歯は、マグネシウムなどの金属を含んでいてとても固い。これでガリガリ岩に穴を空けて、身を守っている。
夜になると外出して周囲の海藻などを食い漁る。

ウニも本気を出すと結構足が速い。
秒速10~20 cmくらいは出ているはず。
ウニ穴を丁寧に探ると、ベニツケガニやショウジンガニなどを見つけられるので、捕獲して実験に使うことも。

ヒラメの子供
hirame

こいつは水深50 cm程度のところで発見。じっとしていると全くわからない。
海上にプカプカ浮きながら、シュノーケルつけてぼんやりと海底を眺めていたときている時に、突然海底が動いた。大きなヒラメが潜んでいたらしい。ヒラリと浮き上がり、水面に群れていたキビナゴを食ったのを目撃したのは良い思い出。

なんか「ヒラメ社員」という言葉があるらしく、上司の顔色ばかり伺ってじっとしている会社員のことらしい。
それは大きな間違いだ。作った人は、ヒラメの生態を調べ直したほうがいい。

ヒラメは、1メートル以上にも成長する大型の魚類で、食性は肉食。つまり、魚を食べて生きている。
海底から上ばかり見ているというのは正しいが、その理由は「上の方を泳いでいる魚を食べるために待ち構えている」からである。

つまり、「ヒラメ社員」というのは、小物の上司をいつか食ってやろうと虎視眈々と狙っている社員のことを指す言葉のほうが正しいと思う。

アオウミウシ
umiusi

ウミウシ類の中で一番みつけやすいのがこのアオウミウシくん。
地味な色した岩礁帯に、一際目立つ青い宝石。

こんな目立つ色をしていてどうして魚に食べられないのかというと、「とても不味い」らしい。

ぼくの潜っていた海では、7,8種くらいのウミウシ類を見つけることが出来た。

うーん。海に行きたくなってきたな。
ただ、水中カメラがちょっと調子悪いんだよなぁ。


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