「ギリシャ戦のゴール裏から」 ブラジルW杯紀行 第十一話


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第十話 「クイアバでのんびり過ごし中」

レシフェで行われたコートジボワール戦。
先述した通り、応援は応援の体を為していなかった。

特に、コートジボワールに2点取られた後は、スタジアムの雰囲気まで持って行かれてしまった。50人程度で、試合中ずっと同じ踊りを続けていたグループ(日本でいうウルトラスみたいなものだろうか)は、一層激しく踊り始めた。

太鼓の音と、コートジボワールの一挙手一投足に対する歓声がスタジアムに響き渡った。

本当に苦しい時間帯に、我々は日本代表の選手達を「孤軍」にしてしまった。スタジアムの雰囲気は異様なものとなったことで、焦る気持ちが加速してしまったかもしれない。

もちろん、実際の所、我々が声を出したり、スタジアムの雰囲気を「ホーム」のようにしたところで勝敗が変わったかどうかはわからない。

しかし、それを信じて全力を尽くすべきだった。すべては遅かった。我々日本人はみんな疲れ切っていた。慣れないブラジルで緊張の連続が続き、ようやく辿り着いたスタジアムで、ほっとしてしまったのだ。

大荷物を背負って、大移動をした結果、腰が悲鳴をあげていた。そのせいで大声を張り上げようとすると、ズキズキ痛んだ。声は枯れ、意識は朦朧としていた。

ぼくは、戦えなかった。


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ギリシャ戦ではそうはいかない。
前日はゆっくり休んで体調を整えた。
念入りにシャワーを浴びて身を清め、全身のストレッチをした。

前回の試合の整理をする意味を込めてブログ記事を書いた。

「はとのす」と書いた背番号5番のユニフォームをまとい、タオルマフラーを首に巻いた。いざという時に備えて、フルセキュリティーの荷物配置をして、雨具も詰め込んだ。

そして、部屋の入り口の札を裏返す。

Favor Arrumar(Please Make Up Room)

よし、出陣だ。

たった1人の行進

ホテルからスタジアムへは、4kmほど離れていたのだが歩くことにした。気力をみなぎらせて、早足で歩いて行く。

随分と慣れ親しんだナタールの道を1人歩く。

今日は絶対に勝つ。今日は絶対に自分を甘やかさない。最後の最後まで声を出す。誰が何と言おうが、それだけが唯一の方法なのだ。ぼくが知っている、チームを後押しするための唯一の方法なのだ。

歩いていると、ブラジル人から次々と声を掛けられる。

「ジャパウン!! ジャパウン!!」

軽く微笑むと、力強くガッツポーズを返す。後で思い出すと少し気恥ずかしいが、その時は真剣そのものだったから、顔も完全な真顔だ。

「ドイズ、ゼロ、ジャパウン!」と言われたこともあった。「日本よ、2-0で勝て」とか「俺は2-0で勝つと思うよ」というような意味だろう。

ムイント オブリガード!!

ワールドカップには、時に仮装もしながら国際交流を楽しむ場としての側面もあるようだが、ぼくの性には合わない。根が真面目なのかもしれないな。

ともかく、ぼくは「戦う日本」の代表として、短い距離であるが独り行軍した。

30分ほど歩くとスタジアムが見えてきた。青いユニフォームと黄色いユニフォーム。日本人とブラジル人だ。ギリシャ人はいたにはいたが小数だった。

気力を張り詰めたまま、スタジアムに入場した。ディスコなどのエンターテメントブースが相変わらず構えていたが、すべて通過して席に座った。キックオフまで約3時間。

決戦の時を待ち続ける。

決戦へ

途中、日本代表の本田選手と記念撮影をすることが出来た。もちろん、本人ではなくて、本田リスペクトの精神が尋常ではなく強い通称ホンティとの写真だ。

DSCF1143

ホンティと会うのはこれで5回目くらいなのだが、いつも写真を撮って欲しいと言い出すことが出来ずにブラジルまで来てしまった。ついに念願が叶い、ナタールで写真を撮ってもらうことが出来た。

ぼくも戦闘モードな顔をしたはずなんだけど、よくわからない表情になってしまった。

ワールドカップにはかなり手の込んだコスプレをした人々が現れる。でも、前回よりは少ない印象だった。これはただの気のせいかもしれない。

ぼくの後ろの席には、こんな人が。

DSCF1165

かなり手の込んだピカチューだった。
もちろん、こういう手間を掛けることは否定しないし、本人が楽しんでくれたらそれでいい。しかし、応援の中心地まで来て、フォトセッションにばかり明け暮れていては、コスプレしている本人こそ楽しいかもしれないが、日本代表の背中を押すことは出来ないのではないだろうか……

と思っていたのだが……

我々は大きな声で君が代を歌い、戦いが始まった。日本代表を背中を押すチャントを、ぼくは大声で歌い続けた。ぼくのいた位置は、「太鼓」からある程度離れていたので、声を出している人は2人に1人程度だろうか。いやもっと少なかったかもしれない。

そんな中、最も力強く声を出してくれたのがピカチューだった。誤解して申し訳なかった。ピカチューは、試合が終わる時までずっと声を出し続けていた。彼女がいたからこそ、ぼくも最後まで頑張って声を出せたかもしれない。

ぼくの周りで一番声を出してくれていたのが、そのピカチューと、隣にいたごっつりブラジル人だった。その男は、頭には「必勝」と書いたハチマキをしていた。

ニッポン!! ニッポン!! ニッポン!! ニッポン!! ニッポン!!

前回のコートジボワール戦では、応援が応援の体を為していなかった。声を出す人が、驚くほど少なかったのだ。応援を取り仕切るウルトラスのほうにも危機感があったのかもしれない。

試合前に、ゴール裏の色んな位置を回って、応援への協力を呼びかけ、力強くコールして回っていた。これは効果があったと思う。

頑張れ 大迫!! ぼくらの大迫!

この日も大迫が先発メンバーに選ばれていた。
前回のレシフェでは不調に終わってしまった大迫だが、今日の試合に懸ける決意はいかほどのものだろうか。

現地では細かい情報は入ってこない。大迫がどういう心境なのかは全くわからない。ただ、目の前でサッカーをしている大迫がいるだけだ。

ぼくに出来ることは大迫の背中を押すことだった。しかし、大迫のチャントは認知度が低く、普通のチャントよりもさらに参加者が少なかった。

確かに知らないと歌いづらいものかもしれない。

ぼくの周りでは誰も歌っていなかった。遠くの方でチャントが小さく響いていた。これではいけない。

ぼくは全力で大声を出した。

オーオオー オオサコ! オッオッオオサコ-!!
オーオオー オオサコ! オッオッオオサコ-

最初は自分だけが声を出しているような感覚だったが、何回目かには周りの人もメロディを認知してくれたようで力強い歌声になってきた。

大迫、頑張るのだ!!!

オーオオー オオサコ! オッオッオオサコ-!!
オーオオー オオサコ! オッオッオオサコ-

ワールドカップの舞台だといって恐れることはない。
相手がFC東京だと思って、リラックスするんだ!

……という自虐ネタを思いついたりしながらも、応援の声を張り上げ続けた。

現場でみる限りでは何度か切れの良いオフェンスを見せていたように思うのだが、ギリシャのゴールを割ることは出来なかった。

日本らしさが発揮できない悔しさ

どうしてもいつもの日本らしさが出せないまま、試合が終わってしまっている感じが強い。不完全燃焼感だ。

長友がボールを持てていても、内側に切り込んでいくコースは切られているから、縦に抜けてロングクロスを上げるしかない。

中で待っているのが、香川とか遠藤という場面が結構あって、これを押し込める確率は非常に低いと言わざるをえない。

ピッチから困惑が伝わってくるようで、そこは何とも切ない。せめてもの後押しにと、ぼくらは全力で声援を送るのだが、最後まで選手達の困惑は消えていないように見えた。

ザッケローニの方針が間違っていたとはぼくは思わないし、強く支持しているのだけど、「半年間の重厚的なスカウティング」に耐えられるだけの柔軟性がなかったのかなという気はする。

もしかしたら、直前まで方針をコロコロ変えているくらいのほうが、相手としてはやりづらいのかもしれない。

でもまぁ、ぼくは戦術の専門家ではないし、コーチでも、選手でもない。ただのサポーターなのだ。ぼくに出来ることは、チームの修正点を見つけて指摘することではない。大体そんなことしても、メンバーに届くわけがないのだから、単なる自己顕示に過ぎないではないか。

俺はこんなにサッカーがわかっているということを示したいがために、試合の問題点を並べることは合理的ではない。

何故なら、サッカーはミスのスポーツであるため、ミスを見つけることは非常に容易であるからだ。誰にでも出来る簡単なことなのだ。

分析も楽しみ方の1つではあるのかもしれないが、現場にいるぼくとしては、チームの背中を全力で押すことに意義を見出したい。

そりゃ日本代表と言ったって弱点はあるし、コロっと負けてしまうこともあるさ。相手があるサッカーなんだからしょうがない。「おいおい、そのミスはないだろう」と思うことだってあるし、「その采配はあかんかったよなぁ……」と思うこともある。

そして、今は明らかにチームはうまく回っていない。

だからって、サポーターが試合を投げ出してしまったら、選手達は孤軍として取り残されてしまう。

どんな状況でも、最後まで諦めずに、勝利を求めて声を出すのがぼくらに出来る唯一のこと。これは、それなりに精神が成熟していないと出来ないことだと思う。誰かを支えるために全力を尽くせること、これはとても充実した行為なのだ。

俺たちは、選手と共に戦う。
戦いの最中に背中から撃つようなことはしない。

勝利した際には我がこととして喜び、敗北してしまった時には我がこととして傷つき悲しむ。それが、俺たちに出来る唯一のことだ。


相手は強いが…… 絶対に勝つ!!! 

勝ってレシフェに戻るんだぜ!!

第十二話「ブラジルダイエットと電子書籍化について」


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