東大に11年在籍した後、タクシードライバーになりました

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ブラジルW杯紀行

ブラジルW杯紀行 第三話 「小さな出会いを経て、少し前向きに気持ちになった」

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第二話「日本代表23人が決定!!!大久保嘉人選出!!!」

ワールドカップのことを考えると憂鬱になる。そんな日々が続いていた。

最悪の治安情報。
強盗は日常茶飯事、男性すらも襲われる(あっちの意味で)、偽警官。
それだけじゃなくて、現地ではW杯反対のデモが行われていて、交通機関だけではなく、警官や軍までストをすることもあるらしい。

ブラジル軍というのは別に大して強い軍ではなくて、他国と戦ったら必ず負けるようなレベルの軍のようなのだが、国内の治安維持に対しては無敵の強さを誇っている。

どんな悪人でも軍を見れば逃げ出すらしいが…… その軍がストをすると悪人天国になるらしい。

しんどすぎる国内移動。
ブラジルは異様なほど広い国だ。
グーグルマップでやっつけで作った図を見て頂ければ、その広さは一目瞭然だろう。
(単純に面積を比較するためだけの図なので緯度などは考慮せず)

新規 Microsoft Office PowerPoint プレゼンテーション

高騰する航空券、ホテル代。
ブラジルの観光業界はリピーターを見込んでサービスを良くするという考えはないらしい。ワールドカップ観光の客が来て、需要が高まったことを受けて、その分だけ宿泊料金を値上げしている。

ぼくの場合でも一泊約6000円で予約したクイアバの宿が、「あー、ごめん、ごめん。値段付け間違えてたわ。18000円に値上げな」というようなメールによって値段が3倍になってしまった。「そういうの」は、ありなのね。

……手配は面倒だし、出てくるニュースは怖いものばっかりだし、正直もう嫌だなぁと思っていた。準備をすればするほど憂鬱になっていくのだ。

強盗に遭ったときのために、「命の財布」を2つ用意し(1ヶ月いたら2回くらい強盗に遭うかもしれない)、カバンに雁字搦めに鍵を掛けられるようにした。そういう準備をしているときに陽気な気持ちになることはありえない。

そして、ブラジルに向かう仲間と話していても「突然国内便の時間が一日(!)変更になったので使えなくなった。ポルトガル語でキャンセルのメールを出さなければ……」とか「サンパウロで鉄道がストだからどこにもいけない」とか、困った情報ばかりが出てくる。

正直言って、ブラジル人に対する不信感や忌避感が自分の中に生まれつつあったのだ。

総領事館でブラジル人女性と出会う

ビザを取るために五反田にある総領事館に行くと、そこは日本であっても外国のようなたたずまいで、案内の表示の多くはポルトガル語で書かれていた。30分ほど順番待ちをして、ブラジル代表のユニフォームを着た女性がいる窓口へ。

女性の年の頃は、ぼくと同じくらいだろうか。俗に言うアラサーという年代だ。
容姿から察するにブラジル人のようで、日本語はカタコトとまでは言わないが、完璧ではなかった。

ぼくにとって初めて出会ったブラジル人が彼女だ。

役所の窓口にいる方なので、当然の如く無愛想というか無表情というか、冷たい調子、小さな声で「おはようございます」と言われた。
ぼくも「え、あ? ……おはようございます」と一瞬戸惑った後で返した。

彼女は無言のままだったので、「ビザの申請をお願いします」と言って書類を出した。
無言のまま書類を受け取ってチェックし始めた。

お役所というのは、これだから嫌になる。人間的な情緒がなくて、物事が機械的に処理されていくのだ。

ビザには通常のものと、W杯用のものがあって、後者のほうが容易に取得できるようになっている。
ぼくは後者のビザを申し込んだのだが、FIFAの陰謀で結局チケットが手元に届くことはない(現地発券に切り替えることはできそう)。

そのため、W杯のチケットの購入に成功した(successful)証拠が必要なのだ。

「このメールじゃなくて、別のありますか? これだとビザが発行できない」

彼女はちょっと困った顔をした。

「あ、間違えた!こっちです!」

そうだ。間違えて違うメールを印刷したものを渡してしまっていたのだ。ぼくは「正しい印刷」を渡した。日本人らしい、照れ隠しのはにかみ笑いをヘラヘラ浮かべながら。

すると、彼女は満面の笑みを浮かべて、

「良かった!これなら大丈夫です!」

と嬉しそうに「正しい印刷」を手に取った。

あ、この人、ぼくのことを本気で心配してくれたんだ――

彼女の笑顔は、今まであんまり見たことがないような「深い」笑顔だった。
「感情の量」がとても大きいのに、そのすべてを笑顔に詰め込んだという感じだった。

役所の窓口でこんな笑顔をされたら溜まったものじゃない。

ところで、ぼくは写真を撮影してくるのを忘れていた。
写真がないことを指摘され、「あー忘れた!」と言うと……

「おー…… そしたら、五反田の駅前で撮ってきて。待ってるから。」

何となくだけど、ブラジルという国は、悪い国じゃないような気がしてきた。
ぼくは五反田駅まで走り、写真を撮影して戻った。

彼女に写真を渡すと、受け取って丁寧にチョキチョキと切ってくれた。
そして、書類申請が終わった。

最後に「オブリガード!」とか「チャオ!」とか言いたかったのだけど、日本語でやり取りしていたこともあって、うまく伝えられなかった。日本人らしいというか何と言うか「ああっと……えー、では……ありがとうございました……」とボソボソ言うのが関の山だった。

後でポルトガル語の本をもう一冊買おう。
ぼくはブラジルのことが好きになれるかもしれない。
今よりももっとよくわかるように努力したい。

語学の勉強は2月くらいから計画的にやろうと思っていたのだが、「魂を込めた執筆活動」と「語学の勉強」は絶対に両立しないことがわかった。両方とも、高い集中力と長い時間を必要とするからだ。だから、ぼくは殆ど「丸腰」状態でブラジルに行かなければいけない。そこはちょっと残念なところだ。今からでもできる限り頑張ろう。

ブラジル行きを人に伝えると……

有楽町にある東京交通会館のトラベル用品店によりお買い物。
トラベル用品の買い残しなどを仕入れ、完全防水で歩いた時の衝撃が逃げるスニーカーを購入。

完全にこれそのものではないけど同じブランドの商品。

防水というのがポイントだ。

靴の試着をしているときに、「いやーブラジルまで行くので、疲れない防水の靴が欲しくて~」と店員のお姉さんに言うと……

「ブラジル!!!!凄い!!!!羨ましい!!!!!」

という強烈な反応を得た。

「いやいや、治安悪いし大変なんですよ~」

などと言うと(これは謙遜ではなく素直な心境だ)、それでもW杯に行けるのは羨ましいと何度も何度も言われた。
結局、商品の説明や会計の合間などに、10分程度ブラジルについての雑談をしてしまった。

今になって思い出したんだけど、ぼくも最初は同じ気持ちだったような気がする。

次に、某所にある銀行で手続きをした(迷惑になるといけないので具体的な名前は出さない)。
結構時間がかかる手続きだったのと、ブラジルに関係することだったので、ここでもW杯行きのことを伝えた。

するとやはり非常に食いつきが良くて、ブラジル話ですっかり盛り上がってしまった。

ぼくの手続きを担当してくれていた方が、席を立った。
すると、窓口のお姉さんがこちらに顔を出して……

「どうも、本日はお手続きありがとうございました。」

「はぁ……どうも」

「あの……実は……私もサッカーファンでして、横の会話が羨ましくてずっと入りたかったんです。」

と突然言われて思わず噴き出してしまった。

「それなら、ブログでブラジルの現地レポートなんかもすると思うので良かったら読んで下さい。」

といって名刺を渡すと……

「あ、はとのす。知ってます!FC東京を初観戦した記事を書いた方ですか?!実は私……柏レイソルのゴール裏の住人なんです!」

 

 

なんだと?!

まさか、銀行の窓口で柏熱地帯について話す日が来るとは……

Jリーグを愛する者同士、仲良くなるのに時間は必要ない。次の瞬間にはすぐ打ち解けて、あーだこーだと話し始めた。
ぼくの新著『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった
』についても紹介すると、買ってくれるとのこと(ついでと言っては何だが、ぼくの手続きを担当してくれたお姉さんもノリで購入してくれるらしい。ありがとうございます!!)。

お仕事の邪魔になってはいけないと思って、そこそこのタイミングで席を立ったのだが、夢のように楽しい時間だった。2時間でも3時間でも居座ってサッカーの話をしていたかった。

サッカーの話をしよう!
これほど楽しいことは世の中にない。
知識はいらない、技術もいらない、ただ愛だけがあればいいのだ。

愛する対象も何でもいい。クラブでも、選手個人でも、選手の顔でもいい。試合の前後の飲み会でもいいし、共に応援する仲間でもいいし、サッカー旅行でもいい。ただそこに愛があれば、自然と仲間が増えていくのだ。

そして、仲間達の中でも、ワールドカップの現場に行って、日本代表の背中をダイレクトに押すことが出来ることは、最大の栄誉であり、羨望の対象だということもわかった。

ブラジル行きまで後4日に迫ったところで、久しぶりにワールドカップが楽しみになった。

ブラジル人と出会うのも楽しみだし、ワールドカップの雰囲気を味わうのも楽しみだ。
そして、日本代表がコートジワール、ギリシャ相手に連勝し、決勝トーナメントに進む。

強国イタリア相手に、堂々たる撃ち合いを演じ、最後には勝利することで、日本サッカー史に新たな一ページを加える。

その目撃者となるのだ!!!!

そしてその先、どこまでも……

「世界の果てまで、俺たちは共に、勝利を奪え」というのは横浜Fマリノスのチャントの歌詞だが、ぼくも日本が勝ち続ける限りどこまでも行こうと思う(ただし決勝はチケットが10万円以上するらしいので無理かもしれない)。

そしてザンビア戦をテレビ観戦

そして、ブログの更新を中断して、ザンビア戦を見てきた。
ザンビア代表は呆れるほど強かったけど、徐々にリズムを掴んでいく様は非常に見応えがあった。

コートジボワール戦も序盤を無失点で乗り切れるかが鍵かもしれないね。

0-2の劣勢から……
本田のPKで1点を返し、
香川のクロスが入っちゃった的な感じで2-2。

そして……
森重の華麗な縦突破から本田がねじ込む。
しかし、力業のミドルシュートで1点返されて3-3の同点に。

されど、ここで挫ける日本代表ではなかった。
出場したばかりの青山がロングフィードを出して、それを大久保が受けて、力強く蹴り込んだ!!!

青山から大久保なんて……Jリーグファンにとってはただただ泣ける。
敵に回すとどうしようもなく恐ろしい大久保が、日本代表では頼もしいストライカーなのだ。

大久保のチャントはこれ。

タンパは人が少ないけど、ブラジルでの本番ではサポーターも多いからテレビからも聞こえてくるはず。
その歌声には、ぼくの声も含まれているのだ。

書籍の情報

『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果思わぬ事になった』の入手方法。

店頭に並ぶのは6月10日、アマゾンや楽天で配送されるのは11日になる見込みです。

6月10日の昼過ぎくらいに、TSUTAYAブックストア神谷町駅前店に行くと、サイン入りの本が手に入るかもしれない?!(ブラジル準備があるので、サイン入りにできるかは確実ではないものの)

※ただし、サインはまだ考えていない……

また、6月8日のイベントの際には「手売り」する予定。どうやらこの時買うのが最速のようです。
サインも入れるつもりなので、お買い得!

※ただし、以下略

イベントの情報

「はとのす/中村慎太郎 『サポーターをめぐる冒険』出版記念イベント Jリーグ初観戦、そしてブラジルへ!!」

いよいよ明日!!
このイベントについて重要なお知らせがあります。

ニコ生やツイキャスでの配信は行わない予定だったのですが、地方在住の方からの要望があったことも踏まえて、一部配信することになりました!詳しくはTwitterかサブブログで告知します。

お席の埋まり具合は、30席中28席が予約で埋まっているので、今すぐ申し込めば少しお安い前売り券が入手できます。
キャパは30席と言いつつ、「頑張れば」40席作れるとのことなので、10枚程度当日券も販売できる見込みです。

お時間ある方は是非遊びに来て下さい!!!

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第四話 「空の上からザックジャパンを思う」

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