天皇杯にて、AC長野パルセイロの勇姿を見た。


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天皇杯。

ニワカファンのぼくには日程すらよくわかっていなかった。
FC東京vs大宮が11月17日(日)に開催されることは知っていたので、他の試合も同じ日にやるものだと思っていたのだが、11月20日(水)にも数試合が開催されることになっていたらしい。

日程を把握していなかったため当然ながら観戦する予定はなかったのだが、初観戦以降色々な試合に誘ってくれているHさんから前日に連絡があった。

「暇なら新横浜まで来るといいよ。伝説の男がいるから。」

伝説の男?!


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JFLの覇者 長野パルセイロ

伝説の男とは一体なんだと思いつつも、予定を切り詰めて慌てて新横浜に向かう。乗り換え案内を表示すると東京駅から「のぞみ」を使うように指示される。そんな高い電車に乗れるか!と思い、東海道線で横浜まで行ったのだが、時間を考えると悪くない選択だったのかもしれない。帰り道はのぞみで優雅に帰ってきた。

新横浜に着き、10分ほど歩くと日産スタジアムに到着。平日なこともあって、お客さんの入りはかなり少ない。広い日産スタジアムに対して、入場者数は6319人。

それでも、長野の応援席にいくとなかなかの活気があった。

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正確な数はわからないが、6300人のうち2000~2500人くらいは長野パルセイロの応援だったのではないだろうか。横浜F・マリノスのホームスタジアムで、この活気は立派だった。というのも、長野パルセイロはJFLのチームだからだ。

J1の下、J2の下のJFL。

要するに、と言い切っていいのかどうかはわからないが、3部に相当するリーグだ。1部であるJ1に比べると財政規模も大きく劣るだろうし、実力も大きく劣っていて当たり前のチームだ。

弱いチームが頑張って勝ち上がってきた。ぼくの知識はその程度しかなかった。

JFLのチームが、横浜F・マリノスとやるなら見ておいてもいいかもね、という軽い気持ちで観戦に赴いた。

来年度からJFLはJ3となり、今年からJ2への入れ替え戦が行われる。本来であればJFLの覇者である長野パルセイロが、入れ替え戦を行う資格を得るはずなのだが、スタジアムの整備などが整わないため今年はJ2への昇格資格を得られず、2位のカマタマーレ讃岐が入れ替え戦に出場することになった。

優勝しても何も得られなかった長野パルセイロにとって、天皇杯を勝ち上がっていくのは唯一残された使命だったのかもしれない。

試合前のサポーターの雰囲気から、この試合にかける長野パルセイロのひたむきな気持ちが感じられたような気がした。スーツ姿のサポーターが次々と駆けつけ、オレンジのユニフォームに着替えていく。そして、サポーター仲間で強く握手して、「今日はやるぞ!!!」と声を掛け合っていた。長野出身の方が多いのだろうか。内訳はわからないが、故郷のチームが横浜でJ1のトップチームと戦うなら駆けつけずにはいられないのではないだろうか。

対戦相手の横浜F・マリノスはJ1のトップを走っているチームであり、元日本代表のエースであり、スコットランドの名門セルティックの英雄としてチャンピオンズリーグを戦った中村俊輔を要する強豪中の強豪だ。

ジャイアントキリング。その現場を目撃することができるのだろうか。

JFL連合の盟主ロック総統と遭遇

我々はJFL連合席に向かった。
JFL連合というのは、勝ち残っている長野パルセイロを応援するためにJFL各チームのサポーター同士で協力しようという趣旨の集まりらしい。そして、連合の盟主が「ロック総統」だった。

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赤い彗星の……シャア?

ロック総統とは、JFLサポーター界(?)では超有名人のようだ。
過激なパフォーマンスで知られる「電撃ネットワーク」の元メンバー&マネージャーで、鹿島アントラーズのサポーターを経て、現在はホンダロックというチーム(JFLに所属)のサポーターをしている方らしい。

ホンダロックの成績は18位中18位。全国リーグとしては底の底という成績だった。

「勝てなければ駄目じゃないか、そんな弱いチームなんか応援してどうするんだ!」

調べてみるとそういう意見に対する強烈なアンチテーゼがロック総統らしい。勝ち続けないと意味がないというのならば、J1で優勝できるようなチームにしか価値がないということになってしまう。とすると、それ以外のチームを応援している人は「無駄なことをしている」のだろうか?

これは違う。J1で優勝争いができなくても、いやJ1ですらなくてJ2でも、さらにJFLであっても愛するチームを応援するという行為の充実感は代わりがないということのようだ。

「勝たないと駄目だ、勝たないとうまくいかない。負けているなら何か原因があるはずで、その原因を排除して1位を目指さないといけない。」

勝負事なわけだからこれは正しい。勝利を目指して戦わないものは永遠に敗者のままだし、応援する意味もない。一方で、「勝たない=応援する価値がない」というのも間違いだ。勝てるかどうかはわからないが、勝つために全力を尽くす。でも、相手を圧倒するだけの戦力は揃えられないことが殆どだから、頑張っても勝てないこともある。それは仕方がないことだ。

価値があるのは、勝つことじゃない。どうしても勝ちたかったら「サカつく」を勝ってきて、凄い選手をダウンロードしてきてJ1を全勝優勝してみたらいい。常に勝てるというのは現実ではないのだ。

ロック総統と少し話すことが出来たのだが、「今のJ1を変えようと思っても今更変わらない。だから、下の方から良いサッカー文化を創っていき、塗り替えていくことを目指している」というような趣旨のことを力強く語って頂いた。

シャアのコスプレに身を包み、話しをするたびにメガネがギラギラ光るのでついつい可笑しくてにやけてしまったのだが、内容は極めてまっとうだった。日本の観戦文化、いやスポーツ文化を一歩推し進めるのはこういう活動なのかもしれない。

そのうちぼくも紹介して頂く予定(ボツになっていなかったら)の徹マガでロック総統のインタビューが載っていたので、詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。

通巻148号 原理主義者よ、目前のサッカーを愉しめ! ロック総統(Miyazaki shock boyz代表)インタビュー<前篇> | 宇都宮徹壱公式メールマガジン「徹マガ」

天皇杯 長野パルセイロvs横浜F・マリノス

長野の応援は大盛り上がりでとても楽しかった。

オーオオーオーオー オーオオーオーオー
さあゆこうぜ 攻めあがれ長野!!!

長野パルセイロは序盤に何度かチャンスを作るも前半30分、佐藤優平にゴールを決められて0-1。

しかしその8分後、直接フリーキックのチャンスをエースの宇野沢が沈めて1-1に戻す。

前半の間は、ニワカのぼくが見る限りは互角の勝負だった。シュート本数を見たところ、長野が6で横浜Fが5なので、その見立ては大きく外れてはいないだろうと思う。

しかし、選手目線で考えると、技術やスピードで上回る相手と戦い続けるのは本当に疲れることなのだ。これはサッカーの試合に出たことがある人なら簡単できることだろう。全体的な技術のレベルはどうみても横浜F・マリノスのほうが高い。

疲れもあったのか後半は長野パルセイロが劣勢だった。

……実はぼくはまだ互角と見ていたのだが、横にいたベテラン観戦者に聞いたところ、「どう見ても横浜のペースだよ、ペナルティエリアへの侵入数とかカウントしたら全然違うんじゃない?」と言われてしまった。

いや、でもその辺りまではカウンターでゴールに近づいたりすることもあったし、劣勢とはいえ競っていたのは間違いない。

しかしながら、長野パルセイロを悲劇が襲う。
後半59分に、あの男がピッチに立ったのだ。

英雄 中村俊輔

胆のう炎で入院していたこともあって、この日は中村俊輔をみることが出来ないかもしれないと残念に思っていた。一度目の前で見てみたいと思っていた選手だ。

この日は、後半59分、同点の場面での出場だった。リハビリを兼ねつつ短時間出場させることと、長野パルセイロの守備ブロックを打ち崩すことの2つを目的とした交代だったのではないだろうか。

中村俊輔が出てきた以上、どんなサッカーをするのかを見届けなければ!!!

日産スタジアムはピッチまでの距離がかなりある上に、傾斜も小さいので反対側のゴールがとても見づらい。後半は、「向こう側」のゴールに横浜が攻めていた上、俊輔が出てきてから長野はさらに劣勢になったのですごく遠くで試合が行われていた。

しかし、ぼくにはバードウォッチング用のハイパー双眼鏡がある。距離を10分の1まで縮めることができる!(その代わりちょっと酔う)。

邪道と言われることがあるので、FKなどの時に限定的に使うことにしているが、陸上競技場を兼用しているスタジアムでは双眼鏡があったほうが楽しめるような気がする。判定で揉めてる時とかに使うとても便利。ただし、邪魔なのは間違いない。

あと、試合中にチョウゲンボウとかオオタカとかが飛んでしまうと試合どころじゃなくなるので、そういう意味でも注意。

さて、話が逸れたが、双眼鏡のおかげで中村俊輔のプレイを集中的にみることができた。

その感想は……

一言で言うと……

見事!

トップ下あたりを起点に、縦横無尽に動き回り、ボールを受ける。プラスをヒラヒラとかわして決してボールを失わない。かと思うと、トンっとボールを蹴り出してコロコロと転がっていったと思うと、逆サイドで前を向いている選手の前まで到着する。

密集しているように見える場所でも、中村俊輔にはディフェンスの隙間がよく見えているようだった。クルクル周りながら、試合を動かしていく中村俊輔はまさしく圧倒的だった。文字通り別格の選手だった。

そして、セットプレイでのボールの軌道が明らかに普通と違っていた。美しい滑らかな軌道を描いていた。

中村俊輔が支配力を発揮したことが効いていたのか、あるいは長野側に疲れが出てきたのか、試合は一気に横浜F・マリノスよりの展開になっていく。

後半のシュート数をみてみると、横浜Fが8本に対して長野は2本。しかしながら、結局両チームとも追加得点はなく1-1のまま延長戦に突入した。

地獄の延長戦へ

延長戦が始まろうとしていた。
地力で劣る長野パルセイロにはもう力が残っていないように見えた。ピッチサイドでは、足を攣りかけている選手がペアストレッチをしているのを確認することができた。

強力な相手と戦うために走り続ける必要があった。その結果、もう殆ど体力が残っていなかったのではないだろうか。延長戦が始まった後、長野パルセイロは完全に劣勢となってしまった。

次々と押し寄せる攻撃を辛くも跳ね返したが、97分、つまり延長戦が始まった7分後に失点をしてしまった。

延長戦前半は長野シュート0に対して、横浜Fは4本。

そして延長戦前半が終了する。

1点差をつけられ、残り時間はわずかに15分。短いハーフタイムの間、選手達は必死に体力を回復させようとしていたが、もはや余力はないように見えた。ここまで来ることができたのだから、もう負けてしまっても誰も文句を言えないだろう。J1で1位の成績をあげているチーム相手にJFLのチームが延長戦まで粘ったのだ。

どう考えてもこれ以上戦えるわけがない。後は一方的な展開になるか、あるいは横浜F・マリノスが悠々とボールを回して終わるものだと思っていた。だって、そういう展開になるほうが自然ではないだろうか。長野パルセイロの選手達は見るからに疲れていたし、横浜Fにはテクニックがある選手が揃っている。

しかし、そこから長野の猛烈な反撃が始まった。

まさかの展開だった。先ほどまで疲れ切っていた長野パルセイロの選手達が突然生き返って、横浜Fのゴールを脅かし始めた。憶えている限りで決定機は2つ以上はあって、後もう少しコースがずれていれば、後もう少しだけでも強く蹴ることが出来たらゴールしていただろうという非常に惜しいシーンが見られた。

シュートが外れると長野の応援からは絶叫とも悲鳴ともつかない声が漏れた。
延長戦後半のスコアを見ると、シュートが3本。その間、横浜Fのシュートは0本。シュートが撃てずに終わった決定機もあったかもしれない。

明らかに長野パルセイロは押していた。最後の力を振り絞っていた。横浜Fの選手達やサポーターは何度も肝を冷やしたに違いない。延長戦前半とは全く違う迫力があった。

同点に追いついてPKになるのではないかと期待したのだが、無情にもシュートはゴールネットを揺らすことはなかった。残念だ。ところで、帰り道にテレビ観戦をしていた人からは「もうちょい狙えば同点だったのにね」という感想を聞いた。

それはちょっと違う。長野の選手達は延長戦に入る頃にはとうに限界を超えていた。コートサイドで苦痛に顔を歪めながらストレッチをして、軋む身体をだましながら必死に走っていた。限界を超えた状態で走り続けるのがどれだけ辛いことか、実際に選手になってみないとわからないことではある。しかし、テレビの前で見ている観戦者よりは、すぐ傍にいる我々の方が理解しやすかったのではないだろうか。

苦悶の表情を浮かべながら、長野パルセイロの選手達が駆け上がってくる。屈強のディフェンスラインを意地と根性としか言いようがない迫力あるプレイで打ち砕こうとしていた。

決定的なシュートが外れたことは本当に残念だった。しかし、もう限界を超えていたのだ。軸足の踏ん張りは利かず、シュートには力が籠もらなかった。確かにあと少しという風には見えたが、そこまで持って行くだけでも奇跡だったのだ。

最後の15分間の勇姿を、ぼくは確かに見届けた。

長野パルセイロという勇敢なチームが最後の最後まで闘志を失わずに戦っている姿を見た。また、応援の声も最後まで途切れることなく鳴り響いていた。

アレ長野 見せつけろ 俺たちの力を
アレ長野 俺たちと 勝利をつかみ取れ

延長戦後半の時のチャントはこれじゃなかったと思うのだけど雰囲気が伝わってくれると良いと思ってアップロードしてみた。厳密な著作権はないとは思うものの、音声のアップロードに問題があるようだったら削除するのでご指摘頂きたい。

観客達は声が枯れるまで叫び続け、選手達は限界を超えて走り続けた。あれだけの人が駆けつけ、必死に応援していたからこそ、最後の15分に死力を尽くせたのだろう。あの瞬間の長野パルセイロは世界で1番強いチームだったに違いない。

しかし、試合の結果は無情なものだ。終了のホイッスルが鳴り響き、長野パルセイロの敗退が決まった。

その時、サポーター達は惜しげもなく拍手を送った。ここまで戦い抜いてくれた選手達に罵声を浴びせる人などいるわけがない。

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戦いに敗れた選手達がゴール裏へと挨拶に来た時、サポーター達はオレンジ色のタオルを掲げた。
そして、「AC長野!AC長野!」という短いコールを発した。

言葉こそ少なかったものの、サポーターと選手は雄弁に対話しているように見えた。サポーターは、選手の勇姿を見届けたことを報告し、その努力をねぎらった。選手達は、勝てなかったことの悔しさや申し訳なさを抱えながらも最後まで声援を送ってくれたことに感謝していた。こういう風に見えたし、実際にそうだったに違いない。言葉にすら必要がないほど、サポーターと選手は通じ合っていた。

良い試合を観ることができた。ぼくも長野パルセイロの勇姿を目撃することが出来た。最後の最後まで戦い続ける姿は本当に格好良かった。選手の名前は途中で覚えた宇野沢以外誰もわからなかった。しかし、チームの全員が勇敢に戦い続けているということはよくわかった。

これだけ強かった長野パルセイロだが、来年はJ3を戦うことになる。

J3であっても短期決戦でならJ1上位のチームと十分に戦えるくらいの実力はあることは紛れもない事実だった。日本のサッカーの裾野の広さを感じることができた。

長野パルセイロは普段どういう場所でサッカーをしているのだろうか。ホームでの彼らのサッカーも見てみたくなった。

そして、うどんの国讃岐へ

JFL、J3、日本のプロサッカーの裾野の部分、あるいはアマチュアとの境界線とでも言うべきなのか、現状を把握しきれていないので正確な表現はできない。しかし、ロック総統との出会いや、今回の長野パルセイロとの勇姿を見届けたことによって、下のカテゴリーについても強く興味を持つようになった。

そんな時、うどんの国から一通のメールが届いた。

12月1日と8日に、J3(現JFL)とJ2の入れ替え戦が行われる。対戦するのはJ2で最下位になってしまったガイナーレ鳥取と、JFLで2位だったカマタマーレ讃岐の2チーム。ホーム&アウェーで対戦し、勝利したチームが来季はJ2で戦うことになる。

この入れ替え戦が、J2プレーオフと丸かぶりの日程なので、注目度が上がらないで困っている。だから、はとのすで特集して欲しいというメールだった。現状、J1の知識だって怪しいのにJ2やJFLなんて到底わからない。

しかし、この「はとのす」が誰かに頼られたのだ。出来ることはやってやろうじゃないか!
口は悪いが情けにゃ弱い、江戸に生まれた男なら、やると決めたらとことんやるぜ!!

ロック総統の言う革命、今のJ1にはない好ましい何かがJFLでは見つけられるだろうか。ぼくが見るのは単にレベルが低いサッカーだろうか、それとも、今の段階では想像していないものを見ることが出来るのだろうか。楽しみだ。入れ替え戦もこの目で見届けたいと思う。


はとのすのJリーグ記事が本になりました!
序盤はブログ記事を大幅に加筆・修正したものですが、中盤以降はどこにも書いていないものが殆どです。

本の内容についてはこちらをご参照下さい。
前書きと目次の紹介『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬ事になった』


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