東大に11年在籍した後、タクシードライバーになりました

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Jリーグ サッカートピック サッカー論

天皇杯準々決勝にて、塩田仁史の情熱が東京を1つにした。

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もう何もかも吹き飛んだ。なんて試合だったのだ!!!


初観戦より約二ヶ月。心の中の何分の一かは確実に「青赤」に染まっていた。
しかしながら、半歩退いて冷静に見てしまう自分がいるのも事実だった。

思えば東京人というのはそういうものなのかもしれない。一見すると社交的には見えるものの、実は疑い深く容易には心を開かない。いつもちょっと冷めていて、半歩退いたところから批判的に物事を見つめている。そりゃそうだ、誰にでも簡単に心を開いていては、東京では生活ができない。キャッチセールス、詐欺師、マルチ商法、新興宗教。様々なものが笑顔で近づいてきてはお金をむしり取ろうとしてくる。

そして、FC東京というチームは、東京人あるいは東京メンタリティを持った人達の集まりだ。

必然的にFC東京のゴール裏には、「半歩退いたところから見つめる」観衆が存在している。その結果、ゴール裏であっても選手に対する批判的な声を出す人がいる。

ぼくは始めてそれを聞いたときに何か違うなと思った。
選手達のことは最後まで信じるべきではないのか?
試合中に選手を責めるのは、12番目の選手であるサポーターとしては絶対にやってはいけないことなんじゃないだろうか?
それは、途中で試合を投げ出したことと同じ事ではないだろうか?

初観戦の試合を経て、FC東京のことは好きになっていた。しかし、自分はサポーターにはなれないかもしれない。いつしかそう考えるようになっていた。

ゆるいファンとしてFC東京を追いかける。
そのくらいの距離感が一番いいのではないか、と。

だから、12月22日の天皇杯はテレビで観戦しようと思っていた。
だって、往復で2万円以上をたった1試合のために払うなんて馬鹿みたいじゃないか。

ぼくは仙台には行かない。国立まで勝ち上がってきたら応援しよう。そう決めた。


……そう決めた直後だった。
ルーカスが大けがを負って、天皇杯への出場が不可能になった。

ルーカス…… ルーカスが!!!!

ルーカスが怪我をしてしまった!

ルーカスは、FC東京の大黒柱であったが今年で引退することが決まっていた。残された試合は天皇杯だけだったのだ。

しかし……

引退が早まってしまった。
ルーカスは最後の決戦に参加することができなくなってしまったのだ。どれだけ無念なのだろうか。

ぼくは、FC東京のゆるいファンであり、俗に言うニワカファンでもある。だから、ルーカスのことをずっと見てきたわけではない。たったの二ヶ月だ。それまではルーカスの存在すら知らなかった。最終節に行われたルーカスの引退セレモニーだって見ていない。

特別な思い入れはなかったはずだ。にもかかわらず、どうにもならないほど胸が痛くなった。あのニコニコと笑顔を浮かべて子どもを抱きしめながら歩いていたルーカスが、力強くボールをキープし、何度も何度もチャンスを作っていたルーカスが…… もうFC東京のサッカー選手としてプレーできなくなってしまった。

ルーカス抜きで一体どうするんだ!!!! 

中盤にルーカスほどの選手がいても、攻め手を欠いて、カウンターからの失点を繰り返してしまうチームなのだ。

ルーカスなしで、どうやってパスをつなぐんだ!!どうやって攻めるんだ!!!

ぼくは、ベガルタ仙台に押し込まれて、集中砲火を浴びて、ボロボロになって無残に負けてしまうFC東京のことを一瞬想像してしまった。

……

駄目だ!!!

ぼくが行かなければ!!!

なんでそんな心境になったのかはよくわからない。
でも、仙台に行って応援すれば何かを変えられるかもしれない。

いや、変わるわけがない。自分1人だけが行ったところで何かが変わるわけがないのだ。
一瞬冷静になるのだが、次の瞬間には行かなければいけないような気がしてくる。

とはいえ、2万円以上も払うわけにはいかないのだ。
現在、Jリーグのことを自分なりに取材したり書いたりし始めているが収入はほとんどない。
以前やっていた「フリーランスライター」の仕事は、8月に全部やめてしまったから、なんというか……名実ともにフリーな状態というか……

そんな中で2万円は痛い。

何より、仙台まで行くにはちょっと厳しいスケジュールだった。
19時には阿佐ヶ谷ロフトに行くことにしていたし、事情があってキャンセルはしたくなかったので、それまでに戻ってこないといけない。
時間的にかなり厳しい。

だから、諦めて無難にテレビで観戦しようと思った。仕方がないことだ。

ところが……

この日の放送は録画中継で、生放送がなかった。
ということは、スケジュールの都合上、観戦できるのは翌日になってしまう。翌日の23日は予定がびっしり詰まっているので、最悪の場合24日まで観ることができない。

それでは駄目だ。それでは駄目だ!!それでは駄目なのだ!!!!

行かなければ。仙台に行かなければ。ルーカスを失ったFC東京の選手達がどう戦うのか見届けなければ!!! そして、少しでも後押ししなければ!!!!!


「この気持ち、止まらないぜ!!!!」

というバモバモ東京のチャントの一節が頭に浮かぶ。

でもね……本当に2万円はきついんだ……本当に……この頃、飲み会なども多いし…… 飲むのは好きだけど、本気でキツい…… どうしようか……

などとTwitterで愚痴をいっていると、日本代表サポーターであり東北のボランティアなどの社会貢献活動をしている「ちょんまげ隊のツンさん」から「ツンタク(タクシ-)仙台行き、1人空いてるよ」というリプライを頂いた。

ツンさん!! 親に借金してでもブラジルに行こうかと迷い倒している時でもあったので、ツンさんには是非会ってお話を聞いてみたかった。


というわけで、連絡を頂いてから1時間以内に仕事に片をつけ、ドンキホーテへと走ってサンタ帽子を購入した。そして、慌てて準備をして、ツンタクの待ち合わせ場所へと走った。

ツンさんは自由で魅力的な人で、他のメンバーもとても面白くて、大変楽しかったわけだけどこれを書くと長くなるので割愛。


そして試合へ……

なんというべきなんだろうか。
今の段階で、この試合について、表現しきる自信がない。まだ、どうやって書いたらいいのかわからない。

スタジアムで体験したことを、ちゃんとした自分の文章に直すためには、最低でも5日は挌闘し続けないといけない。しかし、現状ではその時間が取れない。年が明けてしまう。だからいま書くのは難しい。

書きたいことがあるのに、うまくまとめられない。悔しくて苦しい。

かといって、どうやっても時間が取れないし……

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ユアスタについて、石川直宏について、平山について、サンタ帽子について……色々と書きたいことがあるが、とても書き切る時間がない。

ここでは一番大事なことを書きたい。多少粗くなってしまうのを覚悟の上で、今の気持ちをスケッチしておきたい。
そう、塩田のことだけは書かなければ。

FC東京の正ゴールキーパーは権田だ。日本代表にも呼ばれていて、オリンピックでは正ゴールキーパーを務めた若きスターだ。
セカンドキーパーには塩田が控えていたが、若く才能溢れる権田の後塵を拝していた。

その塩田が、天皇杯の準々決勝、大切な大一番でスタメンを勝ち取った。

試合前の練習時間に、気合い十分で現れると、ゴール裏からは「しおたーー!!!!!」「しおーーー!!」「たのむぞーーー!!!!」と熱い声が飛ぶ。

塩田はそれに応えて、ゴール裏に手をあげ、頭を下げた。

その引き締まった表情から塩田の闘志が伝わってくるようだった。なんというか…… 命を賭けた覚悟のようなものが感じられた。
その気持ちはゴール裏にも確かに伝わった。

特別な一戦、絶対に負けられない一戦だという明瞭なラインを引いたのは紛れもなく塩田仁史選手だった。これは間違いない。少なくとも我々にとってはそうだった。これがテレビ観戦とスタジアム観戦の最大の違いだろう。テレビで観ている人には、塩田の揺るぎない覚悟は伝わっていないだろう。本当のことを知りたかったら、スタジアムには行かなければならないのだ。

ルーカスの離脱、塩田の覚悟。そしてそれを受けたFC東京のサポーター。この日のゴール裏はいつもと少し違っていた。

前述の通り、FC東京のゴール裏は、結構荒れている。
しかし、この日は少し違っていた。気まぐれなゴール裏が、この日は1つの塊になっていた。
まとまりがなくて、すぐにチャントを歌うのをやめてしまう人が多かったのに、少なくとも周囲にいた人はみんな声がかれるまで叫んでいた。

選手がミスをした際にも「次だ-!次-!!!」とポジティブな声が飛んでいた。

以前ぼくはFC東京のゴール裏で、何度か酷いヤジを聞いた。たとえば、高橋秀人に対して「なんもしないなら引っ込め!!」と叫んでいる人もいた。そして、ぼくは思わず文句を言いそうになった。「試合中に自分たちの選手に文句を言うな!!!」と怒鳴りつけてやろうかと思ったくらいだ(何せ、ぼくはその高橋秀人のユニフォームを着て応援していたのだ)。

試合中に自分のチームに対して噛みつくような人と一緒の空間にいたくないとまで思った。その日、一緒に行った友人も二度とゴール裏には行きたくないと言っていた。
あの日は最低最悪だったのかもしれないのだが、ともかくそんな日もあった。

ところが、そんなFC東京のゴール裏が団結していた。
その日、ぼくがみたのは全く別のものだった。

力強く、ポジティブで、それでいてウィットに富んでいた。応援として最上級のものだったし、サポーターの姿勢も本当に素晴らしかった。まるで別物だった。FC東京サポーターはイベントごとが好きなだけだという説もあったが、ルーカスがみんなの心を1つにしてくれたのかもしれない。

でも、ぼくの感覚としては、あの空気は塩田仁史という男が完成させたと思っている。

気まぐれでプライドが高い個人主義者達が、塩田という巨大な情熱のもとに1つになった。

今日は必ず勝つ!!! 必ず勝てる!!!

試合前からそう直感していた。この感覚は、ぼくだけのものではなかったらしい。複数の人から聞いたし、コールリーダーの植田朝日さんもそういった主旨のことを発言していた。

負ける気がしない。

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

しかし……

開始から約3分。FC東京は失点をしてしまう。
あくまでもぼくの見解だが、この失点は塩田のフィードミスから生まれた。
フィードが低く、相手のMFに絶好のパスになってしまったのだ

そこからパスを繋がれ、波状攻撃を仕掛けられる。

そして最後にはウィルソンに押し込まれ、失点……

この失点は塩田だけの責任と言うつもりはない。しかし、塩田の気持ちとしては「俺のせいで一点を与えてしまった」という思いはあったのではないだろうか。
プロとは全く次元が違うレベルではあるが、ぼくもGKとしてプレイすることが結構ある。セービングは得意なのだが、フィードがとにかくヘタクソなので、ミスをすることが多い。自分のミスから相手の攻撃を招いてしまうと強く反省するし、申し訳ない気持ちになる。

塩田がそういう気持ちになったかどうかはわからない。しかし、ぼくとしてはそう解釈した。

そして、その直後に目撃することになった。

鬼神と化した塩田の姿を。

そこからの塩田は、凄まじい気迫だった。
何がどう起ころうが、二度とゴールを割らせることはない。そう決意したのではないだろうか。

ありとあらゆるシュートも止めた。相手の決定機を何度も潰した。
念力でシュートを逸らしているのではないかと思えるくらい、ベガルタ仙台のシュートは逸れ続けた。

「塩田から二度とゴールは奪うことはできない。」

何度かヒヤヒヤするシーンもあったのだが、心の底では安心していた。

2点目を取られることは絶対にない! だから、もう1点取れば、延長かPKまで行くし、2点取れば勝てる!!!!

この感覚に根拠はないのだが、同じ事を感じていた人は結構な数いたのではないだろうか。

しかし、攻撃陣には不安がある。

前半は、ちっとも前にボールが運べなかった。森重とヒョンスのところでパスを交換するのだが、縦に通せない。仕方がなく後ろに戻し、塩田が大きく蹴り出す。これの繰り返しだった。高橋秀人が最終ラインまで戻ってきて組み立てようとするものの、効果的な攻撃ができないまま前半が終了してしまった。残念ながらいつものパターンだ。

そして、後半は石川直宏と平山が登場する。

石川直宏が入ると、途端に攻撃が活性化する。後半は惜しいシーンが続いていく。いつ点が入ってもおかしくない……はずなのだが、どうしてもフィニッシュができない。
負ける気はしなかったが、時間はどんどん過ぎていく。

あと20分ある……

あと15分ある……

あと10分だ……

まだアディショナルタイムがある……

勝てるはずの試合なのに負けてしまうこともある。理屈ではそうなるが、ぼくは最後の瞬間まで負ける気がしなかった。ゴール裏にいる自分に出来るのは応援することだけだ。信じることだけだ!

オオ 俺の東京 今日も行こうぜ勝利目指し
行け行けよ東京 いつも俺らがついてるぜ
誰が何と言おうと 周りを気にするな
自分を信じていれば 勝利はついてくる

最後の10分程度はずっとこのチャントだった。最高のチョイスだと思う。

そして、最後の最後。ラスト1プレーか2プレーというタイミングで、ゴール前においてフリーキックのチャンスを得た。

俺の東京には、「最終兵器こーすけ」がいる。最後のチャンスだ、決めてくれよ!!!!

と思ったら、塩田が走ってあがってくるのが見えた。ゴールキーパーが?
そうだ、そうなのだ。これが最後のプレイだから、少しでも成功率をあげないといけない。
そして、万一の時にもう1点取られたとしても、同じ負けだ。結果に差はないのだ。

ゴールキーパーが攻撃に参加する。これは合理的な判断だろうと思った。

……と思ったら、何やら指示をすると塩田は自陣に引き返してしまった。

鬼神と化した塩田が、最後の攻撃に参加した。
指示をしたのか、激励をしたのかはよくわからなかったが、敵も味方もみんな「鬼神」の姿を目にした。

敵は恐れ、味方は奮い立った。そういう気がした。
その次点で、FKが決まることは確定していた。
外れるわけがない。絶対に決まる。間違いない。

もちろん、それだって100%ということはない。外れてしまう悲劇も可能性としてはある。しかし、それは1%以下だ。
そういう実感があったのだ。この気持ちが何なのかは、今の時点ではうまく説明できない。

このシュートは間違いなく決まる。
だから、こーすけの美しいFKを動画で撮影しよう。
ぼくはカメラを取り出した。

ご覧のように美しいシュートだった。
シュートが決まると、すぐにカメラの電源を切った。
喜びの宴に参加しなければいけなかったからだ。

周囲から大歓声があがる。

「やったー!やったー!やったー!やったー!」

東京ララララ 東京ラララララ
わっしょい! わっしょい!
ララララララ ララララララ ララララララララ! イエーーー!!!!

何だかFC東京のゴール裏ではないみたいだった。

勝った!!! 勝ったのだ!!!!!

いやまだスコアは引き分けだ。試合はこれから延長戦に突入する。しかし、もう流れはもらった。1-1の同点ではない。圧倒的なアドバンテージがFC東京にある。

この日のベガルタ仙台の応援は、凄まじい迫力だった。友人に聞くと、気圧されてそのまま負けてしまうことも過去にあったらしい(もちろん、個人の感想だ)。
ユアスタというスタジアムは、音声が反響してくるので、相手の応援の迫力がすごい。

確かに、ベガルタ仙台のゴール裏に気圧される感覚はあった。
しかし、試合の終了間際に追いついた時、相手側から来る威圧感が弱まったのを感じた。

実際に少し音量が落ちたのではないだろうか。

それを聞いて、「勝てる!」という思いが強まった。

カップは頂き! 俺たちゃ無敵の東京!

景気のいいチャントが歌われる。
しかしながら、なかなか点が取れない。

ベガルタ仙台からは佐々木勇人という活きのいいドリブラーがピッチに送り込まれてくる。
疲れがたまる延長戦にこういう選手は怖い。

嫌な予感もゼロではない。でも負ける気もしない。何とも言えない不思議な気持ちだ。何だろうかこれは。
この感覚はスタジアム以外で味わえる場所がないのではないだろうか。

延長戦後半だったと思うが、こういうチャントが出てきた。

楽しい都 恋の都
夢のパラダイス 華の東京

東京という土地に対して恥ずかしくなるほどポジティブな見解を伝える曲だ。
楽しい、恋の、夢のパラダイス、華の東京。
自分の生まれ育った土地だ。

どういうつもりなのかは知らないが、わざわざ地方から人が集まってきて、東京の悪口を言っていく。
新宿に人が多すぎて気持ちが悪いだの、治安が悪いのだの、情緒がないのだの、食い物が不味いだの文句を並べる。

「死にてぇくらいに憧れたのはそっちの勝手だろうが!!!」
あなた方にとってはどういう存在なのかはわからないが、ぼくにとっては世界で唯一の愛する町であり生まれ故郷なのだ。悪く言うことはゆるさん!!

そう思っていても、表現する機会はなかった。東京愛なんて概念は存在しない。東京人は争いを避けて、黙っているものだ。
でも、本当は、今までずっとムカついてきたのだ。ぼくは東京が大好きだったのだ。

東京に対する肯定的な歌は、心の琴線を振るわせ続けた。

試合の終盤、一番苦しいタイミングで、この曲にはやられた。心がガツンと殴られたような気分だった。涙が止まらなくなった。
これはぼくだけじゃない。みんな泣いていた。声がガラガラになっていたが、みんな大声を出していた。

東京こそすべて 俺らを熱くする
情熱をぶつけろ 優勝を掴みとれ

東京こそすべて、そう、東京こそすべてなのだ!

そして曲の切れ目には「塩田コールが入る」。

「塩田!塩田!塩田!塩田!」

みんなわかっている、この試合は塩田なのだ。塩田こそが生命線だし、塩田の力で競っている。そして最後には、塩田の気迫によって勝つ試合なのだ。
もし万一、塩田が挫けてしまったら、塩田の心が折れてしまったら…… そんなことはないとは思うが、その時点で試合が終わってしまう。

だから、塩田にはエールを送り続けなければいけなかった。

延長戦の最後の時間、この日何度も歌われたチャントが始まる。

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

ラーラララララララー ラーラーラーラー
カップを奪い取れ!! 掲げよ東京!!

石川直宏が切り崩したところからグラウンダーのクロスをあげた。
そして、林容平が押し込んだ。

林という選手は知らなかったのだが、彼は一躍ヒーローになった。ぼく以外にも林のことを知らなかった人はいるかもしれない。今調べてみたが、今年のリーグ戦では3試合しか出ていないし、出場時間は合計7分だった(カップ戦は出ているかもしれないが)。

しかし、試合が終わった今は、林容平のことを知らない人はいない。ヒーローは一日で生まれるのだ。

林のシュートのあと、最高に幸せな時間が始まった。

メリークリスマス。選手達のラインダンス。シャーシャーシャー。ポポ東京。お正月。ルーカスゴール。ロマンティックをあげるよ。

ルーカス、勝ったよ!!!!!

涙で滅茶苦茶になって、声もガラガラに枯れていた。そのへんのおじさんたちと抱き合って喜んだ。みんな泣いていた。いいおっさんが、涙で滅茶苦茶になっている。ぼくも涙でグチャグチャだ。
もみくちゃになって喜んだ。

あまりにも大きすぎる感動。心がグラグラと揺さぶられて、今自分がどこで何をしているのかもわからなくなった。
巨大な衝撃にすべてが吹き飛んだ。
ただ、FC東京というクラブに対する愛情と、共に応援した仲間に対する親愛の情だけが募った。

結局、往路にツンタクに乗せてもらったおかげで、諸経費をあわせて約2万円の出費で済んだ。とはいえ、1試合見るために2万円というのは安い値段ではない。
しかし、全く後悔がない。安かったくらいだ。

たった、2万円でこんなに感動できることがあるだろうか? いや、お金の問題じゃない。お金を払っても決して手に入らないものがそこにはあった。
偶然運が良かっただけかもしれない。しかし、行って良かったという思いだけは変わらない。

試合が終わった後、しばらく声がでなかった。
「写真を撮ってもらえませんか?」と、ダブルデート風味のカップルに頼まれたのだが、「チーズ」がうまく言えない。「ジーズ」になってしまう。声が出ない。

そして、仲間達と喜び合う最高の時間を過ごした後、いそいそと阿佐ヶ谷へと向かった。


塩田のファンだというFC東京サポーターにあったことがある。いつも出場しないセカンドキーパーのユニフォームを着て応援していたらしい。

「何故、塩田なのか?」

そう尋ねると、塩田がいかに熱くて、チームを奮い立たせることができる選手なのかを力説してもらえた。しかし、30分くらい聞いていても、ピンとこない部分もあった。理屈で分かることと、感覚で知ることの間には大きな違いがある。

しかし、もうわかった。塩田の凄さはよくわかったし、ぼくもファンになってしまった。
調べてみると塩田はぼくと同じ年だった。しかも、誕生日もほぼ一緒なのだ。
なんという親近感!!!

そして思う。32歳という年齢でなければ、この日の塩田はなかっただろう。
そりゃ20代半ばのほうが身体は動くだろう。しかし、軽いんだ。20代の人間では人は動かせない。
動かしているつもりにはなるかもしれないが、決して心を揺さぶれない。
もちろん、例外はあるが、往々にしてそうなのだ。

人の原型は20歳頃までに決まるが、それ以降どういう人間になっていくのかは20代をどう生きるかで決まる。
塩田の20代は、プロ選手としては不遇の時代だったようだ。ずっとセカンドキーパーであり続け、チャンスを掴んだと思った矢先に怪我をしてしまう。
その怪我の間に、若きスターである権田が現れる。
(怪我ではなく、病気だったようです。失礼しました。)

そんな中でも、塩田は決して揺るがなかったのだろう。ぼくは、過程を見ていないが、今の塩田をみればある程度わかる。
腐らずに、向上心と野心を持ち続け、再びチャンスが来た時には何がなんでも掴もうとしていたのだろう。

揺るぎなき精神、不屈の努力。

塩田の存在がなければ、FC東京は勝てなかった。間違いない。

そして言いたい。試合中に、自分たちの選手を非難していた者に言いたい。
非難をすれば、物事が良くなるというのは間違いだ。

もちろん、試合の前後に冷静な批判をすることは有効なこともある。
しかし、戦闘中に味方の背後から襲う行為は卑怯だし、何も生まない。
信じて、背中を押し続けなければいけない。応援ってのはそういうものじゃないのか?

一方で、そういったメンタリティこそ東京らしいと思う部分もある。
今でこそ、ぼくは愛を知っている。自らの利のために、人に恋するのではなく、無償の揺るぎない愛の存在を知っている。
しかし、10年前、いや5年前であったら、チームへの愛というものはわからなかったかもしれない。

ぼくも、「あー、やっぱり○○はダメだね、視野が狭いから。そもそも、補強がなってないし、監督の戦術がダメなんだよ」みたいな突っ込みを試合中にしてたかもしれない。

そう、だから、試合中に非難の声をあげているのは、昔の自分なのだ。東京人としての自分の昔の姿だと気付いた。

でもね、塩田みたいに黙って戦い続ける男のほうが格好良いと思わないか? その方が自分も充実すると思わないか?
最後まで選手を信じて声を出し続けていた日と、選手を疑い、時に罵声を浴びせた日と、どっちが楽しかっただろうか。どっちがチームに力を与えていただろうか。

塩田の存在は、東京という町に強い示唆を与えているような気がしてならない。

Jリーグに迷い込み、自分はサポーターにはなれないなと、気持ちが引いたこともあった。Jリーグ自体は面白いから、色々と調べていきたいと思っていたが、どこかのチームだけを応援する日は来ないと思っていた。ぼくはサポーターとは違う、と。

しかし、この日を境に何かが変わった気がする。
塩田によって、結びつけられ、1つの塊になったゴール裏。あそこにいたメンバー全員に特別な親しさを感じる。仲間になったのだ。

今まではどこのサポーターであるつもりもなかったのだが、「FC東京のサポーター」と名乗ってもいいような気がしてきた。いや、「コア」とか「ガチ」までは出来ないけど、あくまで「ゆるサポ」として。

他のチームも観てみたいという気持ちは強くあるし、「ゆるサポ」というものを世間に推奨していきたいという気持ちもあるから、特定チームのサポーターと名乗るとやりづらいなぁという気持ちもあって……

とはいえ、サポーターになってみないと、サポーターの気持ちがわからないというのも事実なのだ。

Jリーグの上層部が、サポーターの気持ちを逆なでするような言葉ばかり言うのは、彼らがサポーターではないからだ。

どうしよっかな…… サッカーのことを仕事として書くのははやめて、ただのFC東京サポーターになるのもいいなとちょっと考えてしまった。そして、試合中に仲間を非難する惰弱なメンタリティを修正したい。勝負の最中で仲間を非難するのは、自らの心の貧しさを告白したのと同義なのだ。そういう態度を取る人を1人ずつ捕まえて説諭していくことで、東京という町がより良いものになっていくかもしれない。いや、そんな面倒なことはやっていられなくなるかもしれない。

……

そして、東京というのはFC東京だけじゃない。
結構色んなチームがあるらしい。

現時点でぼくが知っているチームは、FC東京、東京ヴェルディ、横川武蔵野、東京23、スペリオ城北、青梅FC。どこまでがプロでどこまでがアマチュアかよくわからないのだが、何か色々なチームがあって、サポーターもいるらしい。東京愛を考えるなら、そういうチームも観なくちゃ行けない。いや、その前にサッカーだけじゃなくて、ぼくの重要なテーマとしてバスケもあるわけだし……

いや、東京だけじゃなくて、カマタマーレ讃岐も大切なチームになりつつあるし、奈良クラブという変なチームも気になるし……

自分が今後どういう姿勢で、サッカーと付き合っていくのか、いまいち結論が出ない。

プロとして書かなければただのファンだから気楽なものだが、サービスとしてパブリッシュして収入を得ない限りは、ハイレベルな文章は出せない。この文章だって、深く考えずにさらっと書いているが、執筆時間は10時間を超えている。もっと練ろうと思うと5倍も10倍も時間がかかる。

あー、もうわからん!!!

……とにかく、天皇杯の準決勝が国立競技場で行われる。そこには行くつもりだ。
試合の後、何を思うのか。それを踏まえて、絵を描いていけばいい。

お正月には国立で 青赤軍団荒れ狂う!

それを見てからにしよう。

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