東大に11年在籍した後、タクシードライバーになりました

はとのす 

バスケットボール

バスケットボールコーチは練習の楽しさを演出するべきではないか

更新日:

Pocket
LINEで送る

 
 


 
 

先日は、日本の育成には「何か欠けているもの」があるのではないかという観点から記事を書いた。

スペインのバスケットボール育成コーチ“セルヒオ”の視点 | はとのす

誤解のないように言っておくと、日本の育成文化が100%の欠陥品で指導者は馬鹿やヤクザばっかりだなんてことを言うつもりは毛頭もない。

むしろ、技術を教えると言うことについては非常に優秀なのではないだろうか。証拠にレスリングや柔道などの格闘技では、強国と言ってもいいくらいだ。柔道でメダルを量産する実力を示す一方で、指導者や先輩による暴力が時折報道される。

逆に言うなら、体罰を加えて育成してもそれなりには強くなるともいえる。しかしながら、バスケでは成果が出ていない。世界大会では勝ちきれず、世界のトップリーグでプレイする日本人はいない。それは、基礎を重視しない指導者に問題があるためだと言う人もいるし、日本人は根本的に身体能力が低いため勝ち目がないとサジを投げる人もいる。

まずは、前回も紹介したブログの記事を引用することから始めたい。

子供を教えている指導者にどうしても言いたい想い | バスケットボール会議室 | スポーツナビ+

重要な論点は、子供の育成ではファンダメンタル(基礎力)を付けることが最優先で、試合での勝敗は重視するべきではないという考えと、ゲーム形式でやらないと楽しさが感じられないという考えの対立だろうか。

ファンダメンタルとは何を表しているのかについては指導者によっても見解の違いがあるかもしれない。この記事で想定しているものは、ハンドリング、シュート力、基礎的な体の使い方・運動能力といったところだが、発声とか挨拶などを挙げる人もいるかもしれない。

ファンダメンタルとは何かというテーマだけで、一つのシンポジウムが出来てしまいそうな気がする。これは指導哲学の問題かもしれない。ただ、少なくとも基礎的なハンドリング、シュート力、パワーポジションでの動作、ボールプロテクション(ボールを守る)、ピボットなど確実に含まれる要素はあるだろうと思う。そこらへんは曖昧にしつつ本論に入りたい。

まず、議論から代表的なものを取りあげる。

ブログの著者は「楽しむことが大切」と述べている。楽しむためには、3on3のような実戦形式の練習をする中で自分なりの課題を見つけ出していくのが一番だと言っている。

基礎練習がつまらないことがある程度前提としてあり、まずはゲームを楽しむことからスタートする。ゲームが楽しくなったら、個人練習の必要性に気付き、練習も楽しめるようになるというな内容が書いてあった。

一方コメント欄では、こんなことを言っている方もいる。

「それとファンダメンタルばかりをやるとバスケを続ける子供は確実に減少します。何故か?バスケに楽しさを感じるのはゲーム練習だからです。」

「確実に」とまでは言い切れないだろうが、例えば延々と走らされたり、隅でドリブルだけを3時間もやらされたりしていたらつまらないと感じる子供もいるだろうと思う。つまり、このコメントしている方が見てきた基礎練習というものは、つまらない練習が中心だったということなんだろう。

まずはここから始めよう。

スポンサーリンク

バスケットボールのファンダメンタルで遊ぼう

まずは、自分の経験から始めたい。ゲームは練習より楽しいと言うが、ぼくはそう思ったことはない。ぼくが本格的にバスケを始めたのは24歳の時だったが、最初はゲームに出るのが嫌だった。どこをどう動けばいいのかさっぱりわからない、シュートを撃っても入らないし、意味もわからず怒られることも多かった。

偉そうな経験者の中には、露骨に失礼なことを言ってくる人もいた。ディフェンスの仕方もよくわからなかった。いつも無様に抜かれて、「ちゃんとやれ」と怒られた。

「ちゃんと」というけど、何がどうすれば「ちゃんと」なのかよくわからなかった。中には教えてくれる人もいたが、要領を得ず理解できないことが多かった。だから、初心者ばかりで集まってしっかり練習をするチームを作ることにした。それが「ライジング」というチームで、どうしようもない下手クソばかりが集まって、フットワークや基礎的なシューティングドリルなどを中心に練習していた。

それがとても楽しかった。

ぼくの場合は「ゲームが楽しい」よりも「練習が楽しい」が先にあったような気がしている。その後ももう一度「練習主体」のチームを作った。ただ、ぼくはここで徹底的にファンダメンタルがやりたいと思っていたのだが、コーチをしてくれた人は「戦術主体」の練習を好んだ。ファンダメンタルは個人でやるもの、チームで練習するものではないという立場だった。

ファンダメンタルはつまらないという前提があったのかもしれない。しかし、ぼくはそうは思わなかった。ゲームになるように工夫すれば必ず楽しく練習できるはずだと思っていた。

そんなぼくだからだろうか。先日紹介したジェイソン・バスケット氏のトレーニングを自分の目で見た時に思った。「ああ、ぼくはこういう練習がしたかったんだ」と。

動画を紹介する前に、ジェイソンの練習の特徴を列挙しておく。この記事では、ジェイソンについての説明は書かないので、先の記事をご参照頂きたい。

シアトル発、全米で人気沸騰中のバスケットボールクリニック@Tornadoes Festival | はとのす

ジェイソントレーニングの特徴は、ぼくの見立てでは以下の通り。

  • 様々な器具を使う
  • そのため、見た目的にも非常に楽しそう
  • 練習の目的を最初に説明する
  • うまく出来なくても、とりあえずやらせてみる
  • 出来た理由、出来なかった理由を自分の頭で考えさせる(余計な口出しをしない)
  • 怒らない、怒鳴らない

こうは書いたが、あくまでも見立てなので他にも大切な要素があるかもしれない。また、ぼくは「スキル」の専門家ではないので、いやそれどころか素人に近い技術しかないので理解しきれていない部分もあるだろうと思う。

※片岡メンから補足頂いたので、以下の部分を加筆。ありがとうございます!

0~0:20 クロスオーバーの練習用の器具を用いた練習。ハンドリング技術とスペーシングを意識した動きの練習だったはず。

0:20~0:29 片手はドリブル、片手はテニスボールの壁当て。ドリブルをしながら、逆側の手でボールを守れるようにする練習。

0:29~0:49 ジェイソンバンドと呼ばれるゴムで出来た器具を装着し、ワンハンドシュートのフォームを作る練習。

0:49~1:07 ジェイソンバンドを装着した状態でのシューティング。身体の小さい子も沈み込んで全身を使って撃っている。フォロースルーを最後まで下ろさないのは、練習中の「決めごと」。

1:07:~1:39 クロスオーバーとドリブルの練習のはず。練習の意図はなんだったかな……ちょっと忘れてしまった。

☆片岡メンの補足☆ @kataokachan
ハンドリング、クロスオーバーの練習。後半部分は、ヘジテーションをして、手を変えずに相手を抜く(またはボールを運ぶ練習(のはず)。ドリブルの手を変えるのは、時としてリスクになるので、真っ直ぐ抜ける(運べる)に越したことは無い。かな、と思ってです。

1:39~2:57 これ何の練習なんだろう。ドリブルをしながら、身体と逆手を動かせるようにする練習なんだろうけど、ぼくにはちょっと意図がわからない。この練習は直に見たことがないからよくわからないが、練習前に必ずわかりやすい説明が付くのできっとその場にいたらわかっただろうと思う。

☆片岡メンの補足☆ @kataokachan
相手にボールマンプレッシャーを掛けられている時にもボールキープと、反対側でのプロテクションと視野の確保をする練習。米国はとにかくスペースを消すディフェンスをしてくるらしいです。ドリブルない時は相手の懐に入りまくる。腰骨を抑える。

☆片岡メンの電話による補足☆
米国では、オフェンスに密着するディフェンスが行われるというのが前提。密着し、オフェンスの腰に肘をあて、自由に動けないようにすることを最大の目的にするらしい。抜かれるリスクは上がるが、それについてはヘルプで処理する。

抜かせないようにスペースを空けるのではなく、その場で何もできないようにさせるディフェンス。それをされた場合に、行うのがこの練習の動き。左手でディフェンスをガードしながら、視野を保ったまま後退する練習らしい。

2:57~4:01 ドリブルからフィニッシュ。ドリブルの際に、ボールプロテクションをしっかり出来るようにスティール要員が配置されている。最後のフィニッシュの際には、ドワイトバー(だったと思う)という障害物が置いてある。これは、ヘルプのブロックの高さを想定して、その上からシュートを撃てるようにするための練習。

☆片岡メンの補足☆ @kataokachan
ピックアンドロールでショウディフェンスに対して間を抜けるチェンジディレクションの練習。後半。ピックアンドロールを使おうとして、実は使わずに、バックロールしてゴールにアタックする練習ドリル。(のはず

4:01~Last 背中向きからターンして抜き去り、フィニッシュする練習。ゴール下にはドワイトバーとヘルプが一名。この練習で特筆したいことは、最初はうまく出来なかった子供がニコニコ笑っていること。ミスしても、出来なくても怒られないという安心感。最初はできなくてもきっと出来るようになるだろうと子供が思えるポジティブな空気が漂っている。

これ以上詳しい解説は、トルネード関係者かジェイソンのクリニックがまた開催されたときに是非本人に聞いてみて頂きたい。
トルネードアカデミーで行われているトレーニングは、子供が歯を食いしばって耐えているという雰囲気はない。実際にぼくも自分の目で確認したが、子供はみんな良い表情をしていた。ニコニコしているし、リラックスしている。しかし、練習には心底真面目に取り組んでいた。

それでいて非常に効果的な練習をしていると感じた。初心者はコートの隅でひたすらボールをダムダムやっているという「スラムダンク」で見たような風景とはちょっと違っている。

こういったやり方で練習すれば、楽しみながら基礎力をつけることは可能だろう。もう一つ特筆すべきは、ヘルプの高さやボールスティールなどが練習に織り込まれているため、実践的な練習でもあるということだ。

片岡メンのブログによると、ジェイソンはこういったメニューを500以上も持っているらしい。詳しくはこちらをご参照のこと。
seatle!!!!|片岡秀一

もう一つ。片岡メンもとい片岡秀一さんが所属するUPSETのフェイスブックページに、ジェイソンクリニックの模様が残されているのでご興味があるかたはご参照頂きたい。
https://www.facebook.com/pages/UPSET/242505029160007

ファンダメンタルは基礎であって基礎ではない。ファンダメンタルとはそのまま応用力なのだ。

スポンサーリンク

バスケッとボールコーチの仕事は楽しく練習させること

我々は話し合った。現在Facebook上で展開している「はとばす」で行った「大人のためのスキルトレーニング」の後、トルネードアカデミ-東京の立ち上げに関わるメンバーと話し合った。

ファミレスに入ったのが23時近くだったが、そこから90分間熱く語り続けた(そのせいでフィジカルコーチの終電がなくなった)。

発議は冒頭にも載せたこのコメントについてどう思うか。

「それとファンダメンタルばかりをやるとバスケを続ける子供は確実に減少します。何故か?バスケに楽しさを感じるのはゲーム練習だからです。」

これを元に、先ほどのブログを各自読み、意見を交換し合った。議論は様々な方向に飛んだ。ぼくとしてはとても嬉しい瞬間だった。我々はどういう姿勢で育成をしていくべきだろうかという問いを真剣に考えてくれる仲間が出来た。

バスケの実力で言うとぼくのはるか上、ほとんどセミプロレベルの選手もいるし、プロのトレーナーもいる。でも、みんながフラットになって一つのテーマも考える。良い瞬間、良い時間だった。

結論はシンプルだった。

「練習を楽しくするのがコーチの仕事」

創意工夫して、ゲーム性を持たせたり、なるだけ子供にわかりやすいような説明をしたりする。

「わかりやすい」というのは大事で、「わかること=エンターテイメント」なのだ。理解できたら面白いし、理解できなかったらつまらない。

我々はジェイソンの動画などから学び、ハンドリングやシューティングなどの基礎を身につけるための練習メニューを知った。そして、それを実際にやってみたところ、どれもこれもが楽しかった。ゲームを一つずつクリアしていくのに似ている。

最初はできなくても、クリアするために挌闘していると自然とスキルがついている。

ぼくはドリブルが苦手で、試合では殆どドリブルをしなかったのだが、気付くとクロスオーバーやバックチェンジで相手をかわせるようになっていた。いつの間にかスリーポイントが決まるようになっていた。

こういうことなのかな。きついメニューも確かにあったけど、全て楽しく取り組めた。
何故楽しく取り組めたのかについては、一つ重要な点があって、ネガティブな言動を練習から排除したことも大きい。

日本では「失敗する」ことが悪いことという考え方があるようだ。
先日フェイスブック上のバスケ日誌に書いたのだが、大人の日本人のプレイヤーは、シュートを外したり、パスミスをしたりという場合に「すみません」「ごめんなさい」「悪い」と謝ることに気付いた。

これは下手な選手から上手な選手まで一緒だ。フリーのレイアップじゃなくて、3Pシュートを外した時でも謝る選手もいる。

これは、「ミス=悪い」という考えが長年の間すり込まれてきたせいなんだろうと思う。逆にミスした選手に「何やってんだよ」と責める気持ちもあるんだろう。

これがいかんと思うわけですよ。

ミスしたら怒られる。だから、ミスしないようにプレイする。こういうやり方では成長は鈍化してしまうのではないだろうか。

「背伸び理論」というぼくの考え方があって、よくわからないこと、出来ないことであっても、「自分は当然できる」という体で挑戦していくといつの間にか追いついているものなのだ。ぼくは、大学のゼミで「ヘーゲル」を学んでいたのだが、これが全くわからない。死ぬほど難解な書物を読まなければいけなかった。

そういった場面であっても「背伸び理論」で取り組むうちに知識を身につけてきた。

「背伸び」してもいいと思う。挑戦してみてもいいと思う。
楽しく練習をするために、コーチができることは、挑戦することを奨励し、ミスを恐れる子供を鼓舞すること、うまく出来るようになったときに「ぐっじょぶ!!」と笑顔を向けること。

こういうことなんじゃないだろうか。

これは、ジェイソンの指導を実際にみて考えたこと。

「楽しく練習するためには、コーチはどうしたらいいのか」

このテーマについては、簡単に結論を出さずに、仲間達と一緒にじっくり考えていきたい。
ただ、前提として必ず持っておきたいのが「練習は楽しくやるべきだ」という考え方。

楽しくするためには雰囲気作りも大切だし、時にはエンターテイナーになることも大切かもしれない。

-バスケットボール
-, , , , , , , ,

Copyright© はとのす  , 2024 All Rights Reserved.