スペインバスケットボールの育成事情を聞いて考えたこと


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スペインバスケについて書こうと思っていたのだが、これがなかなか書けなかった。何をどうやって書くべきか非常に悩んでいる。

エストゥディアンテスというチームの育成組織や育成理念が、日本のそれ比べて先進的だということはわかった。しかし、「日本は駄目、世界は凄い。日本の人は世界を見習え」というような論調の記事はあまり書きたくなかった。

日本で育成に関わっている人達が不真面目かというとそうではないのも知っている。ボランティアとして人生の時間を削ってまで育成に関わっている人は大勢いる。一方で、体罰や自殺の問題もバスケットボール育成の裏にある。

一生懸命教えるというのはどういうことなのだろうか。熱意や愛情があれば殴ってもいいのか。殴ることは効果的なのか。日本の育成が成功していないように思えることと、体罰などの「文化」に関係性はあるのか。

というように思考が斜めの方に逸れていってしまって、文章が形になってくれない。

でも、いつまでも書かないでいると他に書きたい記事が山積みになってしまうので、とりあえず書く。日本とスペインの差が何なのかについては、次の記事まで取っておくことにして、セミナーで聞いた内容を整理しようと思う。


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最初に、この記事を書いた。
スペインのバスケの育成について学べるセミナー | はとのす

この時点ではどのような内容のセミナーになるかよくわかっていなかった。漠然とスペインバスケの秘密が語られるのではないかという期待感があったのみだった。そして、少し話が逸れるのを覚悟で、リッキー・ルビオと育成について書いた。

スペインバスケの至宝リッキー・ルビオは日本でも育てられるのかを聴きに行く | はとのす

日本人で世界に通じるガードがまだ出現していないのに対して、スペインからは、ホセ・カルデロン、ファン・カルロス・ナバーロ、セルヒオ・ロドリゲス、ルディ・フェルナンデスなどのNBA選手が誕生している。

そして、今、天才リッキー・ルビオがNBAでプレイしている。いくつかの課題をクリアすれば(怪我対策とアウトサイドシュート)、NBAを代表する選手になるだけの十分な資質を持っていると感じている。何故日本ではルビオは生まれないのか。

「もしかしたら、生まれてきているのに殺されてしまっているのではないだろうか」

こんな恐ろしい作業仮説すらある。

スペインと日本の育成状況の比較は、非常に面白いテーマであると同時に、どうしても日本の育成文化や関係者に対して警笛を鳴らすような内容になってしまいがちだ。日本の育成にもきっと良い点があるはずだ。そこを実感できないうちは何とも歯切れが悪くなってしまう。

このテーマについては、自らも育成に関わりながら突き詰めていきたいと思っている。性急に結論を出す必要はないだろう。このように話がすっかり逸れてしまう。ともかく、先日のセミナーで聞いてきた内容についてまとめてしまおうと思う。

ぼくが参加したのはツアー2日目のセミナー。バンタンデザイン研究所で開催され、『スペインのバスケットボールコーチを取り巻く環境』『マドリードでのバスケットボールを通じた社会貢献活動』という二本立てだった。

講師は以下の2人

エストゥディアンテスの育成コーチ イニィゴ・デ・ラ・ビーリャ

ジャーナリスト活動の傍ら、サンフェルミン地区で育成コーチを務める セルヒオ・ルイス・アントラン

イニィゴは所属しているエストゥディアンテスの組織や理念について、セルヒオは移民が多くスラム的な扱いを受けているサンフェルミン地区での活動について語ってくれた。

エストゥディアンテスの育成組織

日本の育成で問題になることが多いのが、指導の一貫性がないことだ。ミニバスと中学では指導者が違うし、高校、大学、プロと段階が進むごとに違うコーチと出会うことになる。コーチ間で、育成方針が統一されているとは限らないし、お互いに連絡を取り合うということも多くないのではないだろうか。

スペインバスケの場合には、そういった問題は無用なようだ。エストゥディアンテスというチームは特に育成を重視しているらしく、スペインの中でも特殊ケースらしい。しかし、ミニバス時代から一貫した指導を行うのはバルセロナやレアル・マドリードでも同じようだし、少なくともトップ選手の育成においては一貫性のある指導が行われていることは間違いない。

エストゥディアンテスというチームは、学校と同じ敷地内に存在している。イメージとしては、小・中・高の一貫校のバスケ部という感じだろうか。そのバスケ部の中でエース級の選手は、そのままプロになっていく。

バスケ部なので、校内の学生は入部することができるが、校外の選手もプレイすることができる。そして、優秀な選手は石切場を意味するスペイン語「カンテラ」という場所で生活するようになる。カンテラは、エリート選手育成のための寄宿所だ。このへんはサッカー関係で調べたほうが余程よくわかるので、詳しく知りたい方はカンテラにおける育成について書かれた本をご参照頂きたい。

エストゥディアンテスの信念は二つ。すべてを1箇所でやることと育成を大切にすること。
1箇所でやるというのは、学校の中にミニバスからプロチームまであるという状態を指している。これはスペインのスポーツ界でも珍しいことのようだ。

育成カテゴリーは6つに分かれている。

8-12歳 ミニバス
12-14歳 インファンティル
14-16歳 カデーテ
16-18歳 ジュニオール
18歳以上 EBAU21 セミプロ
ACB,LF2 プロ

最大の特徴は、それぞれの育成段階でコーチは異なるが、全員が共通の目標を持っているそうだ。
それは、エストゥディアンテスのトッププロチームに選手を引き上げること。

全てのコーチが、プロ選手を育成することを最大の目標にしているというのは大きなアドバンテージだ。日本で、部活の顧問の先生に「育成の目的は何ですか?」とインタビューをして回ってみるとどういう答えが出るだろうか。プロを作りたいと思っている人は少数派のような気がするがどうだろうか。

「スポーツを通じて、努力することや頑張ることを教えたい。」

という回答が、最も穏当なように思うのだがどうだろうか。プロを育てたいと言った場合には、「自分の名誉のために子供を利用している」とか「能力の低い子供は無視して、出来る子ばかり贔屓している」という批判をされそうな気がする。

日本はエリート教育があまり得意ではない。これは経験上言うことだが、年間約3000人も入学する東京大学に入っただけで、嫌味を言われることが結構あった。だから、東大生は大学名を聞かれるのを嫌がる。ネガティブな反応をされることが多いからだ。

こういった文化的な背景も利いていると思う。神から選ばれた選手は特別扱いされて当然だと、スペイン人は思っているのではないだろうか。日本に天才が生まれても、周囲と同じレベルの低い練習を押しつけられ、優れている点は消されていく。そんな気がしている。その代わり、日本人は平均レベルは高い。

日本人選手で、マイケルジョーダンのようなずば抜けた選手は今のところ出ていないが、全プレイヤーの平均値を取ることが出来たなら、それなりの数値を出すかもしれない。

……猛烈な勢いで話が逸れていく。強引に話を戻そう。

コーチの育成

日本では、新任の教師が突然バスケ部の顧問を任されて、にわか勉強でメニューを組むなんてこともよく聞く話だ。ぼくの中学では、指導できる教師がいなかったため、学生が自分で練習メニューを考えていた。ぼくはバスケ部ではなかったので伝え聞いた話ではあるが。

一方スペインでは、公式のコーチングの資格があるらしい。その資格が、国家資格なのか、協会の資格なのかよくわからなかったのだが、これが非常によく出来ている。

oコース ミニバスを指導できる
1stコース インファンティル(12-14歳)を指導できる
2ndコース カデーテ、ジュニオールを指導できる(14-18歳)
Superior コース ACB(プロ)を指導できる。

資格取得に要する期間は、0から順番に5ヶ月間、8ヶ月、1年、2年。
Sコースまでは、最低でも5年かかるのだそうだ。

Superiorコースを取得しているコーチは、大学の学位を持っているのと同じ扱いを受けるそうだ(具体的に何を意味するかは不明)。

で、この資格を習得するのがなかなか大変だ。
育成の現場で実際にコーチングをしながら、4つのパートに分かれた講義を受講する必要がある。

1.6ヶ月のオンライン講義を受ける
2.3週間の集中講義を受ける
3.6ヶ月以内に論文を提出する ※後述
4.実際にコーチングした際の資料をまとめて提出する

これを聞いて、何てクレイジーなシステムかと思った。ぼくが一番驚いたのはこの制度。日本のコーチで、ここまで勉強している人はいるのだろうか?オンライン講義を受けるということは、コーチ育成のための確たる哲学があり、指導方針があり、カリキュラムがあるということを指している。

論文というのは、その場で出されていた例によるとこんな感じ。指導者が指定したテーマ、例えば「ピック&ロール」について、200枚ほどのレポートをまとめることらしい。

日本の指導者の方は、「ピック&ロール」について一冊本が出せるだろうか? 出せる人もいるかもしれないし、出せない人もいるかもしれない。しかし、スペインのコーチは全員が、最低ラインとしてそのくらいはできるということだ。文字に出来ると言うことは、深く理解しているということだし、言葉を使って選手に伝えることが出来るということでもある。

日本のコーチが、子供に対して怒鳴り散らしているのを見ることがある。

あれは、正しい方法を言葉で伝えることができないということでもあるのかもしれない。「子供は何度言ってもわからない」という主張の裏には「何度聞いてもわからないほど表現力が低い」という事情もあるのかもしれない。

実際のところ、バスケの部活経験者で、バスケのことを語れる人は呆れるほど少ない。みな、部活時代の感覚でしか話ができないのだ。

例えば、「ハイポストでもらったら逆サイドに捌け」と言われたことがある。これは、実際にぼくが教えてもらったことだ。この方法が正しい場面もあるだろうけど、そうじゃない場面もあるだろうと思う。そして何より、説明としては不完全だ。

恐らく、ぼくに教えてくれた選手は、「約束事」として、部活時代にこう指導されていたのではないだろうか。けど、これだとぼくのような頭でっかちは説得できない。本当はこう説明して欲しい。

 

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ハイポストはいかなるディフェンスに対してでも、高い効果を発揮できる位置である。
ゾーンディフェンスに対している場合には、ハイポストを使うメリットは3つある。同時に、デメリットも2つある。
(詳細)
マンツーマンに対している場合には……
(詳細)
このような理由から、ハイポストでボールをもらった場合には、逆サイドにボールを流すことを第一に考えるのがセオリーだ。

他に、ハイポストからの展開として考えられるのは~~~

ハイポストに入らなかった場合に考えたい行動としては~~~

ぼくはプレイヤーとしてはレベルが低いので、内容については適当だけど、こうやって体系立てて説明して欲しいと思ったことが何度もある。

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ぼく自信が戦術についてちゃんと理解していないので細部はちゃんと表現できなかったのだが、理屈づけて説明するっていうのはこういうことだ。

多分、スペイン人のコーチはこれが出来るのではないだろうか。
論文に書けるというのはそういうことだ。論理をもって説明する能力を持っているということだ。

200枚の論文を全員が書くということを聞いて、圧倒的なレベルの差を感じた。日本語の書籍で、バスケットボールの理論について詳しく書かれた本をぼくは読んだことがない。でも、本当はそういうものが必要なんだろうと思う。

顔のいい選手をアイドル化して、ファンを増やそうという努力も大切だが、それ以上にやるべきことはあるのではないだろうか。大学にバスケットボール学部を作り、新しい戦術や指導について研究する場所があるくらいでいいのかもしれない。「バスケットボール研究」というジャンルが出来るなら関わってみたい気もするが、自力で立ち上げられるほどバスケに詳しくないのでなかなか難しい。

戦術研究会なら出来るかもだけど、講師が欲しいところ……

閑話休題!!!

さて育成制度を整備し、維持していくためには、様々なコストがかかる。スペイン人の最もクレイジーなところは、そういったコストを死ぬ気で負担することだ。スペインは今、失業率が30%近く、経済もボロボロの大不況だ。

スペインは破綻するかもしれない。しかし、仮にこの世からスペインがなくなったとしても、バルサやレアルは残るだろうし、こういった育成システムも残るかもしれない。何故なら、人々が最優先で守ろうとするからだ。

スポーツをすること、スポーツ選手を育成すること、これがスペインの文化であり、スペインそのものなのかもしれない。日本もスポーツが好きな国だが、ここまでクレイジーにはなれない。スポーツを「戦争」と見て、戦いを楽しんでいるに過ぎない。

甲子園に関心がある人は多いが、野球選手の育成に強く関心を持ち、多額の寄付をしたり、ボランティアをしたりしている人はそこまで多くないだろう。そこが、「差」なのかもしれないと考えているが、確たる数値的な根拠はない。

考えていること、言いたいことが混線していて、「はとのす史上最もとりとめのない記事」になってしまった。日本の指導にも必ず良いところがあるはずなので、そこを見つけたい。でも、勉強が全く足りていない。バスケというスポーツに対する理解も中途半端だ。けど、非常に面白いスポーツだと感じている。

ぼくが思うことは、もっとバスケのことを考えたいし、バスケのことを語りたいということ。そういう仲間で集まって、延々と語っていたいものだ。歯がゆさは語るほどの知識のなさか。

本当に色々なことを考える良い切っ掛けを与えて頂いた。今回のツアーは、日本のバスケ界にとっても少なからぬインパクトを持っていたのではないだろうか。主催者グループの皆様の尽力に心より感謝したい。

続編が書きたいが、そっちも書くのが大変そうだ。


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