劇作家・演出家の南慎介氏(@373shinsuke)との共主催イベント「ねこじたブックカフェ」の第二回を開催した。
第一回の様子はこちら。
(【第一回】秋の夜長に読みたい小説【ねこじたブックカフェ】)
今回のテーマは、「児童書」。児童書というと、はたして何があったのかと悩んでしまった方もいたようだが、例えばロマンロランの「ジャンクリストフ」であっても構わない。「ジャンクリストフ」は、尋常ではなく長い作品の一つだが、児童が読むのに適切な本だとこじつけることが出来れば問題ない。
(以下はぼくのこじつけ。小難しい感じなので削除しようと思ったけど、愛が芽生えてしまってどうしても消せないのでそのまま残させて頂きたい。現場ではもっとゆるく喋るので大丈夫!)
「ヴェートーベンをモデルとしている若きジャンクリストフは、芸術的感性を強く持つ自分と、世俗的で「下品」な大衆達の間のギャップに悩み、苦しみ、恋に裏切られ、時には荒れながらも、自分の生き方を曲げない。ジャンの才能は、「のだめ」のようにすぐに開花するわけではない。重々しい苦しみの中で、少しずつジャンの音楽は突き抜けていく。
これが「夢を目指す」生き方の現実だ。いくら才能があっても明日開花することはない。周囲の無理解や迫害を自力で乗り越え、その上で才能の花を咲かせないと行けない。この本は、人生が半ば終わった人が読む本じゃない。今後、大輪の花を咲かせうる若き魂のための本なのだ。」
こういった説明には一定の説得力はあると思うが(参加者の半数は途中で寝てるかもしれないが……)、実際のところ、小学生や中学生にはこの本を読むのは難しいと思う。でも、もし無理があったとしても、それはそれでいい。意見は尊重するし、誰も文句を言わない。あんまり議論が熱くなると、口の中火傷してしまう、だってぼくらは「ねこじた」だから――
と、お約束を言ったところで、手順を説明。
参加者は各自一枚ずつトランプを受け取る。真ん中の山のトランプを順番にめくり、自分の番号が出た人が話し始めるという手順で進行する。
今回は本が多いので一つ一つの紹介は短めで!
(諸事情で一部順番を入れ替え。)
星の王子様 サン・デグジュペリ
ド定番のドストレート。田中まーくんの152 km/hの剛速球がキャッチャーミットに吸い込まれる感じ。
選定理由は、「改めて読んでもいい本」だから。というのは、この本は非常に曖昧な記述が多く、読む度に印象が変わるからだ。そういう意味では「自分の変化を確かめるための本」と言えるという指摘が出た。これは児童書を読むための大きなモチベーションになる金言だと思う。
(誰が言ったんだっけ?)
実際ぼくも時折読み返すけど、印象を持つ箇所が毎回違う。「キツネ」が「本当に大切なものは目には見えないものなんだよ」というところは鉄板で、必ずぐっとくるが、それ以外は読み直した時によって違う。
「あ、今回はここか!」というのは面白い喜び方のような気がする。
ソロモンの指輪 コンラート・ローレンツ
1発目は主催者の1人、南慎介氏。
ソロモンの指輪は、動物行動学の祖であるローレンツの著書で、生物の研究において対象生物と身近に接することがいかに重要かがわかる本。学術書というカテゴリーに入るのかもしれないが、内容は非常にゆるく読みやすい。
ローレンツは1973年にノーベル賞を取っていて、受賞理由はwikipediaによると「個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する研究」だそうだ。
この本を選定した理由は、「挿絵が可愛い」「こういう本を子供の時に読んでいたら、もっと自然のことが好きになったかもしれない」とのことだった。
鳥の雛というのは、宇宙で最も可愛い生物の状態の一つだが(主観)、鳥の雛の挿絵というのも宇宙一愛らしいものの一つだ(主観)。そういう意味では、誰にでも読める本とも言えるかもしれない。
……
ぼくは、この発表の間黙っているのは大変だった。何せぼくが博士課程まで進んだ大学院で何をやっていたかというと「行動生態学」だったからだ。最後の方まで耐えに耐えて、最後でうっかり口を出してしまった。
「動物ってうまく出来てるねー なんで教わってないのに子育て出来るんだろうね」
「…………それはね、繁殖行動には強い淘汰圧がかかるからで(中略)、鳥類というのは繁殖が最もネックで胎生にすると重くて飛べなくなるから卵を産まなくちゃいけなくて……」(誰もわからないから全部は書かない)
ともかく、動物が好きな人には、その動物好きを一歩を進めて「生物研究の基礎」とするためには良い本だと思う。
↓のリンクは紹介してくれた本とは装丁が違う。もうちょい可愛い感じだった。
悪童日記 アゴタ・クリストフ
これは、「ハイパー面白い」本らしい。
作者はハンガリー動乱に巻き込まれてフランスに亡命した戯曲家らしい。
この本は、戦時下の混乱を実体験に基づいて描いている……というと重苦しい感じがする。しかし、テーマの重さとは対照的に平易な文章で軽いタッチで記述されているため非常に読みやすいという特徴があるそうだ。
読み始めたら止まらなくなるジェットコースタータイプの本のようだ。
テーマの重さ、例えば生きるために何かを盗まなくてはいけない場面に接した時に、「ああ、じゃあ盗んで来ちゃいましょ」というような気軽さがあって、「生きる」ということを強く考えさせる作品とのことだった。
どうでもいいけどメモ書きに「世界三大キクラゲ」と書いてあるんだけど、これは何のことだったかな。大笑いした記憶はあるんだけど。
続編として二作目、三作目もあるようなので併せて紹介しておく。
ルドルフとイッパイアッテナ 斉藤洋
「猫同士の友情を描いた物語」
もう、表紙とこの説明だけでいいのではないだろうか。絶対面白いでしょ、これ。
ここまで「子供にも読める学術書」「子供にはわかりづらい児童書」「子供に読んで欲しい大人の本」と続いてきたので、「子供にわかりやすい児童書」が来た時に場内が色めき立った。
「猫同士の友情を描いた物語」
読みたい……
赤毛のアンの手作りノート 白泉社書籍編集部
読書感想文が書けない本だけど、私は大好きなの!!!というのが主な選定理由だった。
この本には、実在の人物で、プリンスエドワード島に移住した孤児「赤毛のアン」が、優しい養父・養母の元で暮らしていた際の記録が書かれている。記録と行っても、「悪童日記」のような文章で記述されているのではなく、料理ならばレシピ、刺繍なら……なんていうんだろう「設計図」みたいなものが書かれている。
女性陣の心をわしづかみにする、可愛くて夢が詰まった本。
こーひーぶれいく
撮影 田中友里
途中で飲みたくなるのは、ココアバーボン。ほんのりどころじゃなくてしっかり甘くて暖かい。ふぅと飲み終わると後からバーボンの迫力がゴゴゴゴゴと湧いてくる。なかなか味わったことのない感覚だ。カルーアミルクなんかに似ているはずだが、こっちのほうがはるかにパンチ力が強い。
こういうのを途中で挟んだせいで、ぼくの議事メモは段々適当になっていき、後半は「本を選んだ理由」を書き落とすなどグダグダになっていくのだった……
と、同時に、読書会の楽しさは増していった。なんと楽しい会なのだ!
ハッピーバースデー 青木 和雄 吉富 多美
母親に誕生日を忘れられ「なんで生まれてきた」的なことを言われて、そのショックで声がでなくなってしまった11歳の少女の物語。
……あらすじを聞いて、会場はどんより。
「え、この本のどこが面白いんだろうか……?」
みんなそう思ったに違いない。しかし、ここはねこじたブックカフェ、10分間のゆるい会話を通じてこの本の魅力が分かってきた。
どうも、どん底か始まって段々と持ち上がっていく作品のようだ。ハッピーバースデーから次のハッピーバースデーまでに繰り広げられる人間ドラマには、涙なしにはいられなくなるとのことだった。
作者の青木和雄さんは、小学校の校長を経て教育カウンセラーを務めた方らしく、教育と家庭の関係について現場で見続けてきた人らしい。共著の吉富多美さんも、手元に資料がないので詳細がわからなくなってしまったが、教育関係に携わる方のようだった。
10分間が終わった後には、多くの人がこの本を読みたくなっていたに違いない。
童話集 風の又三郎 宮澤賢治
これはぼくの紹介。
児童書と言うことで宮澤賢治を選ぶしかなかった。ぼくの卒業論文は宮澤賢治の「ベジテリアン大祭」について書いたものなのだ(一ヶ月早くはじめていればもっとまともな論文になったに違いない……)。
童話集は「風の又三郎」が冒頭に載っているが、これはあまりお勧めじゃない。どっどど どどうど、どどうど どどう。
有名な「セロ弾きのゴーシュ」や「やまなし」(クラムボンはクプクプ笑ったよ)、世界一可愛くない猫のお話「猫の事務所」や、賢治研究においてとても大切な作品「なめとこ山の熊」など印象的な作品が並ぶが、ぼくが今回紹介したかったのはこれ。
グスコーブドリの伝記
宮澤賢治作品で最も完成されたものの一つ。父が森に消え、それを追って母も消える。妹と2人、「粉を舐め」ながら何とか生き延びていると、人さらいが妹をさらっていってしまう。「どろぼう、どろぼう。」と泣きながら叫んで追いかけるが追いつけない。
搾取され、貧困に苛まれる。そういった地方の現状を打破するために、主人公グスコーブドリは「農学」を志す。
宮澤賢治の透明な使命感、自己犠牲の精神、作家としての才気のすべてが凝縮された作品。
「注文の多い料理店」も面白いし大好きだけど、これに比べると軽い。「銀河鉄道の夜」は印象的だけど、何がどうなっているのかわからない(完成してないから仕方がないけど)。
誰が読んでも間違いなく面白いという意味では、この「グスコーブドリ」が一押し。宮澤賢治の何が凄いかわからない人はこれを読むがよい!!そして「透明な涙」を流すが良い!! 他の童話も面白いのでお勧め。あと、もう一冊、文Ⅱ時代に受講していた小森陽一先生の本で、宮澤賢治を深く知るには面白いものがあるので紹介しておこう。
文学部に入ろうとしている受験生なんかはこういうのを読んでみるといいと思うんだよね。
モモ ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳
そして、モモですよ。
「時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」
昔はモモの視点で見ていたけど、大人になって読み返すと時間どろぼうの視点で読めるのも面白いとのことだった(実はぼくはまだ読んでない)。
「お風呂上がりに、お酒でも飲みながらこういう本を読みたいんだけど……そういう時間がなかなか取れなくてね……」
「そりゃ時間泥棒がいるんじゃないか?!」
と、お後がよろしい感じになった。
ダレン・シャン ダレン・シャン
最後は吸血鬼の物語!
主人公ダレンシャンが自分で本を書いているという設定なので、タイトルと作者が同じ。
ファンタジー色の強い作品だが、冒頭に「これは事実だ!」と書いてある。なかなかの個性だ。
読み始めたら止まらなくなる面白い作品らしく、ハリーポッターの作者J.K.ローリングも絶賛していると帯に書いてあった。
児童書ということで字も大きく、平易な文章で書いてあるのでとても読みやすい。
でも13巻もあるから読み始めるのがちょっと危険な作品かもしれない。時間どろぼうになるかもしれないのでご注意!
ダレン・シャン(13冊セット)
ふー、やっと書き終わった。自分に関係しているところだけ長くて、「猫の友情」が短いって?でも、ルドルフのほうが読みたくならないかしら? 長く書けばいいというものでもないのだ。
この後、番外編として「ジャケット買いした本、したくなる本」をやったのだが、それは別に書くことにする。
今回も1人2枚のトランプを持った。
1枚は、「これから欲しい本、読みたい本」に投票。もう一枚は「テーマにあっていた本」に投票する。
今回のテーマは「児童書」なのだが、投票の際には「子供の頃に戻って読書感想文を書くならどの本にするか」を基準とした。
結果発表!
『最も読んでみたい賞』
3票獲得
『赤毛のアンの手作りノート』 白泉社書籍編集部
『ねこじた賞』&『MVP』
2票獲得→決選投票にて5票獲得
『ソロモンの指輪』 コンラット・ローレンツ
ちなみに決選投票で敗れたものの2票獲得したのは『悪童日記』
男性2名、女性7名という偏った男女比率が幸いして、女性の心をわしづかみにした「赤毛のアン」が読みたい本No.1に。
最もテーマに即していた本に贈られる「ねこじた賞」は、わずか2票の後で決選投票。ほとんどの本に1票ずつ入る接戦だった。
例えば、ぼくの選んだ「宮澤賢治」については、読書感想文を書いてみたいという人が1人いたし、「ハッピバースデー」も児童や家庭の問題に興味があって保育士になったという女性が票を入れていた。
ぼくが選出したのは、最近時間どろぼうの被害に悩まされていることから「モモ」を読みたい本に。
撮影 田中友里
モデルの美女 せ○こ
感想文は悩んだ挙げ句「ソロモンの指輪」にした。早い段階でああいうのを読んでいれば、サイエンスの世界からドロップアウトしなかったかもしれない(それはそれでいいんだけど)。
次回のテーマは、「食べ物」!!
候補日は11月23日(土)か、12月8日(日)。
ずばり「胃袋をつかまれた本」がメインテーマ。
料理本を持って行くのもいいし、美味しそうな料理が思い出に残る小説でもいいし……ああ、そうだ。あれを持って行こう。
今回は、食欲をそそるテーマのため、終了後はお食事会に行くことにしよう(未定)。
サブテーマは「誰かに贈りたい本」。
クリスマスに恋人に贈りたい本でもいいし、10年ぶりに再開する友達にあげる本でもいい。そのへんのテーマ設定をどうするかも、腕の見せ所。