読書会「ねこじたブックカフェ」の第一回を開催した。 「ねこじた」というのは、ご存じの通り「猫が熱いものを食べられない」ことを示す言葉だ。何故読書会の冠として用いたかというと、熱くなりすぎず、まったりと語るという意味合いを込めて、もう1人の主催者の南氏が命名した。
彼の書き込みを引用するとこんな感じ。
読書会というと、 ・課題図書を読んで集まり、討論が熱くなりすぎたり ・紹介形式だとベストセラーを紹介するとスノッブに鼻で笑われたり (※中村注 スノッブ=知識偏重で偉そうないかすかないやつ。スノッブなんて言葉を使うやつもスノッブかもね!)
と、「読書」という極めて一般的な趣味にもかかわらず意外と敷居が高い物でしたが、
わたしたち「ねこじたブックカフェ」は文字通り、熱すぎるのは駄目よ!火傷よ! だってわたしたち「ねこじた」だから!というゆるいテンションのもと、本にまつわる楽しいおしゃべりを共有する場を創りたいと思っています。
初回は『ものっそい敷居を低く』、「秋の夜長に紹介したい小説」です。
「読書会やらない?」とぼくが提案すると、彼は二つ返事でOKしてくれた上で、「なるだけ敷居を下げたいね」と言った。ぼくと全く同じ考え方だ。もう8年近くの間、色んなイベントを一緒にやってきただけある。ぼくらはいつも「初心者歓迎」という看板を掲げていた。そのほうが楽しくなるとわかっていたからだ。 そのため、読書会の形式も趣旨に沿うように工夫した。」
1冊の本を読んできてみんなで感想を言う形だと、議論が得意で声が大きい人だけが喋り続けるという会になってしまう。なるだけみんなに喋って欲しい。さらに、喋る内容はなんでもいい。うまく喋れなかったら、主催の2人(この2人はとてもよく喋る)で、質問をしたり話題を膨らましたりすればいい。 口べたな人でもお気に入りの本を一冊持ってきて、コーヒーを飲んでのんびりとしてくれたらいいかなという思いを込めて「ブックカフェ」という言葉を付けた。 というわけで、とりあえずやってみようということで第一回を開催してきた。 進行方法はこんな感じ。
・くじ引きで紹介順を決める
・1人の持ち時間は約10分
・なぜその本を選んだのかを話す
・それ以外は自由 質問も実用 話も逸れ放題
ポイントは二つある。「テーマに即しているか」「読みたくなる本か」。
最後の投票タイムでは、この2点に対して1票ずつ投票していく。そして、1位になった場合にはねこじた賞(MVP?まだ名称が定まっていない)が贈られる。
さて、第一回ということもあって前置きが長くなってしまったが、イベントレビューに移りたいと思う。 トップバッターはぼくから。 今回は敢えて記憶が曖昧な小説を選んだ。というのも、しっかりと話せる本を選ぶと、プレゼンテーションのレベルが上がってしまう。曖昧模糊とした説明をしておいた方が、「誰でも気軽に」「熱くなりすぎず」の趣旨にあうと考えたからだ。 紹介したのはこちら!
百年戦争 井上ひさし
選んだ理由としては、猫!ねこじたブックカフェなんだから、第一回は猫の話にしておきたいじゃないか。 「秋の夜長」というのは、暇で暇で仕方がないから本でも読むかなと思う時期だとぼくは解釈した。そんな時に、経済がどうのとか法律がどうのという小難しい本を読むのではなく、ゆるい作品を読むほうがいいのではないかと考えた。
「百年戦争」では、中学生の主人公がある日突然「猫」に変身してしまい、ネズミ軍団と戦うことになる。ネズミ軍団のボスも実は同級生の変身した姿のようだった。緊迫した戦争という側面はあるものの、緒戦は猫とネズミの戦いなのでほのぼの日常ファンタジー的な味付けの作品だ。 喋り忘れたけど、猫に変身した同級生の女の子が「私はモテモテの美猫なのよ」的な振る舞いをしたのが妙に印象的だった。 ところが、この作品の肝は後半。神や仏が出てきたり、宇宙人が出てきたりして、「神学論争」が繰り広げられるというケイオスティックな展開になる。
井上ひさしは天才なんだろうと思う。この発想力はすごい。ぼくが今まで読んだ作品の中で最も常識外れな作品だった。そして、落ちは……言及はしないがとても印象的だった。 皆様の評判はというと、「なんだかわからないけど、ちょっと面白そうね」という感じ。反響はやや薄め。ちょっと残念ではあったが、「競技」ではないし、セールストークをする必要もないからこんなものでいいでしょう(ちょっと悔しい)。
喋々喃々 小川糸
次は女性の参加者からの紹介。 この作品は、「不倫カップル」の話なんだそうだが、「失楽園的」ないやらしさとは無縁で、非常に爽やかな良い雰囲気が描写されている作品らしい。 紹介者は「食べること」が大好きで、美味しいものが出てくる作品を読んでしまうということだったが、この作品に出てくるものは本当に美味しそうだと力説していた。
さらに。そのカップルの男性がすごく優しい感じで、歯の浮くような言葉をいうんだけど、それが自然と似合ってしまうらしい。いそうだけどなかなかいない、色っぽい優男は女性の大好物かもしれない。 舞台となっているのは、谷中や千駄木の当たりらしい。確かにあのへんは、グルなびとかには載っていないような小さくて感じの良いお店が多い。
そこらへんのお店を優雅に回りつつ、美味しいものを食べる話のようで、下町の人情味溢れる人たちとの交流なども描かれているようだ。 ぼくが感じたのは映画「かもめ食堂」や「めがね」などを監督した荻上直子の作品と似ているのではないだろうかということ。紹介者いわく、「そういう流れの作品かもしれませんね。」だそうで。
成熟した大人が読む少女漫画とか恋愛小説というような位置づけなのではないかと思ったけど、いかかだろうか。 あ、そうそう。選定理由は、「秋口に読んで、次の日に散歩に行きたくなる感じが良い」ということだった。確かに夏は暑いし、冬は寒いしで、散歩との相性が最もいいのは秋かもしれない。
マイ国家 星新一
こちらも女性の紹介者より。 星新一といえば、ショートショートの短編が特徴で、作品によっては1,2ページで終わってしまうこともある。固有名詞が少なく、いつの時代のどこの場所かはよくわからないのも特徴だ。 熊田氏とか中川氏の代わりにK氏とかN氏とかが出てくる。
紹介者はコーヒーなどの飲み物を片手に本を読むのが好きなのだが、冷めてしまうのが嫌なので一気に飲むことが多いそうだ。そのペースとショートショートが合っているというのが選定理由。 バーなどでお酒のお供に飲むのもいいかもしれないね、という案には全員同意。 一句できて、大きな笑いが生まれた。 秋深し 酒のお供に マイ国家
アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス
この作品は名作中の名作らしく、6人中4人が既読だった。 32歳の「白痴」の青年に対して、「頭が良くなる脳手術」を行うと、急激に賢くなり始める。それによって良くなった面ももちろんあるのだが、周囲にいた人間達との関係性も変わっていってしまった。 知性があるということは、見えなくても済むものを見てしまう、知ってしまうということでもあるらしい。
未読者として面白いと思ったのは、本の構成だ。 この本は、主人公の青年の日記という体で綴られている。そして冒頭は、「白痴」らしく誤字だらけの文章で書かれている。 原文は資料がないのでわからないが、何となく再現するとこんな感じ。 「ぎのうはは、とでも、おいーしごは食べた」 随分読みづらい本だと思うが、主人公が賢くなって行くにつれて急速に文章も良くなっていく。
パラパラとめくってみると最終的には「~~主義」みたいな概念語も登場するようになるようだった。 アルジャーノンというのは一緒に手術を受けた「ネズミ」の名前らしい。ネズミも急速に賢くなっていくのだそうだ。 「賢くなったネズミが、百年戦争に参加するかもね」 「神学論争したり!」 と、百年戦争が一瞬注目されるという一幕も。
これが悲劇なのか喜劇なのかは、読んでいないからよくわからない。しかし、誰が読んでも面白いに決まっている名作中の名作だということだった。 選定理由は、細かいエピソードに分かれているから読みやすいから。 「秋の夜長」の解釈で、「ショートショート」が合うという解釈と「ロングロング」が合うという解釈があったのが面白かった。
タイムリープ 高畑 京一郎
ライトノベル。 出した瞬間、女性の参加者から「こ れ は 最高ですよね!!!」との声が上がった。 秋の夜長というのは色んな本に手を出しやすいから、こういうのも読んでみたら?というのが選定理由。よくあるタイムループもの(日常を繰り返す)のSFらしい。
が、リープ(跳ぶ)というのは、月曜日→金曜日→水曜日→火曜日というように時間を跳んでいくかららしい。 何故、時間を跳んでしまうのか、 6回プロットを作り直し、2回書き直して、「ぼくはもう書けない」と言って大泣きして、編集者に「子供じゃないんだから」と説教されて泣きながら3回目を書き直したのだそうな。そういう裏エピソードも面白いよね。 散々悪戦苦闘した成果もあってか、ストーリーラインというか伏線というか、それが完璧な引かれ方をしているのだそうな。
とにかく、「クソ面白い!」らしい。 そう言われると食欲をそそられる。本日のプレゼン賞。 南氏いわく「アルジャーノン」は、新しいジャンルを切り拓いた名作。一方で、このタイムリープはどこにでもあるような設定の推理物でありながら、完璧なクオリティを持っているという意味で、「先進性」はないけどとにかく面白いのだそうだ。
きみのともだち 重松 清
最後はこちら。こちらも女性の参加者の紹介。 昨晩一気読みして、感情が高まって号泣してしまったそうだ。 そのままの勢いで「読書感想文」を書いてくると言う気合いの入れようだった。そこまで熱がこもるのもすごいね。
ダヴィンチという雑誌で、水曜どうでしょうなどで有名な名物プロデューサーの「藤村忠寿」さんが紹介していた本らしい。 「ともだち」ってなんだろうと悩んだ経験は誰しもあるのではないかと思うが、そういったグダグダのまっただ中にいる美しくも苦しい青春時代を描いた作品なんだそうな。
「桐島部活やめるんだってよ」などもそうだが、高校生あたりを描いた作品は「泣かされる」ことが多いよね。青春物でも泣けるし、感動物でも泣けるし、悲劇でも泣けるし…… 選定理由としては、短編が集まった連作型なので、秋には読みやすいだろうということだった。
さて、終了後は改めてコーヒーを注文しつつ結果投票。 ぼくは、ココア・バーボンなる飲み物を注文した。ココアとバーボンというのは相性がいいものらしい。マスターに言われて、そんなもんかと思って注文してみたら、とても美味しかった。寒い季節は得にいいかもね! 1人ずつ順番に「選定理由」を言いながら、トランプを2枚ずつ本の上に置いていく。 1枚は「読みたい本」。もう1枚は「テーマに即している本」。 こんな感じに段々と積み上がっていく。
結果発表!!
『最も読んでみたいで賞』
3票獲得
『タイムリープ』 高畑京一郎
『MVP』&『最もテーマに沿ってるで賞』
4票獲得
『蝶々喃々』小川糸
「読みたい賞」はライトノベルを敢えて持ってきたことが功を奏して「タイムリープ」に。対抗としては「アルジャーノンに花束を」だったのではないかと思うが、6人中4人が読んでいるという不利な状況だったために票は入らなかった。
もちろん、票を取ることだけが読書会の意義ではなく、「アルジャーノンに花束を」について語る時間は非常に盛り上がったことも付け加えておく。 「喋々喃々」が「テーマに即している」という票を4つも集めたのは、「読書の秋」と「食欲の秋」を掛け詞にしている点が評価されたためだった。
美味しくてお洒落で素敵な雰囲気の本は確かに「秋の夜長に読みたい小説」だったかもしれない。あれ?「読みたい票」が一つも入っていないけど、みんな読むつもりあるのかしら? というわけで、第一回ねこじたブックカフェは、大盛り上がりのうちに幕を閉じた。 (実際には、その場で1時間くらい人狼ゲームをやったのだが) 大笑いしたし、勉強になったし、刺激になった。
本当に良い会だと思う。 次回は11月2日(土)を予定していて、メインテーマは「児童文学」、終了後に番外編として「ジャケットで買いたくなる本」をやる予定。 参加者と面識がある人を対象としていて、人数は6~10名程度。 詳しいことは、フェイスブックページをご覧頂きたい。