ヒガシさんに会う度に言われる。
「サッガミハラー、きってくっださいよー!」
ぼくは言う。
「遠いから嫌です。」
その時、ヒガシさんがボトルキープしてくれていた焼酎を大量に飲んでいたにもかかわらず、断固として断っていた。だって、遠いんだもの。
原当麻まで何マイル?
ハラタイマ、難読地名である。
うちからハラタイマ駅までは、電車で64キロメートル。16マイル。時間にすると電車に乗っているだけで約2時間。電車を降りてからもそれなりに歩くので、本当に遠いのだ。
相模大野からバスで行くにせよ、電車で行くにせよ、遠いものは遠い。本当に遠い。自宅から甲府まで行くのとほとんど時間距離が変わらないという恐ろしさである。流石に運賃は甲府の方が高い。相模原はたったの片道1000円だ。
いや、距離が遠いといっても実はそうでもない。行き慣れていない場所であることが問題なのだ。そもそもぼくは、東京の東側の人間だ。
東側の人間は、山手線より西側にはあまりいかない。嫌いなわけではなく用事がないのだ。だいたいの用事は新宿あたりで止まってくれる。
唯一、行き慣れた場所がある。飛田給である。味の素スタジアムがあるためだ。
というわけで、そもそも西側に疎いため、西部線とか、東急とか、京急とか言われても何の事やらよくわからない。あれ、京王線だっけ。
この前も西武池袋線と西武新宿線を間違えた。西側の人からするとそんなの間違えることがありえるのかというような話らしい。
一方で僕は、銀座線と丸ノ内線と千代田線と東西線と南北線と半蔵門線と都営三田線と都営新宿線を間違えることはない。特に路線図を見なくても、地下鉄を使ってどこへでもいける。
ただし、新都心線はよくわからない。そういう感じなのである。
さて、話は変わる。
ぼくは猟友会に入っている。
その名も杉並猟友会で、ぼくは特別顧問という役職を頂いている。いつの間にかではあるが。そして、会長……ではなく名誉会長だっけ?が、俳優の郭智博さん。
相模原SCをモデルにしたクラブの人間模様を描いた映画『ホペイロの憂鬱』で、クラブを暗に陽に支えているキープレイヤー森陽介を演じた俳優さんである。
とまぁ、最初は俳優さんという感じだったのだが、段々と学生時代のゲーム仲間のようにしか思えなくなってきた。というのも、時折モンスターハンターワールドを一緒にやっているからだ。
時間帯が合わずに毎日とはいかないのだけど。ぼくは、ゲーム外お邪魔虫がいない真っ昼間に、仕事からの逃避としてやっていることが多いからだ。堂々と言うことではないが。
その郭会長に、「相模原でサッカー見ませんか?」と言われたときも即答してしまった。
「だって遠いもの。」
これはヒガシさんのせいである。初代コールリーダーが毎回言うからいけないのだ。今度Kitenで勝手にボトルをあけてやろう。
とまぁ、そんな会話があった数日後に、俳優の大杉漣が急逝されるというニュースが流れ、Jサポ界隈に衝撃が走った。
ぼくも、突然のことに動揺し、悲しくて悲しくてしょうがなくなった。芸能人の死にここまで動揺したのは初めてだった。
大杉漣さんは、スクリーンの向こうにいる俳優さんではなく、我々のサッカー仲間と認識していたからだ。大杉漣さんと言われて最初に思いつくのは、シンゴジラの総理大臣でも、U-31の監督でもない。
徳島ヴォルティスのタオルマフラーを掲げて国立競技場に立っている姿であり、日立台のホットドッグが美味しいとお勧めしている姿であった。どう考えてもこっち側の人で、ぼくらと同じようにサッカーを楽しみ、同じものを食べて、同じような席に座っていたのだ。
我々は、サッカー仲間を失った。サッカーが見れなくなる、愛するクラブの行方がわからなくなるというのは、なんと切ないことか……。
大杉漣さんの訃報を受けて、ぼくは反省した。
ぼくがサッカーへと注ぎ込んでいる愛情は、とても中途半端だった。サッカーはもっと愛すべきもので、この世を去るその時まで、ぼくにとってずっと大切なものでいてくれるはずだ。言うならば家族だ。
サッカー仲間も含めてみんな家族という認識でもいいかもしれない。いつもTwitterで文句ばっかり言ってるおっさんも含めて、みんな家族なのだ。
サッカー仲間のペルーが、町田ゼルビアの野津田公園で大杉漣さんを見かけたと書いていた。対戦相手は徳島ではなかったそうだ。よほどサッカーが好きな人じゃないと、自分の縁があるチームに関係がない日に、野津田の山は登らない。
ぼくは3回くらい登っているし、そこまで辿り着けばもちろん楽しいのだが、ご多忙な方が気軽に行くところではないのは間違いない。
ちなみに、町田ゼルビアと徳島ヴォルティスの対戦成績を知っている人はいるだろうか(そうそういないとは思うが)。通算2勝2分2敗で、得失点差を含めて、まったくの互角であった(これ、マメな)。
もし、大杉漣さんだったら「あそこのスタジアムは遠いから」という理由でNoとは言わないだろう。遠かろうと行きたいだろうし、行けないとしたらスケジュールの問題など他の理由が必ずあるはずだ。
遠いなんていうのは嘘だ。
ぼくは、鳥取まで行って夜行バスで帰ってきたこともある。朝方品川でヨレヨレになっていた。琉球の試合も観に行ったし、広島だって行った。高知県まで地域決勝を観に行ったこともある。
そうだ、ぼくは高知にいったんだ。仕事でもなく。単にサッカーを見るためだけに。それを思うと、相模原なんて近所ではないか。
サッカーは、世界中の色々な場所を近所にしてくれる。
さっきもブラジルで出会ったヒラノさんのツイートを見てぼくはこんなリプライをした。
「こんな写真を見ても、またブラジルに行きたくなります」
コパカバーナの海岸通りは、現在こんな感じに水没している。膝下くらいまで浸かりながら宿まで帰ってきたところ。 pic.twitter.com/BGfuiDsYjT
— 🇧🇷 Tsukasa Hirano (@tsukasahirano) 2018年2月22日
ぼくの認識において、ブラジルは比較的気軽に行ける場所なのである。一度も行ったことがない場所であるならば、遠すぎて絶対に行けないと感じたはずだ。
でもぼくは生きているうちに必ずブラジルに行く。もう一度行く。イグアスの滝を見ていないし、マナウスにも行っていない。レシフェには二度と行かないが、ナタウなら行ってもいい。
ワールドカップが……。サッカーが、ぼくと世界の距離を縮めてくれた。世界中を自分の場所にしてくれた。
遠いから行かないなんて二度と言わないことにしよう。
というわけで今年は色々行こう。そして好き勝手にブログに書こう。整ったまともな文章にする必要はない。考えすぎる必要もない。自由に、自然体で、サッカーを楽しもう。
これは一方的な話だが、大杉漣さんと一緒にサッカーを観に行っているようなつもりで行こうと思う。
DAZNが天国まで商圏を伸ばしているとしたら、同じ試合を見ていることはありえない話ではあるまい。
DAZNが、天国の人口の多さに目をつけることを祈りつつ、この稿を終える。
P.S 遠いと言えばのカシスタの写真をアイキャッチにしたので、今年は鹿島にも行こう。
追記 杉並猟友会の動画を張り忘れていた。
https://youtu.be/mNUKs2iZvhk