「日本野鳥の会東京」主催のイベントに参加してきた。セミナーのタイトルは以下の通り。
【野鳥界のビッグデータ!?】身近な野鳥観察記録がお宝に!【参加型調査活動】
主催者のコピー作成能力が相変わらず素晴らしい!!
ビッグデータというのは最近話題になっているキーワードで、大量のデータが蓄積されている状態を指している。「データが多すぎてカオス」「手が付けられない」という状態を指すこともあるようだが、研究者からすればビッグデータの料理はお手の物だ。
一見カオスなデータから意味のあるストーリーを抽出することこそ研究の華だとぼくは思っている。しかし、難しいのはその「ビッグデータ」を作ることのほうだ。1人で研究をしている場合には、延々と実験や調査を繰り返してデータを蓄積させないといけない。
1回の調査結果からものを言うよりも、100回の調査結果から同じ結論を下す方がより信頼性が高い結果となる。しかし、1人で100回も結果を出そうと思うとヘトヘトに疲れてしまう。そのため、データを取る範囲を絞るなどの工夫をすることで、局地戦に持ち込むのが常套手段だ。
無駄な調査をしないということが鉄則、そう考えていたし、個人の研究者がやる分にはそのほうが効率がいいのは間違いない。
一方で、効率が悪かろうが大量にデータが取れるとしたら、それほど有り難いことはないというのも事実だ。
気象条件と生物の行動の関係性を考えているときに、大量の気象データを分析していたことがあったのだが、調べれば調べるほど、数値をいじって見当していけばいくほど、当初は予想していなかったようなストーリーの「卵」が見えてきたことがあった。
例えば、風力の変化を1時間刻みで見るのか10分刻みで見るのかで全く違う姿にみえる。また、それらを雨量や気圧の変化と同時に見ることで、全く違う顔に見えてくるようになる。データの解析とストーリーの「捻出」は、研究をしていて一番楽しい瞬間だった。
ところで、気象データや海象データなど、自動的に記録できるものならいとも簡単に「ビッグデータ」が取れてしまう。しかし、野鳥の観察記録となるとそうはいかない。人間の目と頭脳も必要だ(さらにいうなら観察対象への愛も重要)。
観察記録の「ビッグデータ」を作るのは、有意義だけど、大変。
これをまず出発点としたい。
そして、「ビッグデータ」を収拾をしているのが今回セミナーで講師を務めて下さったバードリサーチの方々だった。
バードリサーチ/ Bird Research
セミナータイトルの「ビッグデータ」という文字を見た時に、人海戦術で一斉調査をするようなものだろうと考えていたのだが、実際はちょっと違っていた。
紹介されていた「ベランダバードウォッチング」は、非常に面白い調査だった。この調査は、一般の人が、自宅のベランダから1日15分間観察を行い、観察された鳥類を記録していくというもの。
この調査で面白いと思ったのは、全国各地の調査ポストのデータが一斉に入ってくること。渡り鳥のデータを見れば、その年の渡りの状況が把握できるし、普通種の数をモニターしていれば、環境変動などを鋭敏に察知する指標にもなる。
まだ減少していない種に対する調査には、研究費はあまり出ないかもしれない。しかし、普通種が危惧種にいつ変わってしまうかはわからない。取り返しが付かないほど減少する前に、最初の兆候を捕まえるための調査をするという趣旨のようだ。
調査の担い手が、自然環境と野鳥に関心を持つ一般人(非プロ研究者)だというのも面白いところだ。様々な知識レベルの一般人が調査に参加すると言うことで、調査の精度にばらつきが出てしまうことが想定され、そのリスクをどう捉えるか、料理するかを考えなければいけないという課題はあるが、それも含めて面白そう。
調査結果もレポートになっていて、非常に面白い。
バードリサーチ ベランダバードウォッチ調査結果
(読んでいて気になったのは、家の周辺でアカショウビンを見ている人がいたことだったりするのだけど、それは趣旨と違うので括弧つき)
他にも様々な活動があるが紹介しきれない。個人的に気になったのは、メジロとランチ♪プロジェクト、ヒクイナ調査。
ぼくは研究がすっかり嫌になってしまって、研究者としてはポンコツの廃人同様なのだが、久々に研究の楽しさを思い出したような気がした。やっぱりデータを見ると血が騒ぐ。プロ研究者のキャリアを目指すことは今後ありえないが、せっかく身につけた研究能力があるのだから、一般人として参加できる範囲で研究活動をするというのもいいかもしれない。
最近こういう意見に接して感じ入ることがあった。
「やっぱり科学研究のモチベーションの根底は,
単に「好奇心」の発露であって,
いわば人間の持つ「欲望」そのものなんじゃないか,と。」
kawagucci's Weblog われわれは何のために科学研究をしているのか
プロ研究者をやっていると、どの研究をして効率的に論文を作るかとか、就職先がどうの、任期がどうの、金、待遇、業績がどうのと生々しい話に接し続ける必要がある。
それがプロってものだろうから、仕方がない部分もあるが、根底にあるべき「好奇心の発露」という要素は希薄になっている人もいるような気がする。ぼくの場合は、そこを完全に見失い、政治権力のために研究をしているかのような気持ちになってしまった。
でも、野鳥の世界にはそれがあった。
毎朝15分、ベランダから鳥を観察してデータとして蓄積している一般人の心には間違いなく「好奇心」があり「向上心」があり「研究の喜び」がある。そして、研究対象である「野鳥への愛」が溢れている。
こんなことを考えていたら、すっかりバードリサーチのプロジェクトに参加している気分になってしまい、年会費3000円の会員になってしまった。
特典は、こんな感じ。
1.ニュースレターの概要版がメールで届く。
2.研究誌のダウンロードができる。
3.ニュースレター詳細版のダウンロードができる。
4.バードリサーチの調査に参加できる。
これだけでも十分なんだけど、個人的に一番決めてとなったのは、「研究する楽しさ」を思い出させてくれたから。
研究がしたいなら在野のほうが余程楽しい。
プロ野球選手よりも草野球を真剣にやるほうが喜びは大きい。
プロとして仕事とする場合には、金銭を引き出すことも出来るが、代わりに差し出さなければいけないものもあるのだ。