「どうして今更ブラジルワールドカップのことなんか書くの?流石に売れないと思うんだけど……」
そう言われると、反論は難しい。日本にとってブラジルワールドカップはあまりいい思い出ではないからだ。だけど、ぼくはこう言い返したい。
「でも、書かないわけにはいかない!!ブラジルのことが忘れられないんだ!!」
両手一杯の不安と抱えてブラジルを訪れた。そして、ぼくが大事に抱えてきた価値観は崩れ落ちていった。
世界一遠い国は、世界一近い国であった。
この言葉を説明するためには、物事を最初から解説していかなければならない。つまり、ブラジル行くことを決断する前からである。
今更ブラジルについて書いたところで一部の親しい友人以外は興味を持ってくれないかもしれない。正直言って不安だ。
しかし、ぼくがブラジルで経験したことは死ぬまでに何としても書き残しておきたい。それだけの内容だと思っている。自分の経験や、自分が書いた本がどこまで面白いのかを主張するのは難しい。だから、ぼくが言えるのは、「魂を込めて書いた」という事実だけである。
そして、今は小さな好機が訪れている。
ブラジルが再びメディアの注目を浴びて、連日報道されているのだ。
リオ五輪とブラジルワールドカップ、ブラジルの治安について
2016年8月。
リオデジャネイロオリンピックが開幕した。
本当に開催できるのかと不安の声が上がり続け、最悪の治安状況が何度も報じられる。日本人には想像できないレベルの治安状況で、軽犯罪はもちろん、強盗、殺人なども多発しているとされている。
それだけではなく、警察や軍のストライキが起こることも示唆され、万一ストが起きてしまった場合には、無法地帯になる可能性が高い――。
ブラジルに行くのは命懸けだし、無駄に命を捨てに行くようなものなのである。
「ブラジルに行くやつは馬鹿だ。」
国内メディアによって、ネガティブな雰囲気が醸成される。テレビを見ても、インターネット上の書き込みを読んでいても、ブラジルは悪の巣窟、地獄や魔界のようなものとして描かれている。
すべてはあの時と同じである。
2014年ブラジルワールドカップの時もまったく同じ状況であった。スリ、強盗、殺人、スキミング、誘拐、ストライキ……。そして、高騰する航空券や宿泊費。
そんな中、ぼくはブラジルへと足を踏み入れた。そして、旅の仲間と共にサンパウロからリオデジャネイロ、レシフェ、ナタール、クイアバと旅を進めて行った。
歩を進める度にブラジルは「真の姿」を現していく。
リオデジャネイロオリンピックでも、さっそく犯罪の被害が報告されている。しかし、不思議なことに凶悪犯罪の被害にあって死者が出たという話はあまり聞かない。
もちろん、治安は良くないので、銃で脅されて金を巻き上げられたという話はポツポツ聞く。宿に置いてあったお金や電子機器が持ち去られたという事件もあった。
だが、思ったよりも小さな被害ではないだろうか?
仮に他の国で開催されていたとしても、同程度の盗難被害などはあったのではないだろうか。日本人相手の窃盗が相次ぐという内容のニュースを読んだが、ビーチで1万円以下の現金を奪われたが警察に通報したら帰ってきたという内容であった。
原則として、一度振りかぶった剣は、力強く振り下ろされる必要がある。
ブラジルの最低最悪の治安状況を警告していたメディアは、ブラジルの「最低最悪な犯罪」を探し回っている。そして見つける度に、鬼の首を取ったか如く報道する。いや、報道したいのだ。
起こった事件が凶悪で凄惨であればあるほど、国内でニュースを見る人々にとっては刺激を得られる。ブラジルは酷いところだと文句を言いながら、平和な日本に暮らす幸福を噛みしめることが出来る。
現地まで訪れたジャーナリストにとっては、何事もなく平和に終わるよりも、人の生死が関わるような事件が起こってくれたほうが都合がいいのである。
しかし、幸か不幸か、それほど物騒な事件は多発していない。
武装強盗が会場に侵入してマシンガンで観客を皆殺しにしたとか、チェンソーを持った薬物中毒者がホテルに侵入したとかいうニュースは聞かない。
ブラジルは想像以上に危険なところなのは間違いない。一方で、思ったよりは安全なところなのである。
ブラジル人では多数の殺人事件が発生しているが、ブラジル人はあまり人を殺そうとはしない。
逆説的な表現だし、あくまでも個人的な感想なのだが、ブラジルを旅した人なら、ある程度共感してくれるのではないだろうか。
リオ五輪でも、メディア関係者は拍子抜けすることだろう。
「凶悪事件を待っていたのに、盗まれたのは俺の財布だけじゃないか!!」
ブラジルと日本
ブラジルを訪れる前、身の安全を確保する意図もあって、ブラジルのことを学びに学んだ。書籍を読み、インターネットで情報を集め、滞在経験者に話を聞いた。
でも、それでは何もわからなかった。本当に肝心なことが載っていなかったからだ。
ご存じの通り、日本は自殺大国である。年間約3万人もの人が自らの舞台を降りるという悲しい決断をする。一方で、ブラジルの自殺率は非常に低い。
日本では10万人あたりの自殺者数が23.4人なのに対し、ブラジルは4.8人なのである(一方で殺人被害者数は逆の傾向を示している)。
殺人より自殺に走る「内向型」日本人は政府にとって都合が良い |ニューズウィーク日本版
多かれ少なかれ、ぼくは生きづらさを抱えながら何とか誤魔化して来た。この年になってようやく落ち着いてきたところもあるが、それは「穂先をそらす技術」が向上しただけで、根本的に何かが解決したわけではなかった。
意外なことに答えはブラジルに落ちていた。
日々を暮らすために必要なこと。
幸福に生きるために大事なこと。
誰かと共に生きていくために求められること。
すべての迷い苦しみながらも懸命に生きる人に、ブラジルという国を知って欲しい。そういう思いを綴った。
メインテーマ2 スポーツツーリズムとして
スポーツツーリズムとは、スポーツ観戦をすることを目的に旅をすることである。サポーターの先輩達は、国内外でこういった旅を満喫しているわけだが、読み物として正面からスポーツツーリズムを扱っているものは、実はそれほど多くない(結果としてスポーツツーリズムになっているものはいくつかある)。
スポーツの本なのか、旅の本なのかわからなくなってしまうため、作品のテーマがぶれるという考えがあるのかもしれない。ぼくは両方一緒に書きたいし、そうすることが一番面白くなると考えているので、旅と観戦を並列的に扱っている。
この本は、ワールドカップの試合を観戦し、日本代表を応援することを最大の目的として、ブラジルを旅した28日間の記録である。
スポーツツーリズムにはいくつか分類がある。例えば、あるサッカークラブのサポーターがアウェーの地まで応援に行くことはもちろん、ホノルルマラソンに参加するためにハワイに行くのもスポーツツーリズムとされている。
この本で描いたのは、自国の代表を応援するためにワールドカップ開催地を訪れるという特殊なタイプのスポーツツーリズムであることに後で気付いた。そう、特殊なのだ。
こういった経験は、時刻が出場しているサッカーのワールドカップ以外では味わえないのではないかと考えている。
ぼく自身もわかっていないかったのだが、旅が進むうちに段々と明らかになっていった。
Jornada Copa do mundo 2014
1巻
<目次>
antes da jornada ブラジルへの想い
JOGO 1 東京、慌ただしい日々
JOGO 2 東京からドバイへ
JOGO 3 ドバイからサンパウロへ
1巻の特色はとにかく価格が安いこと。
お値段なんと100円!!
1巻はいわゆるお試し版で、ブラジルへと旅立つ決意と、サンパウロに到着するまでを描いている。
旅は、旅を始める前から描く。
これが1つのこだわりで、ある意味で1巻が一番書きたかった内容なのである。まだ見ぬブラジルに憧れ、それ以上に怯えていたあの頃、ぼくの足下には生まれ育った街「東京」があったのだ。
表紙はハトトカ製作担当の+54が作ってくれた。イラストではなく、実際に造形を作っている。つまり、「はとのす」と背中に書いたぼくの人形や「BRASIL」の文字も作っているのだ。
1巻は、恐ろしいブラジルへと旅立っていく際の心境を表現して欲しいと伝えたら、このような出来上がりとなった。その後は、各巻の登場人物と大まかなイメージだけ伝えてあるだけなので、最終的にどういうものが出来るのか著者としても非常に楽しみにしている。
2巻
<目次>
JOGO 4 サンパウロ、グアリューリョス国際空港をゆく
JOGO 5 暗黒のサンパウロへ ゾンビ街と愛しのセーニャ
JOGO 6 拝啓 FIFA様 お帰りください
JOGO 7 グアリューリョスの失態
JOGO 8 リオデジャネイロへ コパカバーナにてW杯開幕を迎える
JOGO 9 フルーツだらけのボンジーア
JOGO 10 リオデジャネイロの光と闇
JOGO 11 呼ばれて飛び出すちょんまげ男
JOGO 12 コルコバードの丘と国際交流、そしてW杯をめぐる自省録
巻末 おまけ動画
リオデジャネイロ滞在を含む、鮮烈なブラジルの感触を描いた巻。ブラジル論あるいは、それに照射された日本論。そして、代表サポーター論と、旅論。様々な論議の萌芽が存在する。
ここで出た主題を、旅本というキャンバスの上でどこまで膨らませていけるかが著者としての勝負!!
第三巻『Jornada 3』
<目次>
JOGO 13 犯罪都市レシフェ
JOGO 14 オオメジロザメが泳ぐ海
JOGO 15 世界遺産の街にて、仲間と共に祝福の時を
JOGO 16 一番危険なのは試合会場
JOGO 17 旅の仲間との再会
JOGO 18 狼と巨象
JOGO 19 止まない雨と肉まんの余裕
JOGO 20 誰も寝てはならぬ
巻末 おまけ動画
INTERVARO
一転明るくなった表紙と同様に、ぼくの旅も展望が開けていく。3巻は、序盤の最大の山場、犯罪都市レシフェでのコートジボワール戦である。多くの旅の仲間と出会うとても賑やかな巻だが、同時に日本代表を思うぼくの中には暗い影が成長していった。
電子書籍として
『Jornada』は電子書籍として発売されている。紙の本のほうが販売しやすい面はあるのだが、「旅の本は旅しながら読めるようにしたい」という思いもあって、電子書籍のプロジェクトを進めた。
旅をしながら旅の本を読むかどうかは人それぞれなのだが、個人的には旅をしながら堅苦しい学術書を読む気力はないし、逆にまったく旅に関係のないエンターテイメント小説を読むのも違う気がする。
それに、電子書籍の場合には、荷物としてかさばることもないため、気楽に旅に持って行くことが出来る。というわけで、「旅のお供に旅の本を」という1つの提案として電子書籍を製作した。
電子書籍を読んだことがない人も多いと思うので、少し説明する。読むためには3つのステップが必要だ。
1.Amazonのサイトで電子書籍『Jornada』を購入する)。
2.電子書籍を読む端末にKindleアプリをインストールする(パソコン、スマートフォン、タブレットなど)
3.端末のKindleアプリにログインする。自動的にダウンロードされるので、終了した後クリックする。
つまり、パソコンか、スマートフォンか、タブレットがあれば読むことが出来る。Kindleの専用端末もあるが、当然こちらは無料ではない。
<参考資料>
初心者向け・電子書籍(Kindle本)の読み方 - give IT a try
Kindle本の端末ごとの読み方・買い方 | EX-IT
スマホ・タブレットを利用した電子書籍の読み方①キンドル編 | タビしるべ
電子書籍というと、若者向けの新しいメディアというイメージがあるかもしれないが、実はメガネが手放せなくなった世代にとって非常に心強いのが電子書籍なのである。
というのも文字の大きさを自分で変更できるから、近くを見るために使うメガネが不要なのである。具体的に示す。
画面はパソコンから見たもの。
・文字を大きくしたパターン
少し大きくし過ぎて逆に読みづらいかもしれないが、このくらいまでは余裕で拡大できる。また、個人的に気に入っているのは、暗い部屋で読む際に、まぶしく感じないように背景を黒くしたもの。
慣れてみるとなかなか便利なので、これを機会に是非お試し下さい!!
どうしても導入できないという方は、連絡下さい(Twitterか、lifeisluck007@gmail.com まで)。
拡散とカスタマーレビューのご協力をお願いします!!
正直な話、駆け出しのマイナー作家であるぼくの本は放って置いても売れるということはないのである。
売れ行きのほとんどは、このブログを読んで買ってくれた皆様と、皆様がSNSなどを通じてオススメして下さった範囲に収まるといって過言ではない。特に初期はそういう傾向になるはずだ。
サッカー本大賞みたいに何か賞を取って注目を浴びれば――、というのも実は少し考えたのだが、現状電子書籍で狙える賞はあまりないようだ。
というような状況なので、『Jornada』を読んで面白いと思った方は、是非SNSによる拡散にご協力下さい!!
もう1つ。
Amazonカスタマーレビューのご記入を是非お願いします!
レビューを参考にして購入する人が非常に多いようなのである。そして、著者や製作サイドとしても、大変励みになる。『サポーターをめぐる冒険』の時に頂いたレビューも時折読み返している。
今気付いたが、ブログなどに書いて頂いたものも時折読み返すが、SNSは流れて消えて行ってしまうので、Amazonレビューが一番読み返しやすいかもしれない。
というわけで、次の本が書けないという苦しみを抱えながらやってきた2年の末に、ようやく出版できた『Jornada』を是非よろしくお願いします!!!!