昨日もJリーグ観戦に行ってきたので何か書こうとは思うが、ブログを眺めてみるとJリーグだらけになっている。
Jリーグのことは書きたいけど、ちょっと一休みしよう。
というわけで、短い書評シリーズの第五弾を。この短くまとめる感じが書いていて楽しい。
蹴りたい言葉 サッカーがしたくなる101の名言 いとうやまね
「サッカーとは人生そのもので、サッカーに関する考え方は生き方の問題だ」と先日書いたが、そういった観点から考えると、この本は「人生を思い切り生きたくなる名言 サッカー選手編」というようなタイトルにしても何とかなると思う。
この本はとても完成度が高い。とてもお洒落な本だと思った。
レイアウトが秀逸で、右のページに大きく「名言と発言者と背景」がまとまっていて、左のページに「解説と発言者のプロフィール」が載っている。
非常にハイセンスな印象を受ける装丁で、しっかりとした読書まではできない気分の時でも気楽に読める。盛りつけが洒落ていて、食べる前から涎が湧いてくるような盛りつけが美しいイタリアンレストランのようなものだ。
お洒落で読みやすいけど、中身はサッカー選手の人生を託した重みのある言葉というバランスがとても気に入った。
101も名言があると、今の自分のテーマにあった言葉に関心が行くものだ。今興味を持っているサッカーと地域性という観点からいくと、例えばブライアン・ギグスのこの名言が目に入る。
「ぼくは矢と呼ばれるけど、弓を引くのは仲間達だからね。」(p.74)
かっこいい。惚れてしまう。
フェルナンド・イエロの名言は……、やめておくか。
「Jリーグ版があればいいのに」と思っていたのだが、↑のリンクを探すときに偶然みつけてしまった。即購入を決めた。数週間前の自分だったら全く興味を持っていなかっただろう。変な感じ。
失踪日記 吾妻ひでお
もう8年前に読んだ「マンガ」で、続編が出たので読み直した。この本は、何度も何度も読み直した。
同じ状況にいたら、ぼくもきっと失踪したり、アル中になっていたりしたかもしれないと考えると胸が痛くなる。一方で、その悲痛さをあまり感じさせないコミカルな作りが最高に面白い。
ぼくもお酒は好きだし、研究生活中はあまりの精神的苦痛にアル中スレスレだったような気がするがが、そこで踏みとどまれたのはこの本があったおかげだ(あと、ノンアルコールビールの発売)。心の底から感謝したい。
創作している時には、強烈なプレッシャーがかかってくる。その負荷のおかげで良いものが作れるという側面もあるんだけど、精神的に疲労していくのも事実。
休む時間というのは非常に大切で、心をリラックスさせる時間があるからこそ良いものが作れるし、失踪したりアル中になったりしないで済む。
この本で一番いいのは、自虐でも、負の経験の告白でもない。表現者として、遠い視点から悲惨な過去の自分を見て、それを読者に受け入れやすい形に加工してあることだ。芸術作品といってもいいのではないだろうか。
「表現」というのは強烈な「我」がなければ出来ないのだが、一方でその「我」を殺さないと非常に受け取りづらいものになってしまう。そういうステージを完全に乗り越えているという意味で、非常に優れている作品だと思う。
ホームレス編、肉体労働編、漫画家の仕事編、アル中病棟編に分かれているが、全部面白い。
ぼくにとっては、人生の教科書の一つ。
アル中病棟 失踪日記2 吾妻ひでお
そして、最近出た続編がこちら。もちろん、「マンガ」作品。
前作より若干重い雰囲気なのは、ずっと病棟の中での出来事なので仕方がないかもしれない。特に出だしが重い。「天の声」が「ですます調」なのも重い感じがする。
しかし、読み進めるにつれて軽妙なトーンも戻ってくるし、異世界での出来事をのぞき見できるという意味では非常に興味深く読める。病気(アル中)がテーマなので、ネガティブな話題もあるものの、基本的には「回復と再生」を描いたストーリー。だから、読み進めるにつれてほっとしていく。
悲惨なシーンもあるものの、そういうところはコミカルでクスリと笑えるようになっている。例えば、オヤジがアル中になって困っているときは、ヘタに辞めさせようとせずに好きなだけ飲ませて、身体も心もボロボロになって動けなくなってから病院に入れることを勧めるシーンとか。
あるいは、「鬱」に悩まされるシーンも。「鬱」というのは自分の内面にあってどうにもならない重くて暗い影なのだが、著者は鬱をバーバパパのような形状の黒い塊として背後霊のように描写している。これって凄いことだと思う。
そんな暗い描写がある中で、時折でてくるほっとするシーンがとても好き。
帯に「病棟は楽しいよ(吾妻)」や「酒無しでこの辛い現実に、どうやって耐えていくんだ?」と書いてあるのが、これはとても迫力がある。
ともかく、飲み過ぎたり、辛いときに飲んでしまう気がある人は読んでほうがいい。その後の人生でずっと飲めなくなるばかりか、周囲に尋常ではない迷惑をかけてしまうかもしれないから。今回は、アル中という病気についての理解を深めることができるという意味でも非常に良い本だ。
まだお酒を飲んでいない高校生にこういうのを読ませておけば、大学には行って一気飲み三昧になるという愚は犯さずに済むのではないだろうか。
小田島隆のコラム道 小田島隆
とある友人から強く勧められた一冊。
なんだけど、ちょっとぼくにはしっくり来なかった。小田島先生の書き口は、どっちかというと「文語」よりで、ぼくはギリギリまで「口語」に寄る。だから、同じ「である」で書いても全く調子が違ってくる。
例えば、小田島先生が、
「文章の書き方」は、簡単に明示できるものではない。というのも、「文章の書き方」は、「ものの考え方」や「人生の生き方」を含んだ壮大なテーマで、それゆえ、他人に教えられるようなものではないからだ。(p.14)
「そうなんだよ、その通りなんだよ」と頷いた。たまに「書き方を教えて欲しい」と言われることがあるんだけど、方法は3つしかない。色んな経験をすること。色んな人に会うこと。本を読むこと。
知識があって書く技術が高くても良い文章が書けるとは限らない。官僚が書くような面白みがない文章なら書けるようになるかもしれないが、それは文章じゃない。情報を論理的に整理した文字列だ。
テキストとは、もともと織物を指す言葉。縦糸と横糸が何本も絡み合ってできる。色んな糸を持っている人は物書きとしてスタートラインに立っていて、それをいかに組み合わせて模様を作っていくかで勝負は決まる。
持ってる糸は輝いているのに組み合わせる気力がない人もいるし、糸がないのに文章の技術や斬新なテーマを追求する人もいる。それだとなかなか突き抜けたものが書けない。
ぼくの場合は、人生経験もファッションセンスも不足しているが、どっちの方向に進めば物書きとして成長できるかについてはぼんやりとわかってきたという感じだろうか。
とか書いていたら、もう一度読み直したくなってきた。一度目はいまいちだけど、二度目は心に染みるという類いの本もある、
GOLD STANDARD 世界一を作ったコーチKの哲学 マイク・シャシェフスキー&ジェイミー・K.スパトラ
コーチKとは、アメリカの名門デューク大学のヘッドコーチとして有名だったのだが、今ではアメリカ代表のバスケチームを率いている人物としてのほうが有名かもしれない。この本はコーチKを知っている人やNBAに興味がある人なら、ある程度楽しめることは間違いない。
一番面白いのは、レブロン、コービー、キッドなどのエピソードやオリンピックの試合を振り返るシーンなので、そこらへんを拾い読みするのがオススメ。
オススメしないわけではないのだが、途中に細かいエピソードがいくつも挟まれていて、その中にはあまり興味が出ないものもある。もちろん、中には当たりもある。スター達に「国を代表している」という意識を植え付けるために、戦争で怪我をした傷病兵と会わせるというエピソードがあった。
アメリカという国は、日本とは比較にならないくらい軍隊の影響力が強いところだというのが垣間見えて面白かった。
ぼくにとって外れのエピソードもあったが、気まぐれに読んでみると、そういう隙間からアメリカという国が覗いてみる。そういう意味で味わい深さを感じることが出来た。
コーチKは軍人のようでもあり、宗教家のようでもあった。これは、日本人からすると非常に危険なコーチのようにみえる。しかし、コーチとしての態度をみると、むしろ理想的な振る舞いをしているように感じた。
もしかしたら日本人は、武士道のような無骨な規範を失ってしまったから、育成やコーチングという問題について悩むのかもしれないとぼんやりと思った。
コーチKは年俸10億以上を稼ぐスーパースターたちをまとめる必要があった。そこで、“ルール”ではなく、自発的に“スタンダード”を決めさせて遵守させていったというプロセスは、○○選抜とか○○代表というようなチームを率いるコーチには、参考になるような気がする。あるいは、ビジネスの側面で言ってもチームリーダーや社長などには応用可能かもしれない。
難点を言うと、「前書き」のフォントサイズが小さすぎて、目が悪い人にはきついこと。情報が詰まり過ぎているのでページが足りなかったのかもしれない。この本は頭から読まずに、「ゲームタイム」から読むのが一番とっつきやすいかもしれない。
今回の一押しは「蹴りたい言葉」。誰でも楽しめるし、読みやすいし、十分すぎるほど深い。
物作りをしていて時々「むきーっ!」ってなる人は、失踪日記とアル中日記はオススメ。文章を書くことに興味がある人は小田島先生の本は読む価値があると思う。
NBAに興味がある人や指導者には、ゴールドスタンダードがお勧め。