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Jリーグ サッカー論

「武藤嘉紀なんてただの子供さ。」2015年1stステージ最終戦と壮行セレモニー

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そういえば、一番最初も武藤と呼んでいたのを思い出す。ユース上がりとは聞いていたが、プレーを見たことはない一人のルーキーであった。

しかし、開幕の柏戦でスタメンの座を掴み、あっという間にぼくの心も掴んでしまった。そして、いつの間にか愛称の「よっち」と呼ぶようになっていた。ユースから見続けているサポーター仲間も多くとても羨ましかった。

それでも、その頃は少し子供扱いしていたところもある。よっち、よっち、よちよち、と。

今はどうなったのかというと、「よっち」と呼ぶこともあるが、どちらかというと「武藤」と呼ぶ方が多くなった。頼りなかったルーキーが、あっという間にエースストライカーになっていたのだ。FC東京は武藤がいないと勝てない武藤頼みのチームになっていた。

1stステージでは、浦和を始めとする強豪には勝ちきれなかったが、最終的には2位でフィニッシュすることが出来た。武藤がいなかったら果たして何位になっていただろうか。

成長を見守り続けた大切な選手が世界へ旅立つ日が訪れた。見届けるために味の素スタジアムへと向かった。

そして、思った。
武藤嘉紀なんてただの子供じゃないか、と。

予報は土砂降りだったのだが、サッカーの神は美しい夕焼けで、この日を飾ってくれた。

最終戦は41363人の大観衆が詰めかけた。日本代表のユニフォームを着ている人も何人も見かけた(背中にはHondaのネームが入っている人もいた)。東京の武藤は、ニッポンの武藤でもあるのだ。

FC東京コレオグラフィー

この日はコレオが用意されていた。コレオというのは「人文字」のようなもので、大抵は特別な試合の際に行われる。ぼくの席から見えた景色はこのようなものであった。

武藤、自らシュートを決めて、花道を飾ってくれることだろうと信じていた。「持っている」選手なら必ず決めるはずだ。ここで決められないようなら、世界の大舞台でだって通用するものか。そんなことを思っていた。

しかし、結果はというと無得点であった。武藤は大一番で決められなかった。とはいえ、決して悪くない結果であった。

東慶悟の華麗なゴールで一点を先制し、子供をトイレに連れて行っている間に大前に一点取り返された。

そして、後半18分。
武藤嘉紀はディフェンスを4人も引きつけて、前田遼一に決定的なパスを出した。前田はディフェンスの隙間をうまく狙って、見事にゴールを決めた。

前田と武藤の表情が崩れ、歓喜を表したまま抱き合って喜んだ。

あ、バトンが繋がった――

若手からベテランへ、順序は逆のようではあるが、その時、武藤嘉紀から前田遼一へとFC東京の命運は託されたのである。正直言って、武藤なしでどうしたらいいのか、という思いは拭えなかったが、前田がいるからきっと大丈夫だ。そんな気持ちになった。何だかほっとした。

続く21分にもセットプレーから前田がもう一点追加した。

嬉しさのあまりゴール裏まで駆けだしていく前田。その後ろを武藤も追いかけて、背中に飛びついた!!これほど嬉しそうな前田を見たのは初めてだ。追いかける武藤も嬉しそうだ。ジュビロから来た日本を代表するストライカー。でも今は、「東京の前田!俺たちの前田!」なのである。なかなかかみ合わずに苦労をし続けていたけど、後は頼んだぜ!!

その後、清水の石毛がとんでもないシュートを決めて、同点にされたらどうするんだとビクビクしながら試合終了を待った。武藤の得点も最後まで期待はしたが、ぼくは途中で諦めてしまった。なぜなら、武藤は走り回りすぎて、足を攣っていたからだ。

大観衆にゴールを見せるため、限界を超えて走り回っていたのだ。試合が終わると、武藤はピッチに倒れ込んだ。足が痙攣して立っていられなかったようだ。

最後の試合で武藤のゴールは見れなかった。しかし、不思議と残念ではない。確かに思いは繋がったのである。


清水エスパルスは、18チーム18位で折り返すことになった。しかし、18位のチームとは思えないほど強かった。チャンスの数は清水のほうが多かったような印象すらあるくらいだ。何かが噛み合っていないのだろう。

サポーターは、不甲斐ない結果を残した選手達に向けて大きなブーイングを浴びせるかもしれない。などと思ったのだが、意外な横断幕が掲げられていた。

「ここまで12番目の選手も力不足でした」
「後半戦はもっと力に! やってやろうぜ!」

詳しいことはわからないが、清水エスパルスサポーターの物語を覗き見た。ぼくはJリーグが好きだ。FC東京を応援しているが、やはりJリーグ自体が好きなのだ。個々のチームが魅力に溢れていて、だからこそリーグが盛り上がる。その中でFC東京が戦うからこそ面白いのだ。自分のところ以外が何の面白みもないチームばかりだったら、魅力が半減してしまうことだろう。

清水サポーターは、18位のチームにエールを送った。敗者を冷たく無視する、敗者に強烈なブーイングを浴びせるのか。それとも自らの至らぬ点を省みた上で、エールを送るのか。どちらが選手の力になるのかは、サポーターがよくよく噛みしめて考えるべきテーマだろう。

選手と一緒に敗北し、選手と一緒に傷つくのも、サポーターのあり方の一つだとぼくは考えるようになった。


試合後には、武藤嘉紀を送る出すためのセレモニーが行われた。

サポーター代表、大学サッカー(慶応大ソッカー部)の恩師、両親から花束が贈呈される。そして、花束贈呈が終わると、武藤はピッチの真ん中へと歩き、マイクの前に立った。

武藤嘉紀という選手は、インタビューを受ける時、非常に正確な日本語を使い、模範的な回答をする。無論、にこやかな笑顔を浮かべながらである。極めてよく出来た優秀な選手なのだ。ぼくは長谷部の後をついで、日本代表のキャプテンになれるメンタリティと言語力を持っていると思っている。

だからこの日も卒のない上手なスピーチをするのだろうと思っていた。しかし、マイクの前に立った武藤は……

「泣かないと決めていたのですけど……」

意外なことに、青赤のタオルマフラーで涙をぬぐいながら話し始めた。泣きじゃくる音がマイクを通して聞こえてくる。その瞬間ぼくの涙も止まらなくなった。

「今日も……最後は自分でゴールを決めたかったのですけど、チームメイトに助けられて、無事勝利して、ドイツに渡ることができます……」

「自分一人じゃ何も出来ないぼくを、支えてくれたチームメイトだったり、今日もこのような多くのサポーターの方々に集まって頂き……自分は本当にめぐまれていて幸せだと改めて実感しました……」

「何一つタイトルも結果も……残せなかったのですけど……この恩は絶対に……日本代表、そして、ドイツでしっかり……結果を出して、恩を返して行きたいと思います」

「日本に帰ってきたら、是非またFC東京に暖かく迎えて頂けると嬉しいです……」

「本当に一年間半幸せでした!!ありがとうございます!!」

もう前が見えない。気持ちのこもった最高のスピーチだった。武藤の思い、FC東京への愛情と感謝は、2万パーセント伝わった。

武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!

サポーターが名前をコールする中、他の選手達が号泣する武藤へと駆け寄っていった。よくみると、ラサッドも少し遠巻きながらニコニコしながら祝福しているのが見えた。半年という短い縁ではあったが、ラサッドも青赤の仲間なのである。次は何処へ行くのかわからないけど、頑張ってね!

武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!武藤!

そして胴上げが行われた。平山も出てきていたが、胴上げには参加せずにバンザイをしていた。そうそう、それでいい。変なことすると怪我をするといけないからね。後期は頼むぜ!!平山!!


武藤嘉紀 武藤嘉紀
俺らと一緒に世界を駆け抜けろ
武藤! 武藤!

もっと卒なくこなせるタイプだと思ったんだけど。泣きながら話す武藤の姿は、まさしく「子供」であった。武藤ではなく「よっち」であったのだ。

1年半。とても短い期間だったが、その間、我が子のように大事に見守ってきた。花束を贈呈する両親を見た時に、なんだか変な気分になったくらいだ。「あれ?ぼくは本当の親ではなかったのか!」と。

そりゃそうだ。冷静に考えれば0.1秒ですぐに間違いだとわかることだ。しかし、当たり前が当たり前ではなくなり、想像力の限界を超えたことが現実となる異世界、それがスタジアムなのである。

武藤嘉紀 武藤嘉紀
俺らと一緒に世界を駆け抜けろ
武藤! 武藤!

よっちは、スタジアムをグルリと歩いて回る(本日二周目)。この時はよっちが選んだ音楽が流れていた。結婚式のムービーで流れるようなオシャレすぎるほどオシャレな曲であった。

どういうセンスなんだよ、よっち!ぼくなら絶対にこんな曲は選ばない!でもね、なんだ品が良過ぎると感じることもあるけど、それが嫌だと思ったことはない。本当に大好きだ!!

我々はYou'll never walk aloneを歌い、よっちはスタジアムを歩いていく。その周りをマスメディアが囲んでいる。スーパースターだ!

カメラ、近すぎませんか?!

よっちの後ろについて回るドロンパ

東京が産んだスーパースタ-!

武藤嘉紀なんてただの子供さ。俺たちの前ではよっちのままなのだ。よっちは、何でも出来るように見えるけど、大舞台でシュートを決めることも出来ないし、大事なスピーチで号泣してしまうようなやつなのだ。

もしかしたら、自分でハットトリックを決めて、見事なスピーチをされたら、嬉しさと同時に何だか寂しい気持ちになったかもしれない。俺たちのよっちはこれでいい。これで良かったのだ。

オーレ オレオレオレ
よっちー よっちー

愛情溢れるFC東京を離れ、武藤は世界へと挑戦する。リスクは高い。確実に成功出来るとは限らない。全然上手くいかずに試合に出られない可能性も十分にある。

「日本に帰ってきたら、是非またFC東京に暖かく迎えて頂けると嬉しいです……」

よっちは、大泣きしながらこう言っていた。

もちろんだ!!
いつだって構わない。
ここは、あなたの家なのだから。

いってらっしゃい!よっち!


ぼくはFC東京を応援し始めてまだまだ歴が浅い。でも、トップチームでの武藤の物語には全て参加することが出来た。

本当はもっと長く見ていたかった。しかし、支持しよう。武藤のすべてを支持しよう。武藤がいないのは寂しいけど、FC東京には素晴らしい選手が揃っているのだ。

中島翔哉や橋本拳人の出番が増えるかもしれないし、ヨネや平山も戻ってくる。前田にも復調の気配があるし、ナオも怪我から戻ってきた。東のシュートも何だか入りそうな予感がしてきた。

2ndステージは優勝だって狙えるし、プレーオフに出たらお祭り大好き青赤軍団の本領発揮だ。そして、ACLに出場が決まったら世界の何処だろうとついていくぜ!!

武藤嘉紀は旅に出た。しかし、ぼくと、あるいは俺たちとFC東京の物語は決して終わらない。ずっとずっと続いていく。

ずーっと。ずーーーーっと。

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結論
武藤嘉紀の物語を経て、FC東京のことが一層好きになった!

 

 

東京!!!

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