勝つことは出来なかったが、負けたわけでもない。にも関わらず、心には「負けた」という意識が染みついている。日本は確かに負けていないが、シンガポールにしたら勝ちも同然の勝利なのである。
ゴール裏から応援していたから、どこで誰がどうなったという戦術的なことは正確には把握できていない。しかし、ビッグチャンスを何度も逃してきたのは間違いないことだし、その悔しさが積み重なっていくうちに、心の中に「負け」という印象が刻み込まれていったのだろう。
それでも、最後まで得点を決めてくれることを信じて応援した。最近はゴール裏で観戦する機会が減っていることもあって、最初はうまく声が出なかった。でも、ハーフタイムで一回休んでからの後半は、太く大きな声が出せるようになった(最近ゴール裏行ってなかったのが良くなかったらしい)。
ぼくのいたエリアは、ゴール裏の中心部から少し離れたところで、声を出して応援している人はあまりいなかった。でも、こういう場所でこそ、大きな声で応援したい。それで何が変わるのかはわからないが、何かを変えるには、何かをするしかないのだ。
ところで、シンガポール戦は随分と硬派な応援だったように思う。ニッポンコール、バモニッポン、エンターテナーがほとんど全てで、後は選手チャントをいくつかやった程度であった。そこには「W杯予選では浮かれてる暇なんかねぇよ!」というようなメッセージを感じたのだけど、どうだろうか。
大切なのは巻き込むことだ。周囲の人に「おまえら声出せよ!」と怒鳴ってもあまり効果がないのだ。これは、ぼくらがブラジルで学んだことだ。それより、どんな展開でも、少なくとも試合をしている間は楽しむべきだし、楽しく応援して周囲を巻き込めるようになるべきなのだ。
一緒に観戦していた9歳のサッカー少年は、横で応援しているぼくの真似をして、チャントを覚えて大声で応援してくれた。
「応援席はとても楽しかった。また来たい!」
と言ってもらえたのでとても嬉しかった。
常に、スタジアム中を巻き込む100%の応援が出来ればベストかもしれないが、代表戦ではそう簡単ではない。瞬間的にスタジアム全体が一つになれたらそれでいいのではないかと思う。そういう意味では、昨日の応援は及第点な瞬間もあって、勝負所では良い雰囲気を作れていたと思う(W杯でのアルゼンチンやコロンビアは凄かったけど、試合中ずっと凄かったわけではないのだ)。
太田宏介がコーナーにボールを置いた時、ゴール裏からの大声援に加えて、スタンドからも巨大な拍手の群れが落ちてきた。得点の期待は高まり、何かが起こりそうな予感がした。
しかし、何も起こらなかった。何度も何度も迎えたチャンスを逃し続けたのが、サポーターの応援が悪いせいだとするのは、最早オカルトの世界だ。根拠はない。
試合結果が望まないものになるたびに「俺以外の誰かが悪い!」と怒りをまき散らす者を見かけるが、その先には何もない。
日本代表が弱かったから引き分けに終わった。あるいは、シンガポール代表が粘り強く戦い続けたから、引き分けにまで持ち込めたのだ。20回試合をしたら、19回は日本が勝ちそうな内容だった。それでも勝てないことがある。それ以上でも以下でもない。
それがサッカーというものだ。やはりサッカーとは人生なのである。どうやってもうまくいかないこともある。うまくいっていたとしても勝てないことだってあるのだ。
それでも――。それでも、日本代表は勝たなければならなかった。
日本を代表して戦っている以上、勝ち続けなければならない。
「初めてスタジアムで見た日本代表の試合だったから、勝つところが見たかった。」
共に観戦した少年の素直な感想を聞いて強く思った。日本代表が背負っているものは、途方もなく重いものなのである。
我々サポーターは、日本代表と共に「敗北」を味わった。もちろん、厳密な意味での敗北ではないが、そういって差し支えはあるまい。
敗者には冷たい雨が降り注ぐ。
試合の終盤に風が冷たくなり、ポツポツと雨が降ってきた。そして雷鳴が轟く。誰もが暗示的な意味を感じたことだろう。これが映画ならば、試合結果を象徴するために、こういう演出をしたに違いないと。
もちろん、現実をいうとただの偶然である。試合に勝とうが負けようが、同じタイミングでゲリラ豪雨は訪れたはずだ。
敗者には冷たい雨が降り注いだ。
浦和美園駅へと向かう道は地獄と化していた。ああ、この地獄。地球の裏側でコートジボワールに負けた時にも味わったものだ。あの時の雨もどうしようもなく冷たかった。
しかし、どんな冷たい雨もいつか必ず晴れ上がる。ロシアW杯で日本代表が勝ち上がっていき、日本中が歓喜の祝杯をあげる日を願いながら、ぼくに出来ることをやっていきたいと思う。応援する楽しさをもっと表現していきたい(だから……まず、ブラジルW杯のことを書かなければ!!)。
北健一郎さんのTweetを見てはっとしたのだ。
日本代表がシンガポールと引き分けたことに対して、「油断してた」という人がいるけど、僕の目には油断してるようには見えなかった。攻守の切り替えは速かったし、球際も頑張ってた。むしろ足りなかったのは「遊び心」じゃないかな。サッカーって真面目にやるだけじゃ勝てないスポーツですからね。
— 北健一郎 (@kitaken1ro) 2015, 6月 17
遊び心が足りない。確かにそうだった。真剣勝負でふざけてはならないというのは一つには真実なのだが、相手をおちょくるくらいの余裕を持ったプレーを見せても良かったのかもしれない。確かに、日本代表選手にも、サポーターにも遊び心はなかった。
やっぱり楽しくやらなくちゃいけない。
シンガポール代表、頑張ったよ。GK、誰だか知らないけど本当に凄かった。ノイアーだって一点くらい取られていたかもしれないぜ。
負けた負けたという気持ちになっていたが、別に負けたわけではない。勝ち点1は取れたし、まだ二次予選の初戦だから立て直す時間は十分にあるのである。次の試合では勝利の美酒を飲ませてくれることを期待したい!!
上申 ハリルホジッチ殿
「太田宏介のコーナーキックを決められる可能性が最も高いのは、ベンチに座っていた森重真人でござります。」
一緒にpodcast番組『ハトトカ』を始めた松田はこんなのを書いていた。
こんなの
松田らしい、松田にしか書けない、松田にしか解読できない箇所がいくつかあるオリジリティか溢れすぎた文章。