コービー、もういいよ、もう十分だよ。
お願いだからもう休んでよ。
これ以上やったら取り返しがつかないことになる。
どうせ、今年は優勝するのは難しいんだから、来年また頑張ればいいじゃないか。
コービー……
美味しすぎる牛肉、神戸牛にちなんで、その名をつけられた男。
ぼくは正直あまり好きではなかった。
利己的な性格、スキャンダル、シャックとの喧嘩、レイカーズが勝てない時代には移籍願望を吐露し続けた。
もう少し「空気が読める」選手の方が好きなのだ。
だから、コービーとレイカーズを応援したことは今まで殆どなかった。
大抵は対戦相手のほうを応援していた。
セルティックス、サンズ、サンダー、スパーズ……
けど、今のコービーは応援せざるを得なかった。
今年のレイカーズは、「いんちき」と言ってもいいくらいの補強をして、最強のチームの一角になったはずだった。
ところが、チームが全く噛み合わない状態が続き、負けを重ねていった。
圧倒的な優勝候補のはずが、プレーオフ進出すら危うい状況に追い込まれた。
普通にやっても勝てない。
そこでレイカーズがとった作戦は、「すべてをコービに託す」というものだ。
大半のオフェンスをコービーの1on1から始める。
コービーが一人抜き、二人目を引き寄せてそのままシュートにいったり、そこからパスをしたりする。
何もかもがコービーにかかっている。
これはもはや作戦とすら言えないかもしれない。
でも、こうじゃなくては勝てないということがわかってしまったのだろう。
「作戦コービー」を始めてからのレイカーズは強かった。みるみる順位を上げていった。
シーズンを残り3試合とした段階で、プレーオフ進出の権利を持つ8位にまで登り詰めた。
しかし、9位との差はわずか1ゲーム。一敗ですら許されない状況だ。
今日の対戦相手は、ゴールデンステイトウォーリアーズ。
「支配的な3Pシューター」へと成長したステファン・カリーと、
「何だかわからないけどとにかくうまい」クレイ・トンプソンのデュオが強烈。
「何気に頭脳派のような気がしてきたビッグマン」デヴィッド・リーもインサイドを支えていて、とてもバランスが良いチームだ。
このチームに勝つためには、俺が何とかしなければ……
そう思ったのだろう、34歳のコービーは休みなしの出ずっぱりだった。
身体の節々が痛むのか、接触プレイの後はうずくまって立てなくなることも何度かあった。
それでも、コービーはコートに立ち続けた。
もういいよ、もう休んだらいいよ。
どうせプレーオフに出たって、スパーズかサンダーが相手なんだから。
そんなボロボロの身体じゃどうにもならないよ、勝てるわけがない。
いや、もう休んでくれよ……
見てられないよ……
そう呟きながらも試合から目を離すことはできなかった。
コービーは足を引きずりながらも4Qに連続でスリーポイントを決めて、劣勢の試合を振り出しに戻した。
勝負所になってもレイカーズのオフェンスに工夫はない。
コービーにボールを渡し、スリーを強引に撃たせるか、ドライブインから個人技で打開させるかだ。
そして、残り時間3分。
コービーはドライブに行く一歩目を踏んだ後転倒した。
酷使されてきた彼の足はもう限界だったようだ。
ゆっくり歩くだけで精一杯な状態になっていた。
アキレス腱が断裂している可能性もあるらしい。
常人なら立っているだけでもつらいだろう。
そんな状態でもコービーは2本のFTを決めた。
試合が始まって45分。そのうち45分間出続けた男はついにベンチに下がった。
いや、ロッカールームに下がった。
もう試合には戻ってこない。
そこで発憤するレイカーズのメンバー。特に血の気の多い男、ワールドピース。
コービーがボロボロになりながらつないできた試合。
これを落としたら男じゃない!!!!
そこからのレイカーズには鬼気迫るものがあった。
がソールが、スペイン代表の時を超える気迫を見せて叫んでいたのには驚いた。
オフェンスは成功していなかったが、ガソールには紛れもなくコービーが宿っていた。
その猛烈な気迫に押されたのか、カリーの支配力は失われた。
薄氷を踏むような3分間が経過した後、レイカーズの勝利が決定した。
プレーオフにはあと2つ勝てば行くことができる。
けど、恐らくコービーは戻ってこないだろう。
エースを失った傷だらけのレイカーズは一体どうなるのか。
プレーオフに行っても1回戦を突破するのは難しいだろう。
でも、応援しなくてはいけない。そんな気分にさせられた。
今シーズンこれだけ頑張ったコービーには、少しでも幸せになってく欲しい。