書店の仕事を退職して以来、どうしたものかとだいぶ悩んでいたのだが、徐々にやるべきことが定まってきた。
そして、ぼくは、エロ仕事に手を染めることにした。いやいや、実は前から興味はあったのだが、なかなか難しい分野なので攻めあぐねていたのだ。実は一番お金になるのはエロなのである。
なぜなら人はエロのために生きているからだ。
昔mixi日記の公開記事を書いていて唖然としたことがある。「タイトルにエロ」と入れた瞬間にすごい数の足跡があったのだ。これはどういうことかというと、「エロ」というワードで検索している人物がたくさんいるということである。
ああ、エロなんだなと思った次第だ。
身近なマーケティング方法について書いた名著『一行バカ売れ』(角川新書)でも、「セックスは売れる」という表現で紹介されている。
余談だが、書店員時代、このメソッドに基づきこういう本を仕入れたことがある。
『なぜペニスはこんな形なのか』(化学同人)
あとちょっとダイレクトだけど、これとか。
『ホモセクシャルの世界史』
ちなみに、両方ともちゃんと売れた。流石『一行バカ売れ』である。
というわけで、二児の父でありながら、背に腹は抱えられぬということで、お金になるエロ仕事に手を出したのである。
その仕事とは、「猥談メルマガ」への寄稿である。
正式名称は『佐伯ポインティの猥談タウン回覧板』。
佐伯氏は、コルクラボというコミュニティのスタッフをしていて、当日勤めていた渋谷の書店で知り合った。最初は他人への好奇心があふれる面白い人だなぁと思っていたのだが、実は面白い人ではなかった。
面白すぎる人であったのだ。
知り合って少ししたあと、美しき天才漫画家のあんじゅ先生と3人で飲みに行ったことがあるのだが、まぁ面白い。面白いというかおもしれー。すごい生き物を見たなと感じた。あの時の3人の飲み会は録画しておけば高値で売れたと思う。
その佐伯ポインティ氏は、独立して、エロデューサーと名乗りはじめ、エロ事業に手を出し始めた。その先駆けとして、メルマガを発行し始めたのだ。
これがメールボックスに送られてくると破壊力抜群だ。
第一号「夢精してもハッピーになれる」。
第二号「貞操帯ってアマゾンプライムで頼めるんだ……」
第三号「僕たちはオナニーしながら、尊い時間を生きている。」
こんな状態である。それぞれ字数が2万字程度あるらしいので、相当なものである。
ところでぼくは、大学院で「繁殖生態学」にカテゴライズされる研究をしていたので、人間を含む生き物がどのように性行動を行うのかについて非常に興味があるのだ。
「ゲヘヘ、いいケツしとるな」というようなオゲレツさはないものの、性的な内容を語るのは、ぼくにとっても楽しいことなのである。ヒトの繁殖生態である。
というわけで、第二号には「猥談生態学入門 序論アワビが精を放つ時」を寄稿した。第四号には「カクレクマノミのお兄さんがお姉さんになる時」が掲載される予定だ。
アワビと人間では、性行動も性的エクスタシーも大きく異なるはずだが、はて、アワビの気持ちになったらどうなるだろうかと考察したのが一つめ。
二つめは、小さなコミュニティを作り、その中で性転換しながらパートナーを変えるカクレクマノミに喩えながら、性的な新感覚を探ってみた。
タイトルは堅苦しいが、ゆるめのエッセイである。本物の生態学者には多分怒られる。けど、クレームをつけてくるヤツがいたら、その人の所属組織に連絡するからいいのである。この人、猥談メルマガ取ってますよーって。
というのは冗談である。そうそう海洋生物については多分そこまで外さない。陸生の生き物について書くときがちょっとしたチャレンジなのである。
さて、性的な内容を語ろうと思ったら実は結構難しい。というのも、どうしても自分の実体験、あるいは他人の実体験を語るしかなくなるからだ。
それはイージーなようで、あっという間にネタが尽きるという大問題を抱えている。しかし、若かりし頃に愛読した岸田秀や栗本慎一郎のエロへの語り口は、違っていた。個人の性欲をまったく表に出さずに、冷静かつ知的に、人間の性行動について分析していた(学者が学術的に語っているのだから当然なのだが)。
『パンツをはいたサル 人間は、どういう生物か』(光文社カッパサイエンス)
『ものぐさ精神分析』(中公文庫)
この二冊は本当に面白い。不朽の名作。
さて、シモの話というのは、「陰部」とかいう言葉があるように、日の当たるところで話すべきものではない認識されている。
ぼくも、「ゲヘヘなオゲレツ性」は、やはり太陽が隠れた後、夜の神様デュオニソスしか見ていないところで表出するべきだと思っている。
そうじゃないと、夜は夜ではなくなり、性欲は性欲として機能しなくなるからだ。
岸田秀は、西洋人にとって性的快感を得ることは神への挑戦だと書いていた。性的衝動に突き動かされるということは、姦淫に覚えれることを禁じた神の教えに逆らうことになるのだ。
だから意義も生じるし、気持ちよさも感じるのである。禁止されているからこそ、やってみたくなるという心理である。
日本では、神のしばりはないものの、社会的な縛りは多く、とりわけ「恥」の概念は強い。現代では、性的な話題をオープンにする人も増えてきたが、少し前には、公の場で語られることはほとどなかったように思う。
性行為をすることが恥ずかしいと感じられなくなっているのだ。
しかし、岸田秀の分析では、日本人にとっての性行為は「恥」との戦いであった。恥ずかしいからこそ、やりがいを感じるという理屈である。
現代では、性についてあけっぴろげに語られる時代になりつつある。朝からテレビを見れば、落語の師匠が女性と亀戸のホテルで打ち合わせしていただの、体操選手が夜のウルトラCだの、下品きわまりない話題が次から次へと流れてくる。
そんな時代だからこそ、人々はついに性的に解放される……かと思いきや、出生率は下がる一方だし、結婚したくないという声が報道を通じて流れてくることも増えた。
やっぱり恥ずかしいものとして封印しておかないと駄目なのかね?
そんなことを思っていた矢先、人口減に悩むこの惑星をZ戦士たちが救いにやってきたのである。
それが「佐伯ポインティと猥談メルマガ」である。少子化、人口減、それに伴う先行きの暗さに悩む日本の救世主になるかもしれない。
性的な技法を教えるというのは、AV男優のしみけんさんとか、スローセックスを提唱するアダム徳永さんなど定期的に出現する。
『SHIMIKEN's BEST SEX 最高のセックス集中講義』(イーストプレス)
(こっそり読みたい人はKindle版を読むといいですよ、ニヤリ)
『男は女を知らない 新・スローセックス実践入門 』(講談社+α新書)
しかし、我々が必要としているのは、快楽を最大化するための小技ではない。サッカーに喩えるなら、フリーキックとか、リフティングとか、ドリブルなどの小技ではないのである。
大事なのは戦術であり、さらにいうなら戦略である。戦術・戦略と言っても、どうやって「密室での会合」まで持ち込むかという話ではない。携帯のガラスが割れていて、鞄の中身が整理されていない女性は狙い目とか、その手のノウハウではないのだ。
日本文化が、性についてどう向き合っていくべきかを改めて問いただし、再構築していくべきなのだ。
「秘め事だから」という理由では、日本人は子孫を残していかない。秘めておく必要もなくなってしまったし、さらにいうなら、ネット文化の進展により露見する可能性が高まった。なので、「秘められない」世の中になったのもあるのかもしれない。
岸田秀の時代とはまた違った「性に向かう態度」を発見することが、現代社会における重要課題なのではないか。
そもそも、日本人は非常に淫乱な民族であった。と書くとだいぶ誤解があるが、性的にはオープンであったのだそうだ。
しかし、明治維新以降、西洋的な価値観が「薄っぺらい形」で移入され、定着していった。何が薄っぺらいのかというと、西洋的な価値観は、キリスト教があって初めて機能するものなので、縛りの小さな大乗仏教の徒(日本人の大多数は無宗教ではなく無自覚な大乗仏教徒)にとっては、生徒を全員丸刈りにする「理不尽な校則」のようなものなのだ。
日本人を主体とした日本国が続いていくためには、日本人らしい「性に対する態度」を取り戻す必要がある!!
ここで日本人という用語を使ったが、あまり厳密な言葉ではなく、日本に住み、日本語を話し、日本文化に愛着を持つ者であれば、国籍は問わない。ぼくはそういう考えを持っている。
フランシスフクヤマがどこかで書いていたのだが、日本文化の「鍵」は日本語なのだそうだ。日本語を使わないと日本という国は見えてこない。
「日本とは日本語である」と言われると非常に説得力を感じる。
さておき。
「猥談メルマガ」には、高学歴の男性にか性的興味を持たないサピオセクシャルの女性が登場する(高校の学歴のみに反応するそうなので、ぼくには興味がないということになる)。
男性の社会的な文脈に対して性的な価値を見い出すのは何も変わったことではないが、性癖までいくのは珍しいのではないだろうか。
これは「人間的な性癖」である。
次の号には、渡り歩くコミュニティで、1人以上の男性と関係を持っていきながらも、コミュニティを崩壊させないように細工をしていく魔性の女が登場する。
この話は、人間的なのか、動物的なのか。あるいは西洋的か、東洋的か(この二項対立が古くさいのは置いておくとして)。
何の話かわからなくなってきたが、とにかく「猥談メルマガ」は面白いので、このまま続けていこうと思う。ちなみに失職したから金に困ってという前振りで始めたのだが、原稿料はポインティ氏の出世払いなので、がんばれエロデューサー。
というわけで、『佐伯ポインティの猥談タウン回覧板』はこちらから。なかなか衝撃的な第一号が試し読みできるのでそこだけでも読んでいただきたい。
月額540円。
初月無料。
執筆陣は個性的だが、何より佐伯氏のエロに対する異常なまでの明るさが際立っている。繁殖期の野鳥が自慢げにさえずっているようなリズミカルな文章ともとても素敵なので一読の価値あり。
佐伯ポインティの猥談タウン回覧板
佐伯氏主催で、猥談バーというのを毎月やっていて、ぼくも今度行こうかと思っているので興味がある方はお声がけ下さい。こっそりね、ツイッターのリプライで送ってくるなじゃないぞ!!そこのFC東京サポ2人!!君たちだよ!
というわけで、毎日ブログ更新。4日目達成。
佐伯氏の門出を祝うためにも、是非是非拡散お願いします!!
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