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サッカー本大賞2018は、岩政大樹著『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』

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昨日はサッカー本大賞2018の授賞式であった。

しかし、急な体調不良で泣く泣く断念した。2015年に受賞して以来、参加し続けていで残念きわまりない。

授賞式では色々な人に会えるし、その後の懇親会もサッカー界の裏話が延々と聞けるので非常に楽しいのだ。

しかも今回は司会が倉敷さんだって!!

参加できなかったのは残念だが、賞が継続しているのは喜ばしいことだ。

来年は、候補者として参加できるように頑張ろう!!

サッカー本大賞 2018

2018年の大賞は、岩政大樹著『PITCH LEVEL 例えば攻撃がうまくいかないとき改善する方法』であった。

岩政大樹選手と言うと、あの日を思い出す。

2013年のJ1最終節、ぼくはカシマサッカースタジアムにいた。

その日はサンフレッチェ広島との試合で、鹿島も、広島も優勝がかかっていた。鹿島は勝ち点としてはかなり厳しい状況ではあったが(確か大差で勝たないと優勝できなかったはず)、最後まで諦めない、日本人離れしたメンタリティが鹿島の強さなのである。しかし、エースストライカーの大迫勇也が完全に押さえこまれたこともあり、敗北を喫した。

その時の鹿島アントラーズの応援「奇跡を起こせ」は、一生忘れないことだろう。負けても王者の風格であった。その時のことは、『サポーターをめぐる冒険』の一章として書き残してある。そして、その日、鹿島アントラーズを対談したのが岩政大樹選手であった。

冷え込むスタジアムで、岩政選手の退団セレモニーを一通り眺めていた。

栄光を得た広島と、優勝を逃した鹿島。

光と影。

その時点では確定してはいなかったが、大迫勇也も海外へと移籍すると囁かれていた。そして、長年チームを支えてきたセンターバックが退団するのだ。とても寒い日の夜。どこか寂しく、同時に、とても温かい思い出。

鹿島サポーターの仲間への信頼、優しさは、12月の寒さを打ち消すほど温かに感じられた。

その後、岩政大樹選手は、タイのBECテロ・サーサナFCで一年間プレーし、ファジアーノ岡山でも二年プレーした。現在はコーチ兼選手として東京ユナイテッドFCに所属している。

サポーター仲間でも、岩政選手は、文章が巧みなことでも有名だった。岩政選手が自分で本を出したら、サッカーライターは不要になるよねなんていう冗談を言う人もいた。しかし、それは思ったよりも早く実現した。

『PITCH LEVEL』によって、サッカーライターが不要になる。

正確に言うと、この本の存在によって、サッカーライターによるプレー分析が説得力を持つのが難しくなってしまうのだ。

もうちょいマイルドに言うと、単に試合を分析するだけだと、元選手、元日本代表の肩書きに絶対に勝てないのだ。もし、それが同レベルの言葉であれば、戦争を経験した人が戦争を語るのと、戦後生まれが語るのでは説得力が違うのである。

だから、自分だけの独自の書き口を発掘する必要がある。

サッカーファンやライターの多くは、「記者席LEVEL」、「テレビLEVEL」での分析をしている。それは監督的な目線ということも出来るかもしれない。選手を駒として捉えて、駒がどう動くべきかを考察するのである。

ただ、ぼくはそういう目線にはあまりピンと来ていなくて、選手目線での意見が知りたかった。しかし、選手にどういう世界が見えているのかについて書かれた文献はあまり見あたらなかった。

選手は言語化があまり得意ではないのだ。もちろん、インタビューすることは出来る。しかし、インタビューをしたりされたりするとわかるのだが、話し言葉と、書籍原稿として濃縮した言葉には決して埋められない巨大な差があるのだ。

だから、初めて『PITCH LEVEL』を手に取ったとき、ああ、すごいものが来たなと思った。J1の第一線で活躍し続けた選手が、自分の言葉で、見てきた世界を綴っているのだ。

選手本のほとんどは、インタビューに基づいてライターがまとめたもののはずだが、上述の通り、それだとどうしても濃度が低い言葉になってしまう。しかし、岩政選手は自分で書いているのだ。

審査委員の講評が掲載されていたので引用する。

設計のちゃんとした本で、ポリフォニック(多声的)な脚注の工夫にも一日の長がありました。最大の魅力は、事件現場でもあるピッチレベルからのサッカー用語に対する再定義がなされたこと。そしてそれは、マンネリ化したサッカーをめぐる言説空間を穿つものでもありました。構成者の介在することが多い選手、監督関連書籍が多い中で、著者の自律的な執筆姿勢にも注目が集まりました。(佐山)

ライターを立てず岩政さんご本人が書かれているからか、経験が生の言葉になって本に定着していると感じます。プレーする人間に対するコーチングの書であり、既存のサッカー観を揺さぶる示唆に富んだ内容と言えます。例えば、「自分たちのサッカー」「崩された失点」といった、何気なく使っているものの、厳格に定義されていない言葉を一つひとつ抽出して捉え直し、冷静にピッチレベルでできることに落とし込もうとしています。そして注釈や関連ワードで補足する丁寧さがいいですね。サッカー好き、鹿島ファンのみならず、多くの方に読み物として楽しんでもらえる一冊だと思います。(幅)

選手自身が書いていることが良くわかる内容でした。選手の自伝や聞き取り取材にあるような苦労話や自慢話でストーリーを作った感がなく、自分の経験を彼なりに冷静に、客観的にまとめ、あとに続くサッカー選手に何を残したいか、という著者の思いが伝わってきました。日本代表にもなった一流選手だからこそわかったこと、またJ1鹿島で主力選手としていくつもタイトルを獲得した後で、J2や地域リーグでも活躍している様子がうかがえて興味深く読めました。(実川)

サッカー本大賞2018の受賞作発表! - 株式会社カンゼン

これからのサッカー選手のたしなみとして「ライティングスキル」は重要になってくるかもしれない。

岩政選手という基準が出来たことで、「気持ちでやるだけです」とか「自分たちのサッカーをするだけです」みたいな言葉を紡ぐだけでは物足りないように思える時代が本格的に訪れたと言っていいように思う。

これは日本のサッカー文化が、一歩進展したことを示している。
そういう意味で、岩政選手の著作に光を当てたサッカー本大賞は非常に有意義な賞だと思う(若干のひいき目はもちろんあるが)。

読者賞は、岩政大樹選手が同時受賞。

翻訳サッカー本大賞として、『マヌエル・ノイアー伝記』(ディートリッヒ・シェルツェ=マルメリンク 著/吉田奈保子、山内めぐみ 訳 実業之日本社)が受賞。

未読なので、選考委員の実川さんの選評を引用させて頂く。

 GK系譜の本を翻訳したことがある私のイチオシでした。ノイアー自身の経歴だけでなく、なぜドイツが優秀なGKを輩出できるのかという背景に触れられているところはとても興味深い。ノイアーだけでなく、彼以前にドイツGKの系譜に連なるゼップ・マイヤーやオリバー・カーン、また彼らを育てたGKコーチについても触れられていること、そしてノイアーのようなキーパーが出てきたことで、ドイツのGKスタイルが変わり、それが世界標準になっていったことがわかる本でした。(実川)

サッカー本大賞の歴史を振り返る

2014年は、近藤篤さんの『ボールピープル』(文藝春秋)。サッカーの世界共通文化としての側面と、サッカーへの揺るぎない愛情が感じられる作品。こういう本を作ってみたいけど、高級カメラを担いで海外旅行をするのはぼくには難しそうだ。

2015年は、拙著『サポーターをめぐる冒険』(ころから)。まさかのサプライズ受賞によって、これで作家業もいけるかなぁと思いきや、そこからはなかなかの荒れ模様であった。でも、今、サッカーを見るのも、サッカーについて書くのも楽しくて楽しくてしょうがないので、ようやく一息つけた感がある。

サッカーが楽しいときは、ボールタッチする足がペタペタとスローモーションで見えるようになるという、ぼくの中での謎基準がある。今はペタペタ見える。

さぽめぐの発売からぼちぼち4年ですよ。恐ろしい。未だに感想をくれる方とかもいるので、やっぱり本を書くのは大事だなと思う次第。9割書いたまま、完成させられていない続編については、全面的に改定して、出版社に持って行こうと思う!今なら行ける気がするー!!

2016年は、下薗昌記さんの『ラストピース J2降格から三冠達成を果たしたガンバ大阪の軌跡 』(角川書店)。副題がすべてを語ってくれている通りの本である。長谷川健太監督について知るために再読してみようかな。

2017年は、ダブル受賞。
一つ目は、宇都宮徹壱さんの『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)。

賞を主催するカンゼンさんが悲願の初受賞。自前の賞なのだから、どこぞの文学賞のように自社作品を二年に一回は取らせたらいいのだが、審査委員がガチ中のガチである上、一切の忖度が通用しないので(忖度の使い方ってこれでよかったっけ?)、一切有利にならないのである。

もう一つの受賞作は『『能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター』、略して 能サポ』(講談社文庫)。審査委員長が高く評価する一方で、この本は評価できないとした審査員もいるなど評価が割れた。

確かにサッカー本としての濃度は低い。しかし、どの本よりも自由である。ワンピース理論に従えば高く評価されるべき本である(この海で一番自由なやつが海賊王だ!)。

Jリーグがより手軽で、ライトなものとして世間に認知されるきっかけになりうる本なので、素晴らしいお仕事だと思う。

そして、能町さんと宇都宮徹壱さんの対談の司会を務めさせて頂いたのはちょうど1年前。

Jリーグと相撲の魅力に共通する「下積みの物語」。能町みね子×宇都宮徹壱【「サッカー本大賞」受賞記念対談】 | フットボールチャンネル

というわけで、サッカー本2018年は、『PITCH LEVEL』でした。早速、購入して読んでみよう!!

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