フットボール批評などを出版するカンゼンが主催する第2回サッカー本大賞のノミネート作品が発表された。
そして……
なんと、『サポーターをめぐる冒険』がノミネートされた!!
ワールドカップイヤーということで、たくさんのサッカー本が出版されたにも関わらず、計12作品の中に選ばれたというのは光栄至極。
『サッカー本大賞』
「高品質なサッカー書籍こそが、日本のサッカー文化を豊かにする」というスローガンのもと、もっと多くのサッカー関連書籍が世に出て、多くの人に読まれて欲しい…という願いをこめて創設された。
「サッカー本大賞2015」は「東京国際フットボール映画祭」と同時開催!
ぼくも、サッカー本を読むことからサッカーの面白さに気付いていったので、「高品質なサッカー書籍こそが、日本のサッカー文化を豊かにする」というスローガンについては強く賛同している。
というわけで、微力ながら賞を盛り上げることに貢献できるよう、第1回の受賞作品と、今回のノミネート作品について紹介したい。
第1回となったサッカー本大賞2014(ということはノミネート作品は2013年に出版されたもの)に選ばれたのは――
大賞&読者賞
『ボールピープル』(文藝春秋)近藤篤 著
翻訳サッカー本大賞
『理想のために戦うイングランド、現実のために戦うイタリア、そしてイタリア人と共に戦う日本人』(学研教育出版)ジャンルカ・ヴィアリ、ガブリエル・マルコッティ著/田邊雅之 監修
以上の2作品が受賞作品となった。
『ボールピープル』は、サッカー仲間からの評判が非常に高い作品だ。特に、ブラジルワールドカップで出会った、旅人タイプのサッカーファンからは絶大な評価を得ていた。
ここのところ、書く方が忙しくて十分に読書時間を作れていないため、未読である(近いジャンルの人の作品を読むと、影響されて自分の文章がうまく書けなくなってしまうという事情もある。多読すれば良いというものでもないのだ)。
しかし、今回ノミネートして頂いた縁もあるので、近いうちに手にとってみるつもりだ。
『理想のために戦うイングランド、現実のために戦うイタリア、そしてイタリア人と共に戦う日本人』については、全くチェックしていなかった。興味深い内容(というかタイトル)なのでいずれ手に取ってみたい。
昨年のノミネートは8作品、詳しくは下記リンクまで。
「第1回サッカー本大賞」が今週木曜発表! ノミネート作品の魅力とは? | フットボールチャンネル | サッカー情報満載!
サッカー本大賞2015 ノミネート作品
さて、今年の「サッカー本大賞」であるが、ノミネートは以下の12作品。未読の作品がほとんどだが、一言付け加えつつ紹介していきたい。
『アギーレ 言葉の魔術師』(ぱる出版) 小澤一郎 著
丁寧な取材を経た労作で、非常に面白いという評判を聞いている。しかし、ご存じの通り、アギーレ監督には強烈な逆風が吹いている。ワールドカップまでアギーレ監督が継続して指揮をすることが確定するなら、手にとって読んでみたいと思う人は多そうだ。
『あなたの見ている多くの試合に台本が存在する』(カンゼン)デクラン・ヒル 著/山田敏弘 訳
アギーレ本のすぐ下に、八百長本がノミネートされているという恐ろしい展開…… いずれにせよ、八百長というテーマについては、我々日本のサッカーファンもしっかりと理解しておく必要がある。
Jリーグは非常にクリーンなリーグなので八百長が跋扈する世界に一足飛びになっていくとは思えない。しかし、八百長が跋扈しているリーグに選手が移籍したり、あるいはあちらから選手が来たりすることは十分想定されるのである(というか、セリエAやリーガ・エスパニョーラで八百長が発覚しているのだから、世界中のどこのリーグだって八百長はありえる)。
八百長の構造について、学術的なアプローチをしている本のようなので、若干気が重いものの(内容についても、480ページという分量についても)いずれ読んでおく必要がある本だなと感じている。
『礎・清水FCと堀田哲爾が刻んだ日本サッカー五〇年史』(現代書館)梅田明宏 著
『Jの新人 Jリーグ新加入170選手の価値 2014』がノミネートされた川端暁彦氏が、最も大賞にふさわしいと敵前逃亡推薦した本。
海外に比べると歴史の浅い日本サッカーにおいて、50年史が綴れるという偉大さが「サッカーの街・清水」にはあるようだ。学術的・資料的な書籍のようでお値段は4320円。
『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)河崎三行 著
なでしこジャパンについてのノンフィクション作品。
今のところ、なでしこ方面は観戦できていないので、内容についてもよくわからないのだが、兎にも角にも表紙がいい!!
こうやって蹴れたらきっとボールもうまく飛んでいくのであろう。しかし、体幹がガタガタで足腰が老化してきたぼくの場合は、空中でバランスを崩し、芯を外した鈍いキック音が響くのである。
『孤高の守護神 ゴールキーパー進化論』(白水社)ジョナサン・ウィルソン 著/実川元子 訳
これは読みたい!即購入を決断。お値段は3000円オーバーとそれなりなので、ちょっとお金が貯まってから……
原題が「THE OUTSIDER the history of goalkeeper」。
『サッカーデータ革命 ロングボールは時代遅れか』(辰巳出版)クリス・アンダーゼン、デイビッド・サリー 著/児島修 訳
注目している本。何故なら、ぼくもこういう本が書きたかったから。サッカーは、データを取るのがなかなか難しい競技で、同条件下での繰り返し回数も少ないため統計処理もしづらい。
CKの成功率、などを出すことは簡単だが、もっと革新的なデータコレクションを検討すれば、マネーボールのようなイノベーションが起こせるかもしれない。と、研究をやめた直後は考えていた。しかし、本格的にやろうと思えば統計学者と組まないといけない。
ただでさえ少ない報酬が半分に!挫折!
この本も購入する予定。
『サッカーと人種差別(文春新書)』(文藝春秋)陣野俊史 著
昨年何かと話題になった「サッカーと人種差別問題」についてダイレクトに扱った作品。今後、海外サッカーと日本サッカーの接点が増えて行くにつれて、この手の問題も移入されてくる傾向になるだろう。知らなかったではすまない深刻な問題であるだけに、我々サポーターサイドとしても勉強しておく必要がありそうだ。
『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった』(ころから)中村慎太郎 著
自著。Jリーグについて直接扱っているのは、この本と、川端さんの『Jの新人』の二作品。
サポーターにとっては、「恋が始まったあの頃」を思い出す追体験の書であるらしい。サポーターをうまく描けている……というよりも、著者がサポーターとして覚醒していく過程を綴っているので、「サポーター心理の教本」として関係者に読まれるという状況にもあるらしい。
はとのすを読んでいて、まだ『サポーターをめぐる冒険』を読んでいない「悪い子はいねがー」?
『Jの新人 Jリーグ新加入170選手の価値 2014』(東邦出版)川端暁彦 著
日本サッカーライターのスーパーエース川端暁彦氏のデビュー作。
正直言って若干地味に見えてしまうという弱点はある。しかし、内容は素晴らしい。長年に渡って日本サッカーの育成を見続けてきた川端氏だからこその視点で描かれている。また、育成という短期間で結論が出せない厄介な問題についての葛藤を、そのまま表現している点が秀逸だと感じた。
この本は、出版当時よりも今読んだ方が面白い。そして2年後、3年後読んでも面白い。次回作を出すとしたら少し形が変わるという噂も聞いたが、育成の現場を取材するというライフワークに加えて、一年に一冊、新人について記述する書籍を出版することも是非ライフワークにして頂きたい。
当ブログでも書評記事を書いた。
書評:川端暁彦著 『Jの新人ーJリーグ新加入170選手の価値2014』
『通訳日記 ザックジャパン1397日の記録』(文藝春秋)矢野大輔 著
ノミネート作の中で最も売れている本の1つ。
ザックジャパンの裏事情について、スタッフが書いているという「よく許可が取れたなぁ」という点を含めて、非常に価値が高い本。
現在読んでいる途中だが、懇切丁寧に日本サッカーを育てようとしたザッケローニへの敬意が募る。ザッケローニの功績を無視し、W杯で結果を残せなかった戦犯として、次に行こうとするのは明瞭に誤りであることを多くの人に気付かせてくれる。
先日一緒にサッカーをした海洋性ゴリラ研究者(@the_kawagucci)によると、「ザッケローニが最初に指摘している日本サッカーの問題点が、結局最後まで改善されなかった。」という状況が浮かび上がってくるらしい。
ザックおじさんは優しすぎたのかなとは思うものの、日本に残してくれたものはとても大きいはずだ。
『フットボールのない週末なんて ヘンリー・ウィンターが案内するイングランドの日常』(ソル・メディア)ヘンリー・ウィンター 著/山中忍 訳
footballista誌でのコラム「あの日のオールドシアター」をまとめたもの。
金欠作家としては、原稿料+印税が入るなんてなんて羨ましいんだと、邪悪な考えしか浮かばなくなっている。そういえば、『フットボール批評』誌で特集された時も、ぼくの金欠具合が紹介されていた。あと、アンチ図書館問題。
図書館の存在自体にはアンチじゃないんだけど、「『サポーターをめぐる冒険』読みましたよ。図書館に入れてもらうように申請したんですよ!」と実際に言われたことがあって、その時喜んで良いのかどうか、非常に悩んでしまった。
どうして図書館は、新刊本を購入するのだろうか。もしかしたら、現在の図書館は、出版文化とか作家の養成には全く関心がないのではないだろうか。そのような考えが浮かびあがってくる。
それは、大問題を解決せずに、自転車操業をして行く出版産業の構造的な問題にも繋がっていくかもしれない。このへんはいずれしっかりと考えて、まとめていく必要があるかもしれない。十年くらいしてサッカーが一段落したら。
閑話休題。ノミネート作品が多すぎて少し疲れてきたらしい。
footballista誌は、現在はお休みしてしまっているが(海外サッカーまで回りません……)、ずっと購読していた雑誌。このコラムについては覚えていないのだが、多分後ろの方にのっていた「細い」やつかな。
東京サポの仲間が勧めてくれたので、読んでみようと思う。
『マラカナンの悲劇 世界サッカー史上最大の敗北』(新潮社)沢田 啓明 著
1950年、ブラジルワールドカップ。
決勝戦はブラジルvsウルグアイで、リオデジャネイロのマラカナンスタジアムで開催された。観衆は20万人も集まったという。
詳しいことは忘れたが、とにかくブラジルは負けてしまう。その結果、全国民が葬式状態に突入し、あまりのショックからブラジルは代表のユニフォームカラーを変え、現在のカナリア軍団になった。
というのが表面的な理解だ。その背景を20年も取材したのがこの本らしい。ブラジルワールドカップを体験したので、あちらの空気は薄ぼんやりとは理解できているが、ワールドカップについて何かを書く前にこの本は読んでおく必要がありそうだ。
後もう一冊。『百年の水流』という日本人移民について書かれた本があってこっちも読まないといけない。これはサンパウロの資料館で購入したものだが、日本では売っていないかもしれない。
ブラジルを真似しろ、だから日本は駄目なんだ、というような論調は正直聞き飽きた。日本との相違点や、学ぶべき箇所、学ぶべきではない箇所について、もう一度向き合うべきだ。
ふー……
まとめてみると、今年のサッカー本大賞がいかに盛りだくさんであるか、またこの中にノミネートされたことがどれだけ素晴らしいことかがわかります。
「はとのす」読者の皆様も、せっかくの「祭り」なので、是非ノミネート作品を読んでみて下さい。評価が高い作品が多いので、アマゾンのレビューを読んでいるだけでも楽しめます。
サッカー本大賞では、読者賞への投票を募集しています。是非、面白かった本に投票してみて下さい。
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